六韜:戦騎第五十九
武王問太公曰、戰騎奈何。
武王、太公に問うて曰く、戦騎は奈何。
- ウィキソース「六韜」参照。
太公曰、騎有十勝九敗。
太公曰く、騎に十勝九敗有り。
武王曰、十勝奈何。
武王曰く、十勝とは奈何。
太公曰、敵人始至、行陳未定、前後不屬、陷其前騎、撃其左右、敵人必走。敵人行陳、整齊堅固、士卒欲闘、吾騎翼而勿去、或馳而往、或馳而來、其疾如風、其暴如雷、白晝如昏、數更旌旗、變易衣服、其軍可克。
太公曰く、敵人始めて至り、行陣未だ定まらず、前後属かざるには、其の前騎を陥れ、其の左右を撃たば、敵人必ず走らん。敵人の行陣、整斉堅固にして、士卒闘わんと欲するには、吾が騎、翼して去る勿く、或いは馳せて往き、或いは馳せて来り、其の疾きこと風の如く、其の暴なること雷の如く、白昼昏の如くにして、数〻旌旗を更え、衣服を変易せば、其の軍克つ可し。
- 白晝如昏 … 底本では「白晝而昏」に作るが、『直解』に従い改めた。
敵人行陳不固、士卒不闘、薄其前後、獵其左右、翼而撃之、敵人必懼。
敵人の行陣固からず、士卒闘わざるには、其の前後に薄り、其の左右を猟り、翼して之を撃たば、敵人必ず懼れん。
敵人暮欲歸舎、三軍恐駭、翼其兩旁、疾撃其後、薄其壘口、無使得入、敵人必敗。
敵人、暮に舎に帰らんと欲し、三軍恐駭するには、其の両旁を翼して、疾く其の後ろを撃ち、其の塁口に薄り、入るを得しむること無ければ、敵人必ず敗れん。
敵人無險阻保固、深入長驅、絶其糧道、敵人必飢。
敵人険阻の保固無きに、深く入りて長駆するには、其の糧道を絶たば、敵人必ず飢えん。
- 糧道 … 底本では「糧路」に作るが、『直解』に従い改めた。
地平而易、四面見敵、車騎陷之。敵人必亂。敵人奔走、士卒散亂、或翼其兩旁、或掩其前後、其將可擒。
地平かにして易く、四面に敵を見るには、車騎、之を陥れよ。敵人必ず乱れん。敵人奔走し、士卒散乱するには、或いは其の両旁を翼し、或いは其の前後を掩わば、其の将は擒にす可し。
敵人暮返、其兵甚衆、其行陳必亂。令我騎十而爲隊、百而爲屯、車五而爲聚、十而爲羣、多設旌旗、雜以強弩、或撃其兩旁、或絶其前後、敵將可虜。此騎之十勝也。
敵人暮に返り、其の兵甚だ衆ければ、其の行陣必ず乱れん。我が騎をして十にして隊を為し、百をして屯を為し、車をして五にして聚を為し、十にして群を為さしめ、多く旌旗を設け、雑うるに強弩を以てし、或いは其の両旁を撃ち、或いは其の前後を絶たば、敵将は虜にす可し。此れ騎の十勝なり。
武王曰、九敗奈何。
武王曰く、九敗とは奈何。
太公曰、凡以騎陷敵而不能破陳、敵人佯走、以車騎返撃我後、此騎之敗地也。
太公曰く、凡そ騎を以て敵を陥れて、陳を破ること能わず、敵人佯り走り、車騎を以て返りて我が後ろを撃つは、此れ騎の敗地なり。
追北踰險、長驅不止、敵人伏我兩旁、又絶我後、此騎之圍地也。
北ぐるを追い、険を踰え、長駆して止まらず、敵人、我が両旁に伏し、又我が後ろを絶つは、此れ騎の囲地なり。
往而無以返、入而無以出、是謂陷於天井、頓於地穴。此騎之死地也。
往きて以て返る無く、入りて以て出づる無きは、是を天井に陥り、地穴に頓むと謂う。此れ騎の死地なり。
所從入者隘、所從出者遠、彼弱可以撃我強、彼寡可以撃我衆。此騎之沒地也。
従りて入る所は隘く、従りて出づる所は遠く、彼の弱は以て我が強を撃つ可く、彼の寡は以て我が衆を撃つ可し。此れ騎の没地なり。
大澗深谷、翳茂林木、此騎之竭地也。
大澗、深谷、翳茂、林木は、此れ騎の竭地なり。
- 翳茂 … 底本では「翳薉」に作るが、『直解』に従い改めた。
左右有水、前有大阜、後有高山、三軍戰於兩水之間、敵居表裏、此騎之艱地也。
左右に水有り、前に大阜有り、後ろに高山有り、三軍、両水の間に戦い、敵、表裏に居るは、此れ騎の艱地なり。
敵人絶我糧道、往而無以還、此騎之困地也。
敵人、我が糧道を絶ち、往きて以て還る無きは、此れ騎の困地なり。
- 還 … 底本では「返」に作るが、『直解』に従い改めた。
汙下沮澤、進退漸洳、此騎之患地也。左有深溝、右有坑阜、高下如平地、進退誘敵、此騎之陷地也。
汙下沮沢、進退漸洳たるは、此れ騎の患地なり。左に深溝有り、右に坑阜有り、高下、平地の如くにして、進退、敵を誘うは、此れ騎の陥地なり。
此九者、騎之死地也。明將之所以遠避、闇將之所以陷敗也。
此の九なる者は、騎の死地なり。明将の遠ざかり避くる所以にして、闇将の陥り敗る所以なり。
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