武（ぶ）王（おう）、太公（たいこう）に問（と）うて曰（いわ）く、敵人（てきじん）深（ふか）く入（い）りて長（ちょう）駆（く）し、我（わ）が地（ち）を侵（しん）掠（りゃく）し、我（わ）が牛（ぎゅう）馬（ば）を駆（か）り、其（そ）の三軍（さんぐん）大（おお）いに至（いた）り、我（わ）が城（じょう）下（か）に薄（せま）り、吾（わ）が士（し）卒（そつ）大（おお）いに恐（おそ）れ、人民（じんみん）係累（けいるい）せられて、敵（てき）の虜（とりこ）とする所（ところ）と為（な）らんに、吾（われ）、以（もっ）て守（まも）れば則（すなわ）ち固（かた）く、以（もっ）て戦（たたか）えば則（すなわ）ち勝（か）たんと欲（ほっ）す。之（これ）を為（な）すこと奈何（いかん）。

太公（たいこう）曰（いわ）く、此（かく）の如（ごと）き者（もの）は、之（これ）を突兵（とっぺい）と謂（い）う。其（そ）の牛（ぎゅう）馬（ば）は必（かなら）ず食（くら）うを得（え）ず、士（し）卒（そつ）は糧（りょう）を絶（た）たん。暴（にわか）に撃（う）ちて前（すす）み、我（わ）が遠邑（えんゆう）の別軍（べつぐん）をして、其（そ）の鋭（えい）士（し）を選（えら）び、疾（と）く其（そ）の後（うし）ろを撃（う）たしめ、其（そ）の期（き）日（じつ）を審（つまび）らかにし、必（かなら）ず晦（かい）に会（かい）して、三軍（さんぐん）疾（と）く戦（たたか）わば、敵人（てきじん）衆（おお）しと雖（いえど）も、其（そ）の将（しょう）、虜（とりこ）にす可（べ）し。

武（ぶ）王（おう）曰（いわ）く、敵人（てきじん）分（わか）ちて三（さん）四（し）と為（な）り、或（ある）いは戦（たたか）いて我（わ）が地（ち）を侵（しん）掠（りゃく）し、或（ある）いは止（とど）まりて我（わ）が牛（ぎゅう）馬（ば）を収（おさ）め、其（そ）の大軍（たいぐん）未（いま）だ尽（ことごと）く至（いた）らざるに、寇（あだ）をして我（わ）が城（じょう）下（か）に薄（せま）らしめ、吾（わ）が三軍（さんぐん）の恐（きょう）懼（く）を致（いた）す。之（これ）を為（な）すこと奈何（いかん）。

太公（たいこう）曰（いわ）く、謹（つつし）んで敵人（てきじん）を候（うかが）い、未（いま）だ尽（ことごと）く至（いた）らざれば則（すなわ）ち備（そな）えを設（もう）けて之（これ）を待（ま）ち、城（しろ）を去（さ）ること四里（より）にして塁（るい）を為（つく）り、金（きん）鼓（こ）旌（せい）旗（き）、皆（みな）列（つら）ねて張（は）り、隊（たい）を別（わか）ちて伏兵（ふくへい）と為（な）し、我（わ）が塁（るい）上（じょう）をして多（おお）く強（きょう）弩（ど）を積（つ）ましめ、百（ひゃっ）歩（ぽ）ごとに一（いち）の突門（とつもん）あり、門（もん）に行（こう）馬（ば）有（あ）り、車（しゃ）騎（き）は外（そと）に居（お）り、勇（ゆう）力（りょく）の鋭（えい）士（し）は隠伏（いんぷく）して処（お）る。

敵人（てきじん）若（も）し至（いた）らば、我（わ）が軽卒（けいそつ）をして戦（たたか）いを合（あ）わせて佯（いつわ）り走（はし）らしめ、我（わ）が城上（じょうしょう）に旌（せい）旗（き）を立（た）て、鼙（へい）鼓（こ）を撃（う）ち、完（まった）く守（しゅ）備（び）を為（な）さしめよ。敵人（てきじん）、我（われ）を以（もっ）て城（しろ）を守（まも）ると為（な）し、必（かなら）ず我（わ）が城（じょう）下（か）に薄（せま）らん。吾（わ）が伏兵（ふくへい）を発（はっ）して、以（もっ）て其（そ）の内（うち）を衝（つ）き、或（ある）いは其（そ）の外（そと）を撃（う）ち、三軍（さんぐん）疾（と）く戦（たたか）い、或（ある）いは其（そ）の前（まえ）を撃（う）ち、或（ある）いは其（そ）の後（うし）ろを撃（う）たば、勇者（ゆうしゃ）も闘（たたか）うを得（え）ず、軽者（けいしゃ）も走（はし）るに及（およ）ばず。名（な）づけて突戦（とっせん）と曰（い）う。敵人（てきじん）衆（おお）しと雖（いえど）も、其（そ）の将（しょう）、必（かなら）ず走（はし）らん。

武（ぶ）王（おう）曰（いわ）く、善（よ）きかな。