六韜:奇兵第二十七
武王問太公曰、凡用兵之法、大要何如。太公曰、古之善戰者、非能戰於天上、非能戰於地下。其成與敗、皆由神勢。得之者昌、失之者亡。
武王、太公に問うて曰く、凡そ兵を用うるの法は、大要何如。太公曰く、古の善く戦う者は、能く天上に戦うに非ず、能く地下に戦うに非ず。其の成と敗とは、皆神勢に由る。之を得る者は昌え、之を失う者は亡ぶ。
- ウィキソース「六韜」参照。
- 凡用兵之法 … 底本では「凡用兵之道」に作るが、『直解』に従い改めた。
夫兩陳之間、出甲陳兵、縱卒亂行者、所以爲變也。深草蓊蘙者、所以遁逃也。
夫れ両陣の間、甲を出し兵を陳ね、卒を縦ち行を乱すは、変を為す所以なり。深草蓊蘙たるは、遁逃する所以なり。
- 遁逃 … 底本では「逃遁」に作るが、『直解』に従い改めた。
谿谷險阻者、所以止車禦騎也。隘塞山林者、所以少撃衆也。坳澤窈冥者、所以匿其形也。清明無隱者、所以戰勇力也。
渓谷険阻なるは、車を止め騎を禦ぐ所以なり。隘塞山林は、少もて衆を撃つ所以なり。坳沢窈冥なるは、其の形を匿す所以なり。清明にして隠るる無きは、勇力を戦わしむる所以なり。
疾如流矢、撃如發機者、所以破精微也。詭伏設奇、遠張誑誘者、所以破軍擒將也。
疾きこと流矢の如く、撃つこと機を発するが如くなるは、精微を破る所以なり。伏を詭り奇を設け、遠く張り誑き誘うは、軍を破り将を擒にする所以なり。
- 撃 … 底本にこの字はないが、『直解』にあるので補った。
四分五裂者、所以撃圓破方也。因其驚駭者、所以一撃十也。因其勞倦暮舎者、所以十撃百也。奇技者、所以越深水渡江河也。強弩長兵者、所以踰水戰也。
四分五裂するは、円を撃ち方を破る所以なり。其の驚駭に因るは、一もて十を撃つ所以なり。其の労倦暮舎に因るは、十もて百を撃つ所以なり。奇技は、深水を越え江河を渡る所以なり。強弩長兵は、水を踰えて戦う所以なり。
- 奇技 … 底本では「奇伎」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 強弩 … 底本では「彊弩」に作るが、『直解』に従い改めた。
長關遠候、暴疾謬遁者、所以降城服邑也。鼓行讙囂者、所以行奇謀也。
長関遠候、暴疾謬遁するは、城を降し邑を服する所以なり。鼓行讙囂するは、奇謀を行う所以なり。
- 讙 … 底本では「喧」に作るが、『直解』に従い改めた。
大風甚雨者、所以搏前擒後也。僞稱敵使者、所以絶糧道也。謬號令、與敵同服者、所以備走北也。戰必以義者、所以勵衆勝敵也。
大風甚雨は、前を搏ち後ろを擒にする所以なり。偽りて敵の使いと称するは、糧道を絶つ所以なり。号令を謬りて、敵と服を同じくするは、走北に備うる所以なり。戦うに必ず義を以てするは、衆を励まし敵に勝つ所以なり。
尊爵重賞者、所以勸用命也。嚴刑重罰者、所以進罷怠也。一喜一怒、一予一奪、一文一武、一徐一疾者、所以調和三軍、制一臣下也。
爵を尊び賞を重んずるは、命を用うるを勧むる所以なり。刑を厳にし罰を重んずるは、罷怠を進む所以なり。一喜一怒、一予一奪、一文一武、一徐一疾なるは、三軍を調和し、臣下を制一する所以なり。
- 予 … 底本では「與」に作るが、『直解』に従い改めた。
處高敝者、所以警守也。保險阻者、所以爲固也。山林茂穢者、所以黙徃來也。深溝高壘、積粮多者、所以持久也。
高敝に処るは、警守する所以なり。険阻を保つは、固めを為す所以なり。山林茂穢なるは、往来を黙する所以なり。深溝高塁にして積糧多きは、持久する所以なり。
- 險阻 … 底本では「阻險」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 積 … 底本にこの字はないが、『直解』にあるので補った。
- 粮 … 「糧」の異体字。
故曰、不知戰攻之策、不可以語敵。不能分移、不可以語奇。不通治亂、不可以語變。
故に曰く、戦攻の策を知らざれば、以て敵を語る可からず。分移する能わざれば、以て奇を語る可からず。治乱に通ぜざれば、以て変を語る可からず。
故曰、將不仁、則三軍不親。將不勇、則三軍不鋭。將不智、則三軍大疑。將不明、則三軍大傾。將不精微、則三軍失其機。將不常戒、則三軍失其備。將不強力、則三軍失其職。
故に曰く、将、仁ならざれば、則ち三軍親しまず。将、勇ならざれば、則ち三軍鋭ならず。将、智ならざれば、則ち三軍大いに疑う。将、明ならざれば、則ち三軍大いに傾く。将、精微ならざれば、則ち三軍其の機を失う。将、常に戒めざれば、則ち三軍其の備えを失う。将、強力ならざれば、則ち三軍其の職を失う。
- 強 … 底本では「彊」に作るが、『直解』に従い改めた。
故將者人之司命。三軍與之倶治、與之倶亂。得賢將者、兵強國昌、不得賢將者、兵弱國亡。
故に将は人の司命なり。三軍、之と倶に治まり、之と倶に乱る。賢将を得る者は、兵強く国昌え、賢将を得ざる者は、兵弱く国亡ぶ。
- 強 … 底本では「彊」に作るが、『直解』に従い改めた。
武王曰、善哉。
武王曰く、善いかな。
巻一 文韜 | |
文師第一 | 盈虚第二 |
国務第三 | 大礼第四 |
明伝第五 | 六守第六 |
守土第七 | 守国第八 |
上賢第九 | 挙賢第十 |
賞罰第十一 | 兵道第十二 |
巻二 武韜 | |
発啓第十三 | 文啓第十四 |
文伐第十五 | 順啓第十六 |
三疑第十七 |
巻三 竜韜 | |
王翼第十八 | 論将第十九 |
選将第二十 | 立将第二十一 |
将威第二十二 | 励軍第二十三 |
陰符第二十四 | 陰書第二十五 |
軍勢第二十六 | 奇兵第二十七 |
五音第二十八 | 兵徴第二十九 |
農器第三十 |
巻四 虎韜 | |
軍用第三十一 | 三陣第三十二 |
疾戦第三十三 | 必出第三十四 |
軍略第三十五 | 臨境第三十六 |
動静第三十七 | 金鼓第三十八 |
絶道第三十九 | 略地第四十 |
火戦第四十一 | 塁虚第四十二 |
巻五 豹韜 | |
林戦第四十三 | 突戦第四十四 |
敵強第四十五 | 敵武第四十六 |
烏雲山兵第四十七 | 烏雲沢兵第四十八 |
少衆第四十九 | 分険第五十 |
巻六 犬韜 | |
分合第五十一 | 武鋒第五十二 |
練士第五十三 | 教戦第五十四 |
均兵第五十五 | 武車士第五十六 |
武騎士第五十七 | 戦車第五十八 |
戦騎第五十九 | 戦歩第六十 |