二十四詩品 三 纖穠
- 繊穠 … 詩風が豊かで麗しく優美なこと。『漢語大詞典』には「指富丽优美的文艺风格(指富麗優美的文藝風格)」とある。「纖」は、「繊」の旧字。繊細。「穠」は、花や木がこんもりしたさま。細やかで潤いのあるさま。
- 春・人・濱・隣・眞・新(平声真韻)。
- ウィキソース「二十四詩品」参照。
采采流水、蓬蓬遠春。
采采たる流水、蓬蓬たる遠春。
- 采采 … 鮮やかで、はっきりしている様子。鮮明。『詩経』秦風・蒹葭の詩に「蒹葭采采として、白露未だ已まず」(蒹葭采采、白露未已)とある。ウィキソース「詩經/蒹葭」参照。
- 流水 … 水の流れ。
- 蓬蓬 … 草木の葉などが勢いよく茂っている様子。
- 遠春 … 遠く離れた所まで春の気配を感じること。
窈窕深谷、時見美人。
窈窕たる深谷、時に美人を見す。
- 窈窕 … 奥深いさま。陶淵明「帰去来の辞」に「既に窈窕として以て壑を尋ぬ」とある。
- 深谷 … 底の深い谷。
- 時 … 折しも。ちょうどそのとき。
- 見美人 … 美しい女性が現れる。
碧桃滿樹、風日水濱。
碧桃樹に満つ、風日の水浜。
- 碧桃 … 白色の桃の花。
- 満樹 … 木々の花が満開になること。
- 風日 … 暖かい春風が吹く日。
- 水浜 … 水辺。川のほとり。
柳陰路曲、流鶯比隣。
柳陰に路曲り、流鶯比隣す。
- 柳陰 … 柳の木陰。
- 路曲 … 道が曲がっている。
- 流鶯 … 枝から枝へ飛び移って鳴く鶯。
- 比隣 … 普通は「近隣」「隣近所」の意。ここでは鶯の鳴き声がいつまでも心に纏いつくさま。
乘之愈往、識之愈眞。
之に乗じて愈〻往けば、之を識して愈〻真なり。
- 乗之 … 時宜にかなって。「之」は、繊穠たる境地を指す。「乗」は、機会をうまく利用する。
- 愈 … 「いよいよ」と読み、「さらに~」「だんだんと~」と訳す。事態・程度が先をこえて発展する意を示す。
- 往 … 探求する。ここでは詩を書くこと。
- 識之 … これを書くことができて。「之」は、繊穠たる情景を指す。「識」は、書き記すこと。
- 真 … 真実味が増す。
如將不盡、與古爲新。
如し将めて尽きずんば、古と与に新を為さん。
- 将 … じわじわと推し進めて。
- 不尽 … 止まなければ。終わらなければ。
- 与古 … 昔の優れた作品と同様に。「古」は、古い時代の優れた作品のこと。
- 与 … 「ともに」と読み、「いっしょに」「同じように」と訳す。
- 為新 … 新しい作品を作り出すであろう。
一 雄渾 | 二 冲淡 |
三 繊穠 | 四 沈著 |
五 高古 | 六 典雅 |
七 洗煉 | 八 勁健 |
九 綺麗 | 十 自然 |
十一 含蓄 | 十二 豪放 |
十三 精神 | 十四 縝密 |
十五 疎野 | 十六 清奇 |
十七 委曲 | 十八 実境 |
十九 悲概 | 二十 形容 |
二十一 超詣 | 二十二 飄逸 |
二十三 曠達 | 二十四 流動 |