六韜:烏雲沢兵第四十八
武王問太公曰、引兵深入諸侯之地、與敵人臨水相拒、敵冨而衆、我貧而寡、踰水撃之、則不能前。欲久其日、則糧食少、吾居斥鹵之地、四旁無邑、又無草木、三軍無所掠取、牛馬無所芻牧。爲之奈何。
武王、太公に問うて曰く、兵を引いて深く諸侯の地に入り、敵人と水に臨んで相拒ぐに、敵は富んで衆く、我は貧しくして寡く、水を踰えて之を撃たんとするも、則ち前むこと能わず。其の日を久しくせんと欲するも、則ち糧食少なく、吾、斥鹵の地に居り、四旁に邑無く、又草木無く、三軍掠取する所無く、牛馬芻牧する所無し。之を為すこと奈何。
- ウィキソース「六韜」参照。
太公曰、三軍無備、牛馬無食、士卒無糧、如此者、索便詐敵、而亟去之、設伏兵於後。
太公曰く、三軍備え無く、牛馬食無く、士卒糧無く、此の如き者は、便を索め敵を詐りて、亟かに之を去り、伏兵を後ろに設けよ。
武王曰、敵不可得而詐、吾士卒迷惑、敵人越我前後、吾三軍敗而走。爲之奈何。
武王曰く、敵は得て詐る可からず、吾が士卒迷惑し、敵人、我が前後を越えなば、吾が三軍敗れて走らん。之を為すこと奈何。
太公曰、求途之道、金玉爲主。必因敵使、精微爲寶。
太公曰く、途を求むるの道は、金玉を主と為す。必ず敵の使いに因り、精微なるを宝と為す。
武王曰、敵人知我伏兵、大軍不肯濟、別將分隊、以踰於水、吾三軍大恐。爲之奈何。
武王曰く、敵人、我が伏兵を知りて、大軍肯えて済らず、別将、隊を分ちて、以て水を踰え、吾が三軍大いに恐る。之を為すこと奈何。
太公曰、如此者、分爲衝陳、便兵所處、須其畢出、發我伏兵、疾撃其後、強弩兩旁、射其左右、車騎分爲烏雲之陳、備其前後、三軍疾戰。敵人見我戰合、其大軍必濟水而來。發我伏兵、疾撃其後、車騎衝其左右。敵人雖衆、其將可走。
太公曰く、此の如き者は、分ちて衝陣を為り、兵の処る所を便にし、其の畢く出づるを須ちて、我が伏兵を発し、疾く其の後ろを撃ち、強弩は両旁より其の左右を射、車騎は分ちて烏雲の陣を為り、其の前後に備えて、三軍疾く戦え。敵人、我が戦い合するを見れば、其の大軍必ず水を済りて来らん。我が伏兵を発し、疾く其の後ろを撃ち、車騎は其の左右を衝け。敵人衆しと雖も、其の将走らす可し。
凡用兵之大要、當敵臨戰、必置衝陳、便兵所處、然後以車騎分爲烏雲之陳。此用兵之奇也。所謂烏雲者、烏散而雲合、變化無窮者也。
凡そ兵を用うるの大要は、敵に当り戦いに臨んで、必ず衝陣を置き、兵の処る所を便にし、然る後に車騎を以て分ちて烏雲の陣を為る。此れ兵を用うるの奇なり。所謂烏雲とは、烏のごとく散じて雲のごとく合い、変化窮まり無き者なり。
- 置 … 底本では「宜」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 車騎 … 底本では「軍騎」に作るが、『直解』に従い改めた。
武王曰、善哉。
武王曰く、善きかな。
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