六韜:兵徴第二十九
武王問太公曰、吾欲未戰、先知敵人之強弱、豫見勝負之徴。爲之奈何。
武王、太公に問うて曰く、吾、未だ戦わずして、先ず敵人の強弱を知り、予め勝負の徴を見んと欲す。之を為すこと奈何。
- ウィキソース「六韜」参照。
太公曰、勝負之徴、精神先見。明將察之。其效在人。謹候敵人出入進退、察其動靜、言語、妖祥、士卒所告。
太公曰く、勝負の徴は、精神先ず見わる。明将は之を察す。其の効、人に在り。謹んで敵人の出入進退を候い、其の動静、言語、妖祥、士卒の告ぐる所を察す。
- 其效在人 … 底本では「其敗在人」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 妖祥 … 底本では「祅祥」に作るが、『直解』に従い改めた。
凡三軍説懌、士卒畏法、敬其將命、相喜以破敵、相陳以勇猛、相賢以威武、此強徴也。
凡そ三軍説懌し、士卒法を畏れ、其の将命を敬し、相喜ぶに敵を破らんことを以てし、相陳ぶるに勇猛を以てし、相賢とするに威武を以てするは、此れ強の徴なり。
三軍數驚、士卒不齊、相恐以敵強、相語以不利、耳目相屬、妖言不止、衆口相惑、不畏法令、不重其將、此弱徴也。
三軍数〻驚き、士卒斉しからず。相恐るるに敵の強きを以てし、相語るに不利を以てし、耳目相属ぎ、妖言止まず、衆口相惑わし、法令を畏れず、其の将を重んぜざるは、此れ弱の徴なり。
- 妖言 … 底本では「祅言」に作るが、『直解』に従い改めた。
三軍齊整、陳勢以固、深溝高壘、又有大風甚雨之利、三軍無故、旌旗前指、金鐸之聲、揚以清、鼙鼓之聲、宛以鳴、此得神明之助、大勝之徴也。
三軍斉整し、陣勢以て固く、溝を深くし塁を高くし、又、大風甚雨の利有り、三軍故無く、旌旗前に指し、金鐸の声、揚がりて以て清く、鼙鼓の声、宛として以て鳴るは、此れ神明の助けを得て、大勝するの徴なり。
- 陳勢以固 … 底本では「陳勢已固」に作るが、『直解』に従い改めた。
行陳不固、旌旗亂而相遶、逆大風甚雨之利、士卒恐懼、氣絶而不屬、戎馬驚奔、兵車折軸、金鐸之聲、下以濁、鼙鼓之聲、濕以沐、此大敗之徴也。
行陣固からず、旌旗乱れて相遶り、大風甚雨の利に逆らい、士卒恐懼し、気絶えて属かず、戎馬驚き奔り、兵車軸を折り、金鐸の声、下くして以て濁り、鼙鼓の声、湿いて以て沐するは、此れ大敗の徴なり。
- 遶 … 底本では「繞」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 濕以沐 … 底本では「濕如沐」に作るが、『直解』に従い改めた。
凡攻城圍邑、城之氣色如死灰、城可屠。城之氣出而北、城可克。城之氣出而西、城可降。
凡そ城を攻め邑を囲むに、城の気色、死灰の如くなるは、城屠る可し。城の気出でて北するは、城克つ可し。城の気出でて西するは、城降す可し。
- 城可降 … 底本では「城必降」に作るが、『直解』に従い改めた。
城之氣出而南、城不可拔。城之氣出而東、城不可攻。城之氣出而復入、城主逃北。城之氣出而覆我軍之上、軍必病。城之気出高而無所止、用兵長久。
城の気出でて南するは、城抜く可からず。城の気出でて東するは、城攻む可からず。城の気出でて復た入るは、城主逃れ北ぐ。城の気出でて我が軍の上を覆えば、軍必ず病む。城の気出でて高くして止まる所無きは、兵を用うること長久なり。
- 用兵長久 … 底本では「用曰長久」に作るが、『直解』に従い改めた。
凡攻城圍邑、過旬不雷不雨、必亟去之、城必有大輔。此所以知可攻而攻、不可攻而止。
凡そ城を攻め邑を囲むに、旬を過ぐるも雷せず雨ふらざれば、必ず亟かに之を去れ。城必ず大輔有らん。此れ攻む可きを知りて攻め、攻む可からずして止む所以なり。
武王曰、善哉。
武王曰く、善いかな。
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三疑第十七 |
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