六韜:国務第三
文王問太公曰、願聞爲國之大務。欲使主尊人安。爲之奈何。太公曰、愛民而已。文王曰、愛民奈何。太公曰、利而勿害、成而勿敗、生而勿殺、與而勿奪、樂而勿苦、喜而勿怒。
文王、太公に問うて曰く、願わくは国を為むるの大務を聞かん。主をして尊く、人をして安からしめんと欲す。之を為すこと奈何。太公曰く、民を愛するのみ。文王曰く、民を愛すること奈何。太公曰く、利して害する勿かれ、成して敗る勿かれ、生かして殺す勿かれ、与えて奪う勿かれ、楽しましめて苦しむる勿かれ、喜ばしめて怒らす勿かれ。
- ウィキソース「六韜」参照。
- 與 … 『直解』では「予」に作る。
文王曰、敢請釋其故。太公曰、民不失務、則利之。農不失時、則成之。不罰無罪、則生之。薄賦斂、則與之。儉宮室臺榭、則樂之。吏清不苛擾、則喜之。
文王曰く、敢えて請う、其の故を釈け。太公曰く、民、務めを失わざるは、則ち之を利するなり。農、時を失わざるは、則ち之を成すなり。罪無きを罰せざるは、則ち之を生かすなり。賦斂を薄くするは、則ち之に与うるなり。宮室台榭を倹するは、則ち之を楽しましむるなり。吏、清くして苛擾ならざるは、則ち之を喜ばしむるなり。
- 不罰無罪 … 底本では「省刑罰」に作るが、『直解』に従い改めた。
民失其務、則害之。農失其時、則敗之。無罪而罰、則殺之。重賦斂、則奪之。多營宮室臺榭以疲民力、則苦之。吏濁苛擾、則怒之。
民、其の務めを失うは、則ち之を害するなり。農、其の時を失うは、則ち之を敗るなり。罪無くして罰するは、則ち之を殺すなり。賦斂を重くするは、則ち之を奪うなり。多く宮室台榭を営みて以て民の力を疲らすは、則ち之を苦しむるなり。吏、濁りて苛擾なるは、則ち之を怒らしむるなり。
故善爲國者、馭民如父母之愛子、如兄之愛弟。見其飢寒、則爲之憂。見其勞苦、則爲之悲。賞罰如加於身、賦斂如取於己。此愛民之道也。
故に善く国を為むる者は、民を馭すること父母の子を愛するが如く、兄の弟を愛するが如し。其の飢寒を見れば、則ち之が為に憂え、其の労苦を見れば、則ち之が為に悲しむ。賞罰は身に加うるが如く、賦斂は己より取るが如し。此れ民を愛するの道なり。
- 飢寒 … 『直解』では「饑寒」に作る。
- 於己 … 底本では「己物」に作るが、『直解』に従い改めた。
巻一 文韜 | |
文師第一 | 盈虚第二 |
国務第三 | 大礼第四 |
明伝第五 | 六守第六 |
守土第七 | 守国第八 |
上賢第九 | 挙賢第十 |
賞罰第十一 | 兵道第十二 |
巻二 武韜 | |
発啓第十三 | 文啓第十四 |
文伐第十五 | 順啓第十六 |
三疑第十七 |
巻三 竜韜 | |
王翼第十八 | 論将第十九 |
選将第二十 | 立将第二十一 |
将威第二十二 | 励軍第二十三 |
陰符第二十四 | 陰書第二十五 |
軍勢第二十六 | 奇兵第二十七 |
五音第二十八 | 兵徴第二十九 |
農器第三十 |
巻四 虎韜 | |
軍用第三十一 | 三陣第三十二 |
疾戦第三十三 | 必出第三十四 |
軍略第三十五 | 臨境第三十六 |
動静第三十七 | 金鼓第三十八 |
絶道第三十九 | 略地第四十 |
火戦第四十一 | 塁虚第四十二 |
巻五 豹韜 | |
林戦第四十三 | 突戦第四十四 |
敵強第四十五 | 敵武第四十六 |
烏雲山兵第四十七 | 烏雲沢兵第四十八 |
少衆第四十九 | 分険第五十 |
巻六 犬韜 | |
分合第五十一 | 武鋒第五十二 |
練士第五十三 | 教戦第五十四 |
均兵第五十五 | 武車士第五十六 |
武騎士第五十七 | 戦車第五十八 |
戦騎第五十九 | 戦歩第六十 |