二十四詩品 四 沈著
- 沈著 … 詩風が落ち着いていること。
- 清・聲・行・生・明・横(平声庚韻)。
- ウィキソース「二十四詩品」参照。
綠林野屋、落日氣清。
緑林野屋、落日気清し。
- 緑林 … 青々とした木が茂っている林。
- 林 … 二家詩品本では「杉」に作り、「杉當作林」との注がある。
- 野屋 … 田舎のみすぼらしい家。
- 落日 … 沈みかかっている太陽。
- 気清 … 空気が澄み切っている。
脱巾獨歩、時聞鳥聲。
巾を脱ぎて独り歩めば、時に鳥声聞ゆ。
- 脱巾 … 頭巾を取ること。瀟洒な様子や、儀礼の形式に拘泥しないことを指す。「脱帽」と同じ。杜甫「飲中八仙歌」に「帽を脱し頂を露す王公の前」とある。
- 鳥声 … 鳥の鳴き声。
鴻雁不來、之子遠行。
鴻雁来らず、之の子遠く行けり。
- 鴻雁 … 秋に来る渡り鳥の名。かり。「鴻」は、大きなかり。「雁」は、普通のかり。「雁」は「鴈」とも書く。ここでは手紙を指す。
- 之子 … この人。「之」は、指示代名詞で「この」の意。『詩経』周南・桃夭の詩に「之の子于き帰ぐ、其の室家に宜しからん」とある。
所思不遠、若爲平生。
思う所遠からず、平生為るが若し。
- 所思 … ここでは「心に思っていること」「感慨」「所懐」の意ではなく、「思慕する人」「愛しい人」の意。『楚辞』九歌(九)山鬼に「石蘭を被て杜衡を帯とし、芳馨を折りて思う所に遺る」とある。
- 不遠 … 遠くはない。遠く離れてはいない。
- 若為平生 … ふだんのようだ。愛しい人がすぐそばにいるように感じられること。「平生」は、ふだん。日ごろ。平時。『論語』憲問篇に「久要に平生の言を忘れざれば、亦た以て成人と為すべし」とある。
海風碧雲、夜渚月明。
海の風碧の雲、夜の渚に月明かし。
- 海風 … 海上を吹く風。
- 碧雲 … 大空に浮かぶ青く澄んだ雲。
- 海風碧雲 … 沈著の動的境地を現している。
- 夜渚 … 夜の波打ちぎわ。
- 月明 … 明るい月。ここは、本来は「明月」とするところであるが、押韻(平声庚韻)の関係で「月明」としている。
- 夜渚月明 … 沈著の静的境地を現している。
如有佳語、大河前橫。
如し佳語有らば、大河前に横わらん。
- 如有佳語 … もしこういうときに、よい詩句を作ることができれば。
- 佳語 … 佳句。よい詩句。ここでは沈著たる風格の詩句を指す。
- 大河前横 … 大きな川が目の前に横たわることとなるだろう。ここは、ゆったりと落ち着いていることの喩え。作家が沈著たる風格の詩句を創作し得たときの境地を指す。
一 雄渾 | 二 冲淡 |
三 繊穠 | 四 沈著 |
五 高古 | 六 典雅 |
七 洗煉 | 八 勁健 |
九 綺麗 | 十 自然 |
十一 含蓄 | 十二 豪放 |
十三 精神 | 十四 縝密 |
十五 疎野 | 十六 清奇 |
十七 委曲 | 十八 実境 |
十九 悲概 | 二十 形容 |
二十一 超詣 | 二十二 飄逸 |
二十三 曠達 | 二十四 流動 |