六韜:動静第三十七
武王問太公曰、引兵深入諸侯之地、與敵人之軍相當、兩陳相望、衆寡強弱相等、未敢先舉、吾欲令敵人將帥恐懼、士卒心傷、行陳不固、後陳欲走、前陳數顧、鼓譟而乗之、敵人遂走。爲之奈何。
武王、太公に問うて曰く、兵を引いて深く諸侯の地に入り、敵人の軍と相当りて、両陣相望み、衆寡強弱相等しく、未だ敢えて先ず挙げざるに、吾、敵人をして将帥は恐懼し、士卒は心傷み、行陣は固からず、後陣は走らんと欲し、前陣は数〻顧み、鼓譟して之に乗じ、敵人をして遂に走らしめんと欲す。之を為すこと奈何。
- ウィキソース「六韜」参照。
- 強弱 … 底本では「彊弱」に作るが、『直解』に従い改めた。
太公曰、如此者、發我兵、去寇十里而伏其兩旁、車騎百里而越其前後、多其旌旗、益其金鼓、戰合鼓譟而倶起、敵將必恐、其軍驚駭、衆寡不相救、貴賤不相待、敵人必敗。
太公曰く、此の如き者は、我が兵を発し、寇を去ること十里にして、其の両旁に伏せ、車騎は百里にして其の前後を越え、其の旌旗を多くし、其の金鼓を益し、戦い合い鼓噪して倶に起たば、敵将必ず恐れ、其の軍驚駭し、衆寡相救わず、貴賤相待たず、敵人必ず敗れん。
武王曰、敵之地勢、不可以伏其両旁、車騎又無以越其前後、敵知我慮、先施其備、我士卒心傷、将帥恐懼、戦則不勝。為之奈何。
武王曰く、敵の地勢、以て其の両旁に伏す可からず、車騎、又以て其の前後を越ゆること無きに、敵、我が慮を知りて、先ず其の備えを施さば、我が士卒は心傷み、将帥は恐懼し、戦わば則ち勝たざらん。之を為すこと奈何。
- 我士卒 … 『直解』では「吾士卒」に作る。
太公曰、誠哉、王之問也。如此者、先戰五日、發我遠候、往視其動靜、審候其來、設伏而待之。
太公曰く、誠なるかな、王の問いや。此の如き者は、戦いに先だつこと五日、我が遠候を発し、往きて其の動静を視、審らかに其の来るを候い、伏を設けて之を待て。
- 誠 … 底本では「微」に作るが、『直解』に従い改めた。
必於死地與敵相避、遠我旌旗、疎我行陳、必奔其前、與敵相當、戰合而走、撃金無止、三里而還、伏兵乃起、或陥其兩旁、或撃其前後、三軍疾戰、敵人必走。
必ず死地に於いて敵と相避け、我が旌旗を遠くし、我が行陣を疎にし、必ず其の前に奔りて、敵と相当り、戦い合いて走り、金を撃つも止まること無く、三里にして還り、伏兵乃ち起ち、或いは其の両旁を陥れ、或いは其の前後を撃ち、三軍疾く戦わば、敵人必ず走らん。
- 避 … 『國譯漢文大成』には「避の字恐らくは是れ遇の字の誤ならん」との注がある。
- 疎 … 底本では「䟽」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 撃金無止 … 『直解』では「撃金而止」に作る。
- 前後 … 『直解』では「先後」に作る。
武王曰、善哉。
武王曰く、善きかな。
巻一 文韜 | |
文師第一 | 盈虚第二 |
国務第三 | 大礼第四 |
明伝第五 | 六守第六 |
守土第七 | 守国第八 |
上賢第九 | 挙賢第十 |
賞罰第十一 | 兵道第十二 |
巻二 武韜 | |
発啓第十三 | 文啓第十四 |
文伐第十五 | 順啓第十六 |
三疑第十七 |
巻三 竜韜 | |
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選将第二十 | 立将第二十一 |
将威第二十二 | 励軍第二十三 |
陰符第二十四 | 陰書第二十五 |
軍勢第二十六 | 奇兵第二十七 |
五音第二十八 | 兵徴第二十九 |
農器第三十 |
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疾戦第三十三 | 必出第三十四 |
軍略第三十五 | 臨境第三十六 |
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絶道第三十九 | 略地第四十 |
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巻五 豹韜 | |
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