二十四詩品 二十二 飄逸
- 飄逸 … 詩風が自由でのびのびしており、超俗なこと。
- 羣・雲・縕・垠・聞・分(平声文韻)。
- ウィキソース「二十四詩品」参照。
落落欲往、矯矯不羣。
落落として往かんと欲し、矯矯として群せず。
緱山之鶴、華頂之雲。
緱山の鶴、華頂の雲。
高人惠中、令色絪縕。
高人恵き中、令色絪縕たり
。
- 高人 … 人格が高尚で官に仕えない人。主に隠者を指す。高士。
- 惠 … 「慧」と同じ。慧い。聡明。賢い。『列子』湯問篇に「甚だしいかな、汝の不恵なる」(甚矣、汝之不惠)とある。ウィキソース「列子/湯問篇」参照。二家詩品本では「画」に作り、「画一本作惠非」との注がある。
- 中 … 心の中。衷に当てた用法。
- 令色 … よい顔つき。美しい顔つき。「令」は、よい。麗しい。美しい。『詩経』大雅・巻阿の詩に「令聞あり令望あり」(令聞令望)とある。「令聞」は、よい評判。麗しい評判。「令望」は、よい人望。麗しい人望。ウィキソース「詩經/卷阿」参照。
- 絪縕 … 気が天地に漲るさま。『易経』繋辞下伝に「天地は絪縕として、万物は化醇す」(天地絪縕、萬物化醇)とある。「化醇」は、変化して純粋になること。ウィキソース「易傳/繫辭下」(第四章)参照。
御風蓬葉、汎彼無垠。
風を蓬葉に御し、彼の垠り無きに汎ぶ。
- 御風 … 風に乗る。『荘子』逍遥遊篇に「夫の列子は風に御して行く」(夫列子御風而行)とある。ウィキソース「莊子/逍遙遊」参照。
- 蓬葉 … 飛蓬。あかざ科の植物。ヒメジョオンに似ている。秋には枯れ、強風に吹かれると抜けて、集まって原野を転がっていく。ここでは小舟に喩える。
- 無垠 … 限りがないこと。「垠」は、限り。果て。限界。李華「吊古戰場文」に「浩浩乎として平沙垠り無く、夐かに人を見ず」(浩浩乎平沙無垠、夐不見人)とある。「浩浩乎」は、広々としているさま。「平沙」は、平らで広い砂漠。ウィキソース「吊古戰場文」参照。ここでは海が果てしなく広がっているさま。
- 汎 … 浮かぶ。漂う。二家詩品本では「泛」に作る。
如不可執、如將有聞。
執る可からざるが如く、将に聞く有らんとするが如し。
- 不可執 … 掌握することができない。「執」は、捉える。掌握する。『韓非子』揚権篇に「聖人要を執って、四方来効す」(聖人執要、四方來效)とある。ウィキソース「韓非子/揚權」参照。
- 将 … 「まさに~せんとす」と読み、「いまにも~しそうである」と訳す。未来の状態を推量する意を示す。
- 聞 … 分かる。悟る。
識者期之、欲得愈分。
識者之を期すも、得んと欲すれば愈〻分かる。
- 識者 … 物事を正しく判断する能力のある人。見識者。
- 期之 … 飄逸なる境地を期待し求める。「期」は、期待する。希求する。
- 欲得 … 得ようとすれば。
- 期之、欲得 … 二家詩品本では「已領、期之」に作る。
- 愈 … ますます。より一層。
- 分 … 分かれる。ここでは飄逸なる境地から遠くへ行ってしまう。
一 雄渾 | 二 冲淡 |
三 繊穠 | 四 沈著 |
五 高古 | 六 典雅 |
七 洗煉 | 八 勁健 |
九 綺麗 | 十 自然 |
十一 含蓄 | 十二 豪放 |
十三 精神 | 十四 縝密 |
十五 疎野 | 十六 清奇 |
十七 委曲 | 十八 実境 |
十九 悲概 | 二十 形容 |
二十一 超詣 | 二十二 飄逸 |
二十三 曠達 | 二十四 流動 |