二十四詩品 十一 含蓄
- 含蓄 … 詩風が深い意味を含んでいて、味わいのあること。
- 流・憂・浮・秋・漚・收(平声尤韻)。
- ウィキソース「二十四詩品」参照。
不著一字、盡得風流。
一字も著けずして、尽く風流を得。
- 一字 … 一文字。
- 著 … 用いる。説郛本および二家詩品本では「着」に作るが、全唐詩本に従い改めた。
- 風流 … 世俗的なことを超越し、落ち着いて洒落た味わいのあること。
- 得 … 会得する。
語不渉己、若不堪憂。
語己に渉らずして、憂いに堪えざるが若し。
- 語 … 表現された言葉。
- 不渉己 … 自分のことを表す言葉を用いていない。「己」は、二家詩品本では「難」に作り、「難一本作己」との注がある。
- 不堪憂 … 悲しみに耐えられない。
- 若 … ~のようである。二家詩品本では「己」に作り、「己一本作若」との注がある。
是有眞宰、與之沈浮。
是れ真宰有りて、之と沈浮す。
- 是有 … 確実にある。
- 真宰 … 天地を主宰するもの。『荘子』斉物論篇に「真宰有る若し。而れども特其の朕を得ざるのみ」(若有眞宰。而特不得其朕)とある。ウィキソース「莊子/齊物論」参照。ここでは自然の道理のこと。
- 与之 … これといっしょに。「之」は、真宰を指す。「与」は、「~と」と読み、「~といっしょに」と訳す。
- 沈浮 … 万物は自然の中で浮き沈みすることから、物が変化していくことに喩える。『荘子』知北遊篇に「天下沈浮せざること莫く、終身故ならず」(天下莫不沉浮、終身不故)とある。ウィキソース「莊子/知北遊」参照。「沈」は、説郛本では「沉」に作るが、全唐詩本に従い改めた。「沉」は「沈」の異体字。
如淥滿酒、花時返秋。
淥して酒を満たし、花の時に秋に返るが如し。
- 淥 … 濾過する。濾す。漉す。
- 満酒 … 酒樽を一杯にする。
- 花時 … 花が開こうとしたとき。
- 返秋 … 秋の寒さに戻ってしまう。
悠悠空塵、忽忽海漚。
悠悠たる空塵、忽忽たる海漚。
- 悠悠 … 果てしなくゆったりと広がっているさま。
- 空塵 … 空中に漂う沙塵。
- 忽忽 … ふっと消え去るさま。ここでは海に浮いて漂うさま。司馬相如の「子虚の賦」に「眇眇忽忽たること、神仙の髣髴たるが若し」(眇眇忽忽、若神仙之髣髴)とある。ウィキソース「昭明文選/卷7」参照。
- 海漚 … 海に浮いている泡。「漚」は、泡。泡沫。
淺深聚散、萬取一收。
浅深し聚散すれば、万に取り一に収めん。
- 浅深 … 浅く深く。
- 聚散 … 集まったり、散らばったりすること。
- 万取 … 万物を取り集める。
- 一収 … 最もすぐれた部分を表現する。
一 雄渾 | 二 冲淡 |
三 繊穠 | 四 沈著 |
五 高古 | 六 典雅 |
七 洗煉 | 八 勁健 |
九 綺麗 | 十 自然 |
十一 含蓄 | 十二 豪放 |
十三 精神 | 十四 縝密 |
十五 疎野 | 十六 清奇 |
十七 委曲 | 十八 実境 |
十九 悲概 | 二十 形容 |
二十一 超詣 | 二十二 飄逸 |
二十三 曠達 | 二十四 流動 |