六韜:文伐第十五
文王問太公曰、文伐之法奈何。太公曰、凡文伐有十二節。
文王、太公に問うて曰く、文伐の法は奈何。太公曰く、凡そ文伐に十二節有り。
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一曰、因其所喜以順其志。彼將生驕、必有奸事。苟能因之、必能去之。
一に曰く、其の喜ぶ所に因って以て其の志に順う。彼、将に驕りを生じ、必ず奸事有らんとす。苟くも能く之に因らば、必ず能く之を去らん。
- 奸 … 底本では「好」に作るが、『直解』に従い改めた。
二曰、親其所愛、以分其威。一人兩心、其中必衰。廷無忠臣、社稷必危。
二に曰く、其の愛する所を親しみて、以て其の威を分つ。一人両心ならば、其の中必ず衰えん。廷に忠臣無ければ、社稷必ず危うからん。
三曰、陰賂左右、得情甚深、身内情外。國將生害。
三に曰く、陰かに左右に賂い、情を得ること甚だ深く、身は内にして情は外にす。国、将に害を生ぜんとす。
四曰、輔其淫樂、以廣其志、厚賂珠玉、娯以美人、卑辭委聽、順命而合。彼將不爭、奸節乃定。
四に曰く、其の淫楽を輔けて、以て其の志を広くし、厚く珠玉を賂い、娯ましむるに美人を以てし、辞を卑くして委しく聴き、命に順いて合す。彼、将に争わずして、奸節乃ち定まらんとす。
- 奸 … 底本では「姦」に作るが、『直解』に従い改めた。
五曰、嚴其忠臣、而薄其賂、稽留其使、勿聽其事。亟爲置代、遺以誠事、親而信之、其君將復合之。苟能嚴之、國乃可謀。
五に曰く、其の忠臣を厳にして、其の賂いを薄くし、其の使いを稽留して、其の事を聴く勿かれ。亟かに代りを置くことを為さしめ、遺るに誠事を以てし、親しみて之を信ぜば、其の君、将に復た之に合わんとす。苟くも能く之を厳にせば、国乃ち謀る可し。
六曰、収其内、間其外、才臣外相、敵國内侵、國鮮不亡。
六に曰く、其の内を収め、其の外を間て、才臣、外に相け、敵国、内に侵さば、国、亡びざる鮮なからん。
七曰、欲錮其心、必厚賂之。収其左右忠愛、陰示以利、令之輕業、而蓄積空虚。
七に曰く、其の心を錮せんと欲せば、必ず厚く之を賂い、其の左右の忠愛を収め、陰かに示すに利を以てし、之をして業を軽んじ、蓄積を空虚ならしむ。
八曰、賂以重寶、因與之謀、謀而利之。利之必信。是謂重親。重親之積、必爲我用。有國而外、其地必敗。
八に曰く、賂うに重宝を以てし、因って之と謀り、謀りて之を利す。之を利すれば必ず信ぜん。是を重親と謂う。重親の積は、必ず我が用を為す。国を有ちて外にせば、其の地必ず敗れん。
九曰、尊之以名、無難其身、示以大勢。從之必信。致其大尊、先爲之榮、微飾聖人、國乃大偸。
九に曰く、之を尊ぶに名を以てし、其の身を難ます無く、示すに大勢を以てす。之に従わば必ず信ぜん。其の大尊を致して、先ず之が栄を為し、微かに聖人を飾らば、国乃ち大いに偸らん。
十曰、下之必信、以得其情、承意應事、如與同生。既以得之、乃微収之。時及將至、若天喪之。
十に曰く、之に下るに必ず信ありて、以て其の情を得、意を承け事に応じ、与に生を同じくするが如くす。既に以て之を得れば、乃ち微かに之を収む。時、将に至らんとするに及びて、天の之を喪すが若し。
十一曰、塞之以道。人臣無不重貴與富、惡危與咎。陰示大尊、而微輸重寶、収其豪傑。内積甚厚、而外爲乏、陰内智士、使圖其計、内勇士、使高其氣。富貴甚足、而常有繁滋、徒黨已具。是謂塞之。有國而塞、安能有國。
十一に曰く、之を塞ぐに道を以てす。人臣、貴と富とを重んじ、危と咎とを悪まざる無し。陰かに大尊を示して、微かに重宝を輸し、其の豪傑を収め、内に積むこと甚だ厚くして、外には乏しきを為し、陰かに智士を内れて、其の計を図らしめ、勇士を内れて、其の気を高からしむ。富貴甚だ足りて、常に繁滋有れば、徒党已に具わる。是、之を塞ぐと謂う。国を有ちて塞がるれば、安んぞ能く国を有たん。
- 陰内智士 … 「内」は底本では「納」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 内勇士 … 「内」は底本では「納」に作るが、『直解』に従い改めた。
十二曰、養其亂臣、以迷之、進美女淫聲、以惑之、遺良犬馬、以勞之。時與大勢、以誘之、上察而與天下圖之。
十二に曰く、其の乱臣を養いて、以て之を迷わし、美女淫声を進めて、以て之を惑わし、良犬馬を遺りて、以て之を労らす。時に大勢を与えて、以て之を誘い、上察して天下と与に之を図る。
- 美 … 底本では「羙」に作るが、『直解』に従い改めた。
十二節備、乃成武事。所謂上察天、下察地、徴已見、乃伐之。
十二節備わりて、乃ち武事を成す。所謂上は天を察し、下は地を察し、徴已に見れて、乃ち之を伐つ。
巻一 文韜 | |
文師第一 | 盈虚第二 |
国務第三 | 大礼第四 |
明伝第五 | 六守第六 |
守土第七 | 守国第八 |
上賢第九 | 挙賢第十 |
賞罰第十一 | 兵道第十二 |
巻二 武韜 | |
発啓第十三 | 文啓第十四 |
文伐第十五 | 順啓第十六 |
三疑第十七 |
巻三 竜韜 | |
王翼第十八 | 論将第十九 |
選将第二十 | 立将第二十一 |
将威第二十二 | 励軍第二十三 |
陰符第二十四 | 陰書第二十五 |
軍勢第二十六 | 奇兵第二十七 |
五音第二十八 | 兵徴第二十九 |
農器第三十 |
巻四 虎韜 | |
軍用第三十一 | 三陣第三十二 |
疾戦第三十三 | 必出第三十四 |
軍略第三十五 | 臨境第三十六 |
動静第三十七 | 金鼓第三十八 |
絶道第三十九 | 略地第四十 |
火戦第四十一 | 塁虚第四十二 |
巻五 豹韜 | |
林戦第四十三 | 突戦第四十四 |
敵強第四十五 | 敵武第四十六 |
烏雲山兵第四十七 | 烏雲沢兵第四十八 |
少衆第四十九 | 分険第五十 |
巻六 犬韜 | |
分合第五十一 | 武鋒第五十二 |
練士第五十三 | 教戦第五十四 |
均兵第五十五 | 武車士第五十六 |
武騎士第五十七 | 戦車第五十八 |
戦騎第五十九 | 戦歩第六十 |