老子:道経:養身第二
養身第二
天下皆知美之爲美、斯惡已。皆知善之爲善、斯不善已。
天下皆美の美たるを知る、斯れ悪なるのみ。皆善の善たるを知る、斯れ不善なるのみ。
- ウィキソース「老子河上公章句/上」参照。
- 天下 … 世の中の人々。
- 知美之為美 … 美しいものは美しいと単純に思う。
- 斯悪已 … 実はそれは醜いものである。「悪」はここでは「美」に対しての「醜」の意。
故有無相生、難易相成、長短相形、高下相傾、音聲相和、前後相隨。
故に有無相生じ、難易相成り、長短相形し、高下相傾き、音声相和し、前後相随う。
- 難易相成 … 難しいとやさしいとは相手があってこそ成り立つ。
- 長短相形 … 長いと短いとは相手があってこそ形となる。
- 高下相傾 … 高いと低いとは相手があってこそ傾斜ができる。
- 音声相和 … 音階と旋律とは相手があってこそ調和する。
- 前後相随 … 前と後ろとは相手があってこそ順序付けられる。
是以聖人、處無爲之事、行不言之教。萬物作焉而不辭、生而不有、爲而不恃、功成而弗居。夫唯弗居、是以不去。
是を以て聖人は、無為の事に処り、不言の教えを行う。万物作りて辞せず、生じて有せず、為して恃まず、功成りて居らず。夫れ唯だ居らず、是を以て去らず。
- 是以 … 「ここをもって」と読み、「それゆえに」「だから」と訳す。「以是」は「これをもって」と読み、「この点から」「これにより」と訳す。
- 聖人 … 無為自然の道を体得した人。儒家の「最も高い人徳を身につけ、知恵のすぐれた人」という意味ではない。
- 処無為之事 … 無為自然の立場にいる。
- 不言之教 … 言葉によらない教え。
- 万物作焉而不辞 … 万物が活発に働いても作為を加えない。「焉」は訓読しない。
- 生而不有 … 生育しても所有しない。「第十章」にも同じ句が見える。
- 為而不恃 … 施しても見返りを求めない。「第十章」にも同じ句が見える。
- 功成而弗居 … 功績となってもそういう地位に安住しない。「弗」は「~ず」と読み、「~しない」と訳す。
- 夫唯弗居、是以不去 … そもそもそういう地位に安住しないから、その功績が身を去らない。