文王（ぶんおう）、太公（たいこう）に問（と）うて曰（いわ）く、国（くに）に君（きみ）たり民（たみ）に主（しゅ）たる者（もの）、其（そ）の之（これ）を失（うしな）う所以（ゆえん）の者（もの）は何（なん）ぞや。太公（たいこう）曰（いわ）く、与（とも）にする所（ところ）を謹（つつし）まざればなり。人君（じんくん）に六守（ろくしゅ）、三宝（さんぼう）有（あ）り。

文王（ぶんおう）曰（いわ）く、六守（ろくしゅ）とは何（なん）ぞや。太公（たいこう）曰（いわ）く、一（いち）に曰（いわ）く仁（じん）。二（に）に曰（いわ）く義（ぎ）。三（さん）に曰（いわ）く忠（ちゅう）。四（し）に曰（いわ）く信（しん）。五（ご）に曰（いわ）く勇（ゆう）。六（ろく）に曰（いわ）く謀（ぼう）。是（これ）を六守（ろくしゅ）と謂（い）う。

文王（ぶんおう）曰（いわ）く、謹（つつし）んで六守（ろくしゅ）を択（えら）ぶとは何（なん）ぞや。太公（たいこう）曰（いわ）く、之（これ）を富（と）まして其（そ）の犯（おか）す無（な）きを観（み）、之（これ）を貴（たっと）くして其（そ）の驕（おご）る無（な）きを観（み）、之（これ）に付（ふ）して其（そ）の転（てん）ずる無（な）きを観（み）、之（これ）を使（つか）いて其（そ）の隠（かく）す無（な）きを観（み）、之（これ）を危（あや）うくして其（そ）の恐（おそ）る無（な）きを観（み）、之（これ）に事（こと）して其（そ）の窮（きゅう）する無（な）きを観（み）る。

之（これ）を富（と）まして犯（おか）さざる者（もの）は仁（じん）なり。之（これ）を貴（たっと）くして驕（おご）らざる者（もの）は義（ぎ）なり。之（これ）に付（ふ）して転（てん）ぜざる者（もの）は忠（ちゅう）なり。之（これ）を使（つか）いて隠（かく）さざる者（もの）は信（しん）なり。之（これ）を危（あや）うくして恐（おそ）れざる者（もの）は勇（ゆう）なり。之（これ）に事（こと）して窮（きゅう）せざる者（もの）は謀（ぼう）なり。人君（じんくん）は三宝（さんぼう）を以（もっ）て人（ひと）に借（か）す無（な）かれ。人（ひと）に借（か）せば則（すなわ）ち君（きみ）其（そ）の威（い）を失（うしな）う。

文王（ぶんおう）曰（いわ）く、敢（あ）えて三宝（さんぼう）を問（と）う。太公（たいこう）曰（いわ）く、大農（だいのう）、大工（だいこう）、大（だい）商（しょう）、之（これ）を三宝（さんぼう）と謂（い）う。農（のう）、其（そ）の郷（きょう）に一（いち）なれば則（すなわ）ち穀（こく）足（た）り、工（こう）、其（そ）の郷（きょう）に一（いち）なれば則（すなわ）ち器（き）足（た）り、商（しょう）、其（そ）の郷（きょう）に一（いち）なれば則（すなわ）ち貨（か）足（た）る。三宝（さんぼう）各〻（おのおの）其（そ）の処（ところ）に安（やす）んずれば、民（たみ）乃（すなわ）ち慮（おもんぱか）らず、其（そ）の郷（きょう）を乱（みだ）す無（な）く、其（そ）の族（ぞく）を乱（みだ）す無（な）し。

臣（しん）は君（きみ）よりも富（と）ます無（な）かれ。都（と）は国（くに）よりも大（だい）なる無（な）かれ。六守（ろくしゅ）長（ちょう）ずれば則（すなわ）ち君（きみ）昌（さか）え、三宝（さんぼう）全（まった）ければ則（すなわ）ち国（くに）安（やす）し。