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六韜:発啓はつけい第十三

文王在酆。召太公曰、嗚呼、商王虐極、罪殺不辜。公尚助予憂民如何。
文王ぶんおうほうり。太公たいこうしていわく、嗚呼ああしょうおうぎゃくきわまりて、不辜ふこ罪殺ざいさつす。こうしょうわれたすけてたみうれうること如何いかん
  • ウィキソース「六韜」参照。
  • 酆 … 周代、文王が都を置いた地。今の陝西省ゆう区にあった。
  • 公尚 … 周の軍師、太公望呂尚のこと。姓は呂、名は尚、あざなは子牙。文王の祖父(太公)が待ち望んでいた人物だということで「太公望」と呼ばれた。ウィキペディア【呂尚】参照。
太公曰、王其修德以下賢、惠民以觀天道。天道無殃、不可先倡。人道無災、不可先謀。必見天殃、又見人災、乃可以謀。
太公たいこういわく、おうとくおさめてもっけんくだり、たみめぐみてもっ天道てんどうよ。天道てんどうわざわければ、となからず。人道じんどうわざわければはかからず。かなら天殃てんおうまた人災じんさいて、すなわもっはかし。
必見其陽、又見其陰、乃知其心。必見其外、又見其内、乃知其意。必見其疏、又見其親、乃知其情。
かならようまたいんて、すなわこころる。かならそとまたうちて、すなわる。かならまたしんて、すなわじょうる。
  • 疏 … 底本では「䟽」に作るが、『直解』に従い改めた。
行其道、道可致也。從其門、門可入也。立其禮、禮可成也。爭其強、強可勝也。全勝不闘、大兵無創。與鬼神通。微哉微哉。
みちけば、みちいたきなり。もんしたがえば、もんきなり。れいつれば、れいきなり。きょうあらそえば、きょうきなり。ぜんしょうたたかわず、大兵たいへいきずつくことし。しんつうず。なるかななるかな。
與人同病相救、同情相成、同惡相助、同好相趨、故無甲兵而勝、無衝機而攻、無溝塹而守。
ひとどうびょうあいすくい、どうじょうあいし、どうあいたすけ、同好どうこうあいおもむく。ゆえ甲兵こうへいくしてち、しょうくしてめ、溝塹こうざんくしてまもる。
  • 塹 … 底本では「壍」に作るが、『直解』に従い改めた。
大智不智。大謀不謀。大勇不勇。大利不利。利天下者、天下啓之、害天下者、天下閉之。
大智だいちならず、大謀だいぼうはからず。大勇たいゆうゆうならず。たいせず。てんするものは、てんこれひらき、てんがいするものは、てんこれず。
天下者、非一人之天下、乃天下之天下也。取天下者、若逐野獸。而天下皆有分肉之心。若同舟而濟。濟則皆同其利、敗則皆同其害。然則皆有以啓之、無有以閉之也。
てん一人いちにんてんあらず、すなわてんてんなり。てんものじゅううがごとし。しかしててんみなにくかつのこころり。ふねおなじくしてわたるがごとし。わたればすなわみなおなじくし、やぶるればすなわみながいおなじくす。しからばすなわみなもっこれひらりて、もっこれずるきなり。
  • 無有以閉之也 … 「以」の字は底本にはないが、『直解』に従い補った。
無取於民者、取民者也。無取民者、民利之。無取國者、國利之。無取天下者、天下利之。故道在不可見、事在不可聞、勝在不可知。微哉微哉。
たみものは、たみものなり。たみものは、たみこれす。くにものは、くにこれす。てんものは、てんこれす。ゆえみちからざるにり、ことからざるにり、ちはからざるにり。なるかななるかな。
  • 取民者也 … 底本ではこの後ろに「無取於國者、取國者也。無取於天下者、取天下者也」という文章があるが、『直解』に従い削除した。
鷙鳥將撃、卑飛斂翼。猛獸將搏、弭耳俯伏。聖人將動、必有愚色。
ちょうまさたんとすれば、ひくびてつばさおさむ。もうじゅうまさたんとすれば、みみれてふくす。聖人せいじんまさうごかんとすれば、かならしょくり。
今彼有商、衆口相惑、紛紛渺渺、好色無極。此亡國之證也。
いまゆうしょうは、しゅうこうあいまどわし、紛紛ふんぷん渺渺びょうびょうとして、いろこのむこときわまりし。亡国ぼうこくあかしなり。
  • 有 … 底本では「殷」に作るが、『直解』に従い改めた。
  • 證 … 底本では「徴」に作るが、『直解』に従い改めた。
吾觀其野、草菅勝穀。吾觀其衆、邪曲勝直。吾觀其吏、暴虐殘賊。敗法亂刑、上下不覺。此亡國之時也。
われるに、草菅そうかんこくつ。われしゅうるに、じゃきょくちょくつ。われるに、ぼうぎゃく残賊ざんぞくなり。ほうやぶけいみだして、しょうさとらず。亡国ぼうこくときなり。
大明發而萬物皆照、大義發而萬物皆利、大兵發而萬物皆服。大哉、聖人之德、獨聞獨見、樂哉。
大明たいめいはっして万物ばんぶつみなてらされ、大義たいぎはっしてまんみなせられ、大兵たいへいはっして万物ばんぶつみなふくす。だいなるかな聖人せいじんとくひとひとる、たのしきかな。
巻一 文韜
文師第一 盈虚第二
国務第三 大礼第四
明伝第五 六守第六
守土第七 守国第八
上賢第九 挙賢第十
賞罰第十一 兵道第十二
巻二 武韜
発啓第十三 文啓第十四
文伐第十五 順啓第十六
三疑第十七  
巻三 竜韜
王翼第十八 論将第十九
選将第二十 立将第二十一
将威第二十二 励軍第二十三
陰符第二十四 陰書第二十五
軍勢第二十六 奇兵第二十七
五音第二十八 兵徴第二十九
農器第三十  
巻四 虎韜
軍用第三十一 三陣第三十二
疾戦第三十三 必出第三十四
軍略第三十五 臨境第三十六
動静第三十七 金鼓第三十八
絶道第三十九 略地第四十
火戦第四十一 塁虚第四十二
巻五 豹韜
林戦第四十三 突戦第四十四
敵強第四十五 敵武第四十六
烏雲山兵第四十七 烏雲沢兵第四十八
少衆第四十九 分険第五十
巻六 犬韜
分合第五十一 武鋒第五十二
練士第五十三 教戦第五十四
均兵第五十五 武車士第五十六
武騎士第五十七 戦車第五十八
戦騎第五十九 戦歩第六十