六韜:論将第十九
武王問太公曰、論將之道奈何。太公曰、將有五材十過。武王曰、敢問其目。
武王、太公に問うて曰く、将を論ずるの道は奈何。太公曰く、将に五材十過有り。武王曰く、敢えて其の目を問う。
- ウィキソース「六韜」参照。
太公曰、所謂五材者、勇智仁信忠也。勇則不可犯。智則不可亂。仁則愛人。信則不欺。忠則無二心。
太公曰く、所謂五材とは、勇・智・仁・信・忠なり。勇なれば則ち犯す可からず。智なれば則ち乱す可からず。仁なれば則ち人を愛す。信なれば則ち欺かず。忠なれば則ち二心無し。
所謂十過者、有勇而輕死者。有急而心速者。有貪而好利者。有仁而不忍人者。有智而心怯者。有信而喜信人者。有廉潔而不愛人者。有智而心緩者。有剛毅而自用者。有懦而喜任人者。
所謂十過とは、勇にして死を軽んずる者有り。急にして心速やかなる者有り。貪りて利を好む者有り。仁にして人に忍びざる者有り。智にして心怯なる者有り。信にして喜んで人を信ずる者有り。廉潔にして人を愛せざる者有り。智にして心緩なる者有り。剛毅にして自ら用うる者有り。懦にして喜んで人に任ずる者有り。
勇而輕死者可暴也。急而心速者可久也。貪而好利者可賂也。仁而不忍人者可勞也。智而心怯者可窘也。信而喜信人者可誑也。廉潔而不愛人者可侮也。智而心緩者可襲也。剛毅而自用者可事也。懦而喜任人者可欺也。
勇にして死を軽んずる者は暴す可きなり。急にして心速やかなる者は久しくす可きなり。貪りて利を好む者は賂う可きなり。仁にして人に忍びざる者は労す可きなり。智にして心怯なる者は窘む可きなり。信にして喜んで人を信ずる者は誑く可きなり。廉潔にして人を愛せざる者は侮る可きなり。智にして心緩なる者は襲う可きなり。剛毅にして自ら用うる者は事とす可きなり。懦にして喜んで人に任ずる者は欺く可きなり。
- 賂 … 底本では「遺」、『直解』では「貴」に作るが、一本「賂」に作るに従った。
故兵者國之大事、存亡之道。命在於將。將者國之輔、先王之所重也。故置將不可不察也。故曰、兵不兩勝、亦不兩敗。兵出踰境、不出十日、不有亡國、必有破軍殺將。
故に兵は国の大事、存亡の道なり。命は将に在り。将は国の輔、先王の重んずる所なり。故に将を置くこと察せざる可からず。故に曰く、兵は両つながら勝たず、亦た両つながら敗れず。兵出でて境を踰え、十日を出でずして、国を亡ぼすこと有らざれば、必ず軍を破り将を殺すこと有らん。
- 境 … 底本では「境期」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 不出十日 … 底本に「出」の字はないが、『直解』に従い補った。
武王曰、善哉。
武王曰く、善いかな。
巻一 文韜 | |
文師第一 | 盈虚第二 |
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守土第七 | 守国第八 |
上賢第九 | 挙賢第十 |
賞罰第十一 | 兵道第十二 |
巻二 武韜 | |
発啓第十三 | 文啓第十四 |
文伐第十五 | 順啓第十六 |
三疑第十七 |
巻三 竜韜 | |
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将威第二十二 | 励軍第二十三 |
陰符第二十四 | 陰書第二十五 |
軍勢第二十六 | 奇兵第二十七 |
五音第二十八 | 兵徴第二十九 |
農器第三十 |
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軍略第三十五 | 臨境第三十六 |
動静第三十七 | 金鼓第三十八 |
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