六韜:戦車第五十八
武王問太公曰、戰車奈何。
武王、太公に問うて曰く、戦車は奈何。
- ウィキソース「六韜」参照。
太公曰、歩貴知變動、車貴知地形、騎貴知別徑奇道。三軍同名而異用也。凡車之戰、死地有十、勝地有八。
太公曰く、歩は変動を知るを貴び、車は地形を知るを貴び、騎は別径奇道を知るを貴ぶ。三軍、名を同じうして用を異にするなり。凡そ車の戦いは、死地十有り、勝地八有り。
- 凡車之戰 … 底本に「戰」の字はないが、『直解』にあるので補った。
武王曰、十死之地奈何。
武王曰く、十死の地は奈何。
太公曰、往而無以還者、車之死地也。越絶險阻、乗敵遠行者、車之竭地也。前易後險者、車之困地也。陷之險阻而難出者、車之絶地也。
太公曰く、往きて以て還る無きは、車の死地なり。険阻を越絶し、敵の遠行に乗ずるは、車の竭地なり。前は易にして後ろは険なるは、車の困地なり。之を険阻に陥れて出で難きは、車の絶地なり。
圯下漸澤、黒土黏埴者、車之勞地也。左險右易、上陵仰阪者、車之逆地也。殷草横畝、犯歴浚澤者、車之拂地也。車少地易、與歩不敵者、車之敗地也。後有溝瀆、左有深水、右有峻阪者、車之壞地也。日夜霖雨、旬日不止、道路潰陷、前不能進、後不能解者、車之陷地也。
圯下漸沢、黒土黏埴するは、車の労地なり。左は険、右は易、陵に上り阪を仰ぐは、車の逆地なり。殷草、畝に横たわり、浚沢を犯歴するは、車の払地なり。車少なく地易にして、歩と敵せざるは、車の敗地なり。後ろに溝瀆有り、左に深水有り、右に峻阪有るは、車の壊地なり。日夜霖雨し、旬日止まず、道路潰陥して、前は進むこと能わず、後ろは解くこと能わざるは、車の陥地なり。
- 浚澤 … 底本では「深澤」に作るが、『直解』に従い改めた。
此十者、車之死地也。故拙將之所以見擒、明將之所以能避也。
此の十の者は、車の死地なり。故に拙将の擒とせらるる所以にして、明将の能く避くる所以なり。
武王曰、八勝之地奈何。
武王曰く、八勝の地とは奈何。
太公曰、敵之前後、行陳未定、即陷之。旌旗擾亂、人馬數動、即陷之。士卒或前或後、或左或右、即陷之。陳不堅固、士卒前後相顧、即陷之。前往而疑、後往而怯、即陷之。三軍卒驚、皆薄而起、即陷之。戰於易地、暮不能解、即陷之。遠行而暮舎、三軍恐懼、即陷之。
太公曰く、敵の前後、行陣未だ定まらざるは、即ち之を陥れよ。旌旗擾乱し、人馬数〻動くは、即ち之を陥れよ。士卒或いは前み、或いは後れ、或いは左し、或いは右するは、即ち之を陥れよ。陣、堅固ならず、士卒前後相顧みるは、即ち之を陥れよ。前に往きて疑い、後ろに往きて怯るるは、即ち之を陥れよ。三軍卒かに驚き、皆薄りて起つは、即ち之を陥れよ。易地に戦い、暮に解くこと能わざるは、即ち之を陥れよ。遠く行きて暮に舎し、三軍恐懼するは、即ち之を陥れよ。
- 後往而怯 … 底本では「後恐而怯」に作るが、『直解』に従い改めた。
此八者、車之勝地也。將明於十害八勝、敵雖圍周、千乗萬騎、前驅旁馳、萬戰必勝。
此の八者は、車の勝地なり。将、十害八勝に明らかなれば、敵囲周し、千乗万騎なりと雖も、前に駆け旁に馳せて、万戦必ず勝つ。
武王曰、善哉。
武王曰く、善きかな。
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文伐第十五 | 順啓第十六 |
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