六韜:三疑第十七
武王問太公曰、予欲立功、有三疑、恐力不能。攻強、離親、散衆、爲之奈何。
武王、太公に問うて曰く、予、功を立てんと欲するに、三つの疑い有り、力の能わざるを恐る。強を攻め、親を離し、衆を散ずること、之を為すこと奈何。
- ウィキソース「六韜」参照。
太公曰、因之慎謀用財。夫攻強、必養之使強、益之使張。太強必折、太張必缺。攻強以強、離親以親、散衆以衆。
太公曰く、之に因り謀を慎み財を用う。夫れ強を攻むるには、必ず之を養いて強からしめ、之を益して張らしむ。太だ強ければ必ず折れ、太だ張れば必ず欠く。強を攻むるには強を以てし、親を離すには親を以てし、衆を散ずるには衆を以てす。
凡謀之道、周密爲寶。設之以事、玩之以利、爭心必起。
凡そ謀の道は、周密を宝と為す。之を設くるに事を以てし、之を玩ぶに利を以てすれば、争心必ず起る。
欲離其親、因其所愛與其寵人、與之所欲、示之所利、因以疏之、無使得志。彼貪利甚喜、遺疑乃止。
其の親を離さんと欲すれば、其の愛する所と其の寵人とに因りて、之に欲する所を与え、之に利する所を示し、因りて以て之を疏んじて、志を得しむる無かれ。彼、利を貪りて甚だ喜べば、疑いを遺して乃ち止む。
- 疏 … 底本では「䟽」に作るが、『直解』に従い改めた。
凡攻之道、必先塞其明、而後攻其強、毀其大、除民之害。淫之以色、啗之以利、養之以味、娯之以樂。既離其親、必使遠民、勿使知謀。扶而納之、莫覺其意、然後可成。
凡そ攻むるの道は、必ず先ず其の明を塞ぎ、而して後に其の強を攻め、其の大を毀り、民の害を除く。之を淫するに色を以てし、之に啗わすに利を以てし、之を養うに味を以てし、之を娯ましむるに楽を以てす。既に其の親を離し、必ず民を遠ざけしめて、謀を知らしむる勿かれ。扶けて之を納れ、其の意を覚らしむる莫く、然る後に成る可し。
惠施於民、必無愛財。民如牛馬。數餧食之、從而愛之。心以啓智、智以啓財、財以啓衆、衆以啓賢。賢之有啓、以王天下。
民に恵施して、必ず財を愛むこと無かれ。民は牛馬の如し。数〻之を餧食し、従って之を愛せよ。心は以て智を啓き、智は以て財を啓き、財は以て衆を啓き、衆は以て賢を啓く。賢の啓く有りて、以て天下に王たり。
| 巻一 文韜 | |
| 文師第一 | 盈虚第二 |
| 国務第三 | 大礼第四 |
| 明伝第五 | 六守第六 |
| 守土第七 | 守国第八 |
| 上賢第九 | 挙賢第十 |
| 賞罰第十一 | 兵道第十二 |
| 巻二 武韜 | |
| 発啓第十三 | 文啓第十四 |
| 文伐第十五 | 順啓第十六 |
| 三疑第十七 | |
| 巻三 竜韜 | |
| 王翼第十八 | 論将第十九 |
| 選将第二十 | 立将第二十一 |
| 将威第二十二 | 励軍第二十三 |
| 陰符第二十四 | 陰書第二十五 |
| 軍勢第二十六 | 奇兵第二十七 |
| 五音第二十八 | 兵徴第二十九 |
| 農器第三十 | |
| 巻四 虎韜 | |
| 軍用第三十一 | 三陣第三十二 |
| 疾戦第三十三 | 必出第三十四 |
| 軍略第三十五 | 臨境第三十六 |
| 動静第三十七 | 金鼓第三十八 |
| 絶道第三十九 | 略地第四十 |
| 火戦第四十一 | 塁虚第四十二 |
| 巻五 豹韜 | |
| 林戦第四十三 | 突戦第四十四 |
| 敵強第四十五 | 敵武第四十六 |
| 烏雲山兵第四十七 | 烏雲沢兵第四十八 |
| 少衆第四十九 | 分険第五十 |
| 巻六 犬韜 | |
| 分合第五十一 | 武鋒第五十二 |
| 練士第五十三 | 教戦第五十四 |
| 均兵第五十五 | 武車士第五十六 |
| 武騎士第五十七 | 戦車第五十八 |
| 戦騎第五十九 | 戦歩第六十 |