二十四詩品 二十三 曠達
- 曠達 … 詩風が心広く、物事にこだわらないこと。
- 何・多・蘿・過・歌・峨(平声歌韻)。
- ウィキソース「二十四詩品」参照。
生者百歳、相去幾何。
生くる者は百歳、相去ること幾何ぞ。
- 百歳 … 百歳を過ぎない。
- 相 … 「(対象に)~する」「(対象を)~する」と訳す。文脈によって、対象が自分・相手・第三者とかわる。
- 去 … この世を去るまで。
- 幾何 … いくばくもない。いくらもない。
歡樂苦短、憂愁實多。
歓楽苦だ短く、憂愁実に多し。
- 歓楽 … 喜び楽しむこと。
- 苦 … 「はなはだ」と読む。非常に。程度がひどいこと。
- 憂愁 … 悩み悲しむこと。
- 実 … 「まことに」と読む。ほんとうに。
何如尊酒、日往煙蘿。
何如ぞ尊酒もて、日〻煙蘿に往かん。
- 何如 … 通常は「いかんぞ~ん(や)」と読み、「どうして~するのか、いや~ない」と訳す。反語。ここでは「~するのが一番だ」と訳す。
- 尊酒 … 「樽酒」と同じ。樽の中の酒。
- 日 … 毎日。
- 煙蘿 … 蔦に靄が立ち籠めているさま。李煜「破陣子」に「玉樹瓊枝は煙蘿を作す」(玉樹瓊枝作煙蘿)とある。ウィキソース「破陣子 (李煜)」参照。
花覆茆簷、疏雨相過。
花茆簷を覆い、疏雨相過ぐ。
- 茆簷 … 茅葺きの軒。「茆」は「茅」と同じ。茅葺きの家のこと。「簷」は、軒。庇。
- 疏雨 … まばらに降る雨。「疏」は説郛本では「疎」に作るが、全唐詩本および二家詩品本に従い改めた。「疏」は「疎」の正字。
- 過 … 通り過ぎる。二家詩品本には「過一本作歌」との注がある。
倒酒既盡、杖藜行歌。
酒を倒けて既に尽くし、藜を杖きて行歌せん。
- 倒酒既尽 … 杯を傾けて酒を飲み尽くす。「倒酒」は「傾杯」と同じく、酒を飲むこと。
- 杖藜 … 藜の茎で作った杖をつく。「藜」は、アカザ科の一年草。平地に自生し、高さは約一メートル。若葉は食用。茎は杖にする。ウィキペディア【アカザ (植物)】参照。杜甫「絶句漫興九首 其五」に「腸は断ゆ江春尽きんと欲する頭、藜を杖き徐ろに歩みて芳洲に立つ」(腸斷江春欲盡頭、杖藜徐步立芳洲)とある。ウィキソース「漫興 (杜甫)」参照。
- 行歌 … 歩きながら歌うこと。王安石「江上」に「舟車に寄食して随処に弊れ、天地に行歌して此の身労す」(寄食舟車隨處弊、行歌天地此身労)とある。ウィキソース「臨川先生文集 (四部叢刊本)/卷第二十五」参照。
孰不有古、南山峨峨。
孰か古びること有らざらん、南山は峨峨たれども。
- 孰 … 「たれか~ん(や)」と読み、「だれが~するのか、いやだれも~しない」と訳す。反語。「誰」と同じ。韓愈「師の説」に「人は生れながらにして之を知る者に非ず、孰か能く惑い無からん」(人非生而知之者、孰能無惑)とある。ウィキソース「師說」参照。
- 不有古 … 死なないことがあろうか。「古」は「故」と同じ。死亡すること。
- 南山 … 終南山。周の都鎬京(今の陝西省西安市の西)の南方にあった。ウィキペディア【終南山】参照。
- 峨峨 … 山が高く険しい様子。張衡「西京の賦」(『文選』巻二)に「華岳峨峨として、岡巒参差たり」(華嶽峩峩、岡巒參差)とある。「華岳」は、陝西省華陰市にある山。華山。西岳とも。五岳の一つ。「岡巒」は、高い台地と山。低い山並みのこと。「参差」は、高低の差が目立ってふぞろいな様子。ウィキソース「西京賦」参照。
一 雄渾 | 二 冲淡 |
三 繊穠 | 四 沈著 |
五 高古 | 六 典雅 |
七 洗煉 | 八 勁健 |
九 綺麗 | 十 自然 |
十一 含蓄 | 十二 豪放 |
十三 精神 | 十四 縝密 |
十五 疎野 | 十六 清奇 |
十七 委曲 | 十八 実境 |
十九 悲概 | 二十 形容 |
二十一 超詣 | 二十二 飄逸 |
二十三 曠達 | 二十四 流動 |