武（ぶ）王（おう）、太公（たいこう）に問（と）うて曰（いわ）く、吾（われ）、三軍（さんぐん）の衆（しゅう）をして城（しろ）を攻（せ）むるには先（さき）を争（あらそ）いて登（のぼ）り、野（や）戦（せん）には先（さき）を争（あらそ）いて赴（おもむ）き、金声（きんせい）を聞（き）きて怒（いか）り、鼓（こ）声（せい）を聞（き）きて喜（よろこ）ばしめんと欲（ほっ）す。之（これ）を為（な）すこと奈何（いかん）。

太公（たいこう）曰（いわ）く、将（しょう）に三（さん）勝（しょう）有（あ）り。

武（ぶ）王（おう）曰（いわ）く、敢（あ）えて其（そ）の目（もく）を問（と）う。太公（たいこう）曰（いわ）く、将（しょう）は冬（ふゆ）に裘（きゅう）を服（ふく）せず、夏（なつ）に扇（おうぎ）を操（と）らず、雨（あめ）に蓋（かさ）を張（は）らず。名（な）づけて礼（れい）将（しょう）と曰（い）う。将（しょう）は身（み）に礼（れい）を服（ふく）せざれば、以（もっ）て士（し）卒（そつ）の寒暑（かんしょ）を知（し）る無（な）し。

隘塞（あいそく）を出（い）で、泥（でい）塗（と）を犯（おか）すに、将（しょう）必（かなら）ず先（ま）ず下（お）りて歩（あゆ）む。名（な）づけて力（りき）将（しょう）と曰（い）う。将（しょう）は身（み）に力（ちから）を服（ふく）せざれば、以（もっ）て士（し）卒（そつ）の労（ろう）苦（く）を知（し）る無（な）し。

軍（ぐん）、皆（みな）次（じ）を定（さだ）めて、将（しょう）乃（すなわ）ち舎（しゃ）に就（つ）く。炊（かし）ぐ者（もの）皆（みな）熟（じゅく）して、将（しょう）乃（すなわ）ち食（しょく）に就（つ）く。軍（ぐん）、火（ひ）を挙（あ）げざれば、将（しょう）も亦（ま）た挙（あ）げず。名（な）づけて止（し）欲（よく）の将（しょう）と曰（い）う。将（しょう）は身（み）に止（し）欲（よく）を服（ふく）せざれば、以（もっ）て士（し）卒（そつ）の飢（き）飽（ほう）を知（し）る無（な）し。

将（しょう）、士（し）卒（そつ）と寒暑（かんしょ）、労（ろう）苦（く）、飢（き）飽（ほう）を共（とも）にす。故（ゆえ）に三軍（さんぐん）の衆（しゅう）、鼓（こ）声（せい）を聞（き）けば則（すなわ）ち喜（よろこ）び、金声（きんせい）を聞（き）けば則（すなわ）ち怒（いか）り、高（こう）城（じょう）深（しん）池（ち）、矢（し）石（せき）繁（しげ）く下（くだ）るも、士（し）、先（さき）を争（あらそ）いて登（のぼ）り、白刃（はくじん）始（はじ）めて合（あ）うも、士（し）、先（さき）を争（あらそ）いて赴（おもむ）く。士（し）は死（し）を好（この）みて傷（きず）を楽（たの）しむに非（あら）ざるなり。其（そ）の将（しょう）、寒暑（かんしょ）、飢（き）飽（ほう）を知（し）ることの審（つまび）らかにして、労（ろう）苦（く）を見（み）ることの明（あき）らかなるが為（ため）なり。