六韜:必出第三十四
武王問太公曰、引兵深入諸侯之地、敵人四合而圍我、斷我歸道、絶我糧食、敵人既衆、
糧食甚多、險阻又固、我欲必出、爲之奈何。
武王、太公に問うて曰く、兵を引きて深く諸侯の地に入り、敵人四もに合して我を囲み、我が帰道を断ち、我が糧食を絶ち、敵人既に衆く、糧食甚だ多く、険阻にして又固きに、我、必ず出でんと欲す、之を為すこと奈何。
- ウィキソース「六韜」参照。
太公曰、必出之道、器械爲寶、勇闘爲首。審知敵人空虚之地、無人之處、可以必出。將士持玄旗、操器械、設銜枚夜出。
太公曰く、必ず出づるの道は、器械を宝と為し、勇闘を首と為す。審らかに敵人の空虚の地、無人の処を知らば、以て必ず出づ可し。将士、玄旗を持ち、器械を操り、銜枚を設けて夜出づ。
- 將士持玄旗 … 底本では「將士人持玄旗」に作るが、『直解』に従い改めた。
勇力飛走冒將之士、居前平壘、爲軍開道。材士強弩、爲伏兵居後、弱卒車騎居中。陳畢徐行、愼無驚駭。
勇力、飛走、冒将の士は、前に居りて塁を平らげ、軍の為に道を開き、材士強弩は、伏兵と為して後ろに居らしめ、弱卒車騎は中に居く。陣し畢りて徐に行き、慎んで驚駭すること無かれ。
- 飛走 … 底本では「飛足」に作るが、『直解』に従い改めた。
以武衝扶胥、前後拒守、武翼大櫓、以備左右。
武衝の扶胥を以て、前後に拒ぎ守り、武翼の大櫓、以て左右に備う。
- 備左右 … 『直解』では「蔽左右」に作る。
敵人若驚、勇力冒將之士、疾撃而前、弱卒車騎、以屬其後、材士強弩、隱伏而處。審候敵人追我、伏兵疾撃其後、多其火鼓、若從地出、若從天下、三軍勇闘、莫我能禦。
敵人若し驚かば、勇力冒将の士は、疾く撃って前み、弱卒車騎は、以て其の後ろに属き、材士強弩は、隠伏して処り、審らかに敵人の我を追うを候い、伏兵疾く其の後ろを撃ち、其の火鼓を多くし、地より出づるが若く、天より下るが若く、三軍勇み闘わば、我を能く禦ぐ莫からん。
武王曰、前有大水廣塹深坑、我欲踰渡、無舟楫之備、敵人屯壘、限我軍前、塞我歸道、斥候常戒、險塞盡守、車騎要我前、勇士撃我後、爲之奈何。
武王曰く、前に大水、広塹、深坑有り、我、踰え渡らんと欲するに、舟楫の備え無く、敵人塁に屯し、我が軍前を限り、我が帰道を塞ぎ、斥候常に戒め、険塞尽く守り、車騎我が前を要し、勇士は我が後ろを撃たば、之を為すこと奈何。
- 廣塹 … 底本では「廣壍」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 盡守 … 底本では「盡中」に作るが、『直解』に従い改めた。
太公曰、大水廣塹深坑、敵人所不守。或能守之、其卒必寡。若此者以飛江轉關與天潢、以濟吾軍、勇力材士、從我所指、衝敵絶陳、皆致其死。
太公曰く、大水、広塹、深坑は、敵人の守らざる所なり。或いは能く之を守るも、其の卒必ず寡からん。此の若き者は、飛江と転関と天潢とを以て、以て吾が軍を済し、勇力材士、我が指す所に従って、敵を衝き陣を絶ち、皆其の死を致せ。
- 廣塹 … 底本では「廣壍」に作るが、『直解』に従い改めた。
先燔吾輜重、燒吾糧食、明告吏士、勇闘則生、不勇則死。
先ず吾が輜重を燔き、吾が糧食を焼き、明らかに吏士に告げよ、勇み闘わば則ち生き、勇まずんば則ち死せん、と。
已出、令我踵軍設雲火遠候、必依草木丘墓險阻。敵人車騎、必不敢遠追長驅。因以火爲記、先出者、令至火而止、爲四武衝陳。如此則吾三軍、皆精鋭勇闘、莫我能止。
已に出づれば、我が踵軍をして、雲火を設けて遠く候わしめ、必ず草木、丘墓、険阻に依れ。敵人の車騎、必ず敢えて遠く追いて長駆せず。因って火を以て記と為し、先ず出づる者は、火に至りて止まり、四武の衝陣を為らしめよ。此の如くせば、則ち吾が三軍皆精鋭にして勇み闘い、我を能く止むる莫し。
- 已出 … 底本では「已出者」に作るが、『直解』に従い改めた。
武王曰、善哉。
武王曰く、善いかな。
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上賢第九 | 挙賢第十 |
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文伐第十五 | 順啓第十六 |
三疑第十七 |
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