六韜:軍勢第二十六
武王問太公曰、攻伐之道奈何。太公曰、勢因敵家之動、變生於兩陳之間、奇正發於無窮之源。
武王、太公に問うて曰く、攻伐の道は奈何。太公曰く、勢いは敵家の動くに因り、変は両陣の間に生じ、奇正は無窮の源に発す。
- ウィキソース「六韜」参照。
- 勢 … 底本では「資」に作るが、『直解』に従い改めた。
故至事不語、用兵不言。且事之至者、其言不足聽也。兵之用者、其状不足見也。倏而往、忽而來、能獨專而不制者兵也。
故に至事は語らず、用兵は言わず。且つ事の至りは、其の言聴くに足らざるなり。兵の用は、其の状見るに足らざるなり。倏ちにして往き、倏ちにして来り、能く独り専らにして制せられざる者は兵なり。
- 不足見也 … 『直解』では「不定見也」に作る。
聞則議、見則圖、知則困、辨則危。
聞けば則ち議し、見れば則ち図り、知れば則ち困しめ、弁ずれば則ち危うくす。
- 聞則議 … 底本では「夫兵聞則議」に作るが、『直解』に従い改めた。
故善戰者、不待張軍。善除患者、理於未生。善勝敵者、勝於無形。
故に善く戦う者は、軍を張るを待たず。善く患いを除く者は、未だ生ぜざるに理む。善く敵に勝つ者は、形無きに勝つ。
- 善勝敵者 … 『直解』には「善」の字なし。
上戰無與戰。故爭勝於白刃之前者、非良將也。設備於已失之後者、非上聖也。智與衆同、非國師也、技與衆同、非國工也。
上戦は与に戦う無し。故に勝を白刃の前に争う者は、良将に非ざるなり。備えを已に失えるの後に設くる者は、上聖に非ざるなり。智、衆と同じきは、国師に非ざるなり。技、衆と同じきは、国工に非ざるなり。
事莫大於必克、用莫大於玄黙、動莫大於不意、謀莫大於不識。夫先勝者、先見弱於敵而後戰者也。故士半而功倍焉。
事は必克よりも大なるは莫く、用は玄黙よりも大なるは莫く、動は不意よりも大なるは莫く、謀は不識よりも大なるは莫し。夫れ先ず勝つ者は、先ず弱きを敵に見して後に戦う者なり。故に士は半ばにして功は倍す。
- 動莫大 … 底本では「動莫神」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 謀莫大 … 底本では「謀莫善」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 士 … 底本では「事」に作るが、『直解』に従い改めた。
聖人徴於天地之動。孰知其紀。循陰陽之道、而從其候。當天地盈縮、因以爲常。物有死生、因天地之形。
聖人は天地の動きに徴す。孰か其の紀を知らん。陰陽の道に循って、其の候に従う。天地の盈縮に当って、因って以て常と為す。物に死生有り、天地の形に因る。
故曰、未見形而戰、雖衆必敗。善戰者、居之不撓。見勝則起、不勝則止。故曰、無恐懼、無猶豫。用兵之害、猶豫最大。三軍之災、莫過狐疑。
故に曰く、未だ形を見ずして戦わば、衆しと雖も必ず敗れん。善く戦う者は、之に居りて撓れず。勝ちを見れば則ち起ち、勝たざれば則ち止む、と。故に曰く、恐懼する無かれ。猶予する無かれ。兵を用うるの害は、猶予最も大なり。三軍の災いは、狐疑に過ぐるは莫し、と。
善戰者、見利不失、遇時不疑。失利後時、反受其殃。故智者從之而不失、巧者一决而不猶豫。
善く戦う者は、利を見て失わず、時に遇いて疑わず。利を失い時に後るれば、反って其の殃いを受く。故に智者は之に従って失わず、巧者は一決して猶予せず。
- 善戰者 … 底本に「戰」の字はないが、『直解』に従い補った。
- 不失 … 底本では「不釋」に作るが、『直解』に従い改めた。
是以疾雷不及掩耳、迅電不及瞑目。赴之若驚、用之若狂。當之者破、近之者亡。孰能禦之。
是を以て疾雷も耳を掩うに及ばず、迅電も目を瞑するに及ばず。之に赴くこと驚くが若く、之を用うること狂うが若し。之に当る者は破れ、之に近づく者は亡ぶ。孰か能く之を禦がん。
夫將有所不言而守者神也。有所不見而視者明也。故知神明之道者、野無横敵、對無立國。
夫れ将、言わずして守る所有る者は神なり。見ずして視る所有る者は明なり。故に神明の道を知る者は、野に横敵無く、対するに立国無し。
- 横敵 … 底本では「衡敵」に作るが、『直解』に従い改めた。
武王曰、善哉。
武王曰く、善いかな。
巻一 文韜 | |
文師第一 | 盈虚第二 |
国務第三 | 大礼第四 |
明伝第五 | 六守第六 |
守土第七 | 守国第八 |
上賢第九 | 挙賢第十 |
賞罰第十一 | 兵道第十二 |
巻二 武韜 | |
発啓第十三 | 文啓第十四 |
文伐第十五 | 順啓第十六 |
三疑第十七 |
巻三 竜韜 | |
王翼第十八 | 論将第十九 |
選将第二十 | 立将第二十一 |
将威第二十二 | 励軍第二十三 |
陰符第二十四 | 陰書第二十五 |
軍勢第二十六 | 奇兵第二十七 |
五音第二十八 | 兵徴第二十九 |
農器第三十 |
巻四 虎韜 | |
軍用第三十一 | 三陣第三十二 |
疾戦第三十三 | 必出第三十四 |
軍略第三十五 | 臨境第三十六 |
動静第三十七 | 金鼓第三十八 |
絶道第三十九 | 略地第四十 |
火戦第四十一 | 塁虚第四十二 |
巻五 豹韜 | |
林戦第四十三 | 突戦第四十四 |
敵強第四十五 | 敵武第四十六 |
烏雲山兵第四十七 | 烏雲沢兵第四十八 |
少衆第四十九 | 分険第五十 |
巻六 犬韜 | |
分合第五十一 | 武鋒第五十二 |
練士第五十三 | 教戦第五十四 |
均兵第五十五 | 武車士第五十六 |
武騎士第五十七 | 戦車第五十八 |
戦騎第五十九 | 戦歩第六十 |