六韜 励軍第二十三
武王問太公曰、吾欲三軍之衆攻城爭先登、野戰爭先赴、聞金聲而怒、聞鼓聲而喜。爲之奈何。
武王、太公に問うて曰く、「われ、三軍の衆をして城を攻むるには先を争いて登り、野戦には先を争いて赴き、金声を聞きて怒り、鼓声を聞きて喜ばしめんと欲す。これをなすこといかん」。
- 三軍之衆 … 底本では「令三軍之衆」に作るが、『直解』に従い改めた。
太公曰、將有三勝。武王曰、敢問其目。太公曰、將冬不服裘、夏不操扇、雨不張蓋。名曰禮將。將不身服禮、無以知士卒之寒暑。
太公曰く、「将に三勝あり」。武王曰く、「あえてその目を問う」。太公曰く、「将は冬に裘を服せず、夏に扇を操らず、雨に蓋を張らず。名づけて礼将と曰う。将みずから礼に服さざれば、もって士卒の寒暑を知るなし。
出隘塞、犯泥塗、將必先下歩。名曰力將。將不身服力、無以知士卒之勞苦。
隘塞を出で、泥塗を犯すに、将必ず先ず下りて歩む。名づけて力将と曰う。将みずから力に服さざれば、もって士卒の労苦を知るなし。
軍皆定次、將乃就舎。炊者皆熟、將乃就食。軍不舉火、將亦不舉、名曰止欲將。將不身服止欲、無以知士卒之飢飽。
軍みな次を定めて、将すなわち舎に就く。炊ぐ者みな熟して、将すなわち食に就く。軍、火を挙げざれば、将また挙げず。名づけて止欲の将と曰う。将みずから止欲に服さざれば、もって士卒の飢飽を知るなし。
將與士卒共寒暑勞苦飢飽。故三軍之衆、聞鼓聲則喜、聞金聲則怒、高城深池、矢石繁下、士爭先登、白刃始合、士爭先赴。士非好死而樂傷也。爲其將知寒暑飢飽之審、而見勞苦之明也。
将、士卒と寒暑、労苦、飢飽をともにす。ゆえに三軍の衆、鼓声を聞けばすなわち喜び、金声を聞けばすなわち怒り、高城深池、矢石繁く下るも、士、先を争いて登り、白刃始めて合うも、士、先を争いて赴く。士は死を好みて傷を楽しむにあらざるなり。その将、寒暑、飢飽を知ることの審かにして、労苦を見ることの明らかなるがためなり」。