文王（ぶんおう）、太公（たいこう）に問（と）うて曰（いわ）く、君臣（くんしん）の礼（れい）は如何（いかん）。太公（たいこう）曰（いわ）く、上（かみ）と為（な）りては唯（た）だ臨（のぞ）み、下（しも）と為（な）りては唯（た）だ沈（しず）む。臨（のぞ）みて遠（とお）ざかる無（な）く、沈（しず）みて隠（かく）す無（な）し。上（かみ）と為（な）りては唯（た）だ周（あまね）く、下（しも）と為（な）りては唯（た）だ定（さだ）まる。周（あまね）きは天（てん）に則（のっと）るなり。定（さだ）まるは地（ち）に則（のっと）るなり。或（ある）いは天（てん）、或（ある）いは地（ち）にして、大礼（たいれい）乃（すなわ）ち成（な）る。

文王（ぶんおう）曰（いわ）く、主（しゅ）の位（くらい）は如何（いかん）。太公（たいこう）曰（いわ）く、安徐（あんじょ）にして静（せい）に、柔（じゅう）節（せつ）にして先（ま）ず定（さだ）まり、善（よ）く与（あた）えて争（あらそ）わず、心（こころ）を虚（むな）しくして志（こころざし）を平（たい）らかにし、物（もの）を待（ま）つに正（せい）を以（もっ）てす。

文王（ぶんおう）曰（いわ）く、主（しゅ）の聴（ちょう）は如何（いかん）。太公（たいこう）曰（いわ）く、妄（みだ）りに許（ゆる）す勿（な）かれ、逆（むか）えて拒（ふせ）ぐ勿（な）かれ。之（これ）を許（ゆる）さば則（すなわ）ち守（まも）りを失（うしな）い、之（これ）を拒（ふせ）がば則（すなわ）ち閉塞（へいそく）す。高山（こうざん）は之（これ）を仰（あお）ぐも、極（きわ）む可（べ）からざるなり。深淵（しんえん）は之（これ）を度（はか）るも、測（はか）る可（べ）からざるなり。神明（しんめい）の徳（とく）、正静（せいせい）にして其（そ）れ極（きわ）まれり。

文王（ぶんおう）曰（いわ）く、主（しゅ）の明（めい）は如何（いかん）。太公（たいこう）曰（いわ）く、目（め）は明（めい）を貴（たっと）び、耳（みみ）は聡（そう）を貴（たっと）び、心（こころ）は智（ち）を貴（たっと）ぶ。天（てん）下（か）の目（め）を以（もっ）て視（み）れば、則（すなわ）ち見（み）ざる無（な）し。天（てん）下（か）の耳（みみ）を以（もっ）て聴（き）けば、則（すなわ）ち聞（き）かざる無（な）し。天（てん）下（か）の心（こころ）を以（もっ）て慮（おもんぱか）れば、則（すなわ）ち知（し）らざる無（な）し。輻輳（ふくそう）して並（なら）び進（すす）めば、則（すなわ）ち明（めい）蔽（おお）われず。