二十四詩品 十七 委曲
- 委曲 … 詩風が詳しく細かなこと。
- 腸・香・羌・藏・翔・方(平声陽韻)。
- ウィキソース「二十四詩品」参照。
登彼太行、翠繞羊腸。
彼の太行に登れば、翠繞ること羊腸のごとし。
杳靄流玉、悠悠花香。
杳靄に流るる玉、悠悠たる花の香り。
力之於時、聲之於羌。
之を力むるに時に於いてし、之を声するに羌に於いてす。
- 力之 … 詩を作ることに努める。「之」は、詩を作ること。「力」は、力を込めて努力すること。
- 於時 … ちょうどふさわしい時に。適時。
- 声之 … 詩の韻律を調える。「之」は、詩を指す。「声」は、韻律を調えること。
- 羌 … 羌族が吹く笛の音。羌笛の音。羌族はチベット系異民族。
似往已迴、如幽匪藏。
往くが似くにして已に迴り、幽なるが如くにして蔵るるに匪ず。
- 似往 … 遠くへ行くようにして。「似」は、ここでは「如」と同じ。
- 已迴 … 向きを変えて戻ってくる。
- 幽 … 暗く奥深いところ。『詩経』小雅・伐木の詩に「幽谷より出でて、喬木に遷る」(出自幽谷、遷于喬木)とある。ウィキソース「詩經/伐木」参照。
- 匪蔵 … 隠れているのではない。露わになること。「蔵」は、隠れる。「匪」は、「非」と同じ。
水理漩洑、鵬風翺翔。
水理漩洑して、鵬風翺翔す。
- 水理 … 水の流れるみちすじ。水脈。
- 漩洑 … 水が渦巻いて流れて行く。「漩」は、水がぐるぐる渦巻くこと。「洑」は、川がめぐり流れること。
- 鵬風 … 旋風。『荘子』逍遥遊篇に「鳥有り、其の名を鵬と為す。背は泰山の若く、翼は垂天の雲の若し。扶揺を摶ち羊角して上る者九万里」(有鳥焉、其名爲鵬。背若泰山、翼若垂天之雲。摶扶搖羊角而上者九萬里)とある。ウィキソース「莊子/逍遙遊」参照。「羊角」は、羊の角が曲がっているように、巻き上げて吹く風。旋風。
- 翺翔 … 高く自由に飛び回ること。「翺」は、鳥が高く飛ぶこと。「翔」は、羽を大きく広げて飛び舞うこと。ここでは旋風がびゅうびゅうと旋回すること。
道不自器、與之圓方。
道は器よりせず、之と円方せよ。
- 道 … 道理。ここでは委曲なる詩を作る方法。
- 器 … 現実の物の形。『易経』繋辞上伝に「形よりして上なる者之を道と謂い、形よりして下なる者之を器と謂う」(形而上者謂之道、形而下者謂之器)とある。ウィキソース「易傳/繫辭上」(第十二章)参照。
- 之 … 「器」を指す。
- 円方 … 円と四角。ここでは相手に対し、柔軟に順応すること。
一 雄渾 | 二 冲淡 |
三 繊穠 | 四 沈著 |
五 高古 | 六 典雅 |
七 洗煉 | 八 勁健 |
九 綺麗 | 十 自然 |
十一 含蓄 | 十二 豪放 |
十三 精神 | 十四 縝密 |
十五 疎野 | 十六 清奇 |
十七 委曲 | 十八 実境 |
十九 悲概 | 二十 形容 |
二十一 超詣 | 二十二 飄逸 |
二十三 曠達 | 二十四 流動 |