飲中八仙歌(杜甫)
飮中八仙歌
飲中八仙歌
飲中八仙歌
- 〔テキスト〕 『宋本杜工部集』巻一、『杜詩詳注』巻二、『全唐詩』巻二百十六、他
- 七言古詩。船・眠・天・涎・泉・錢・川・賢・年・天・前・前・禪・篇・眠・船・仙・傳・前・煙・然・筵(平声先韻)。毎句韻。
- ウィキソース「飲中八仙歌」参照。
- 飲中八仙歌 … 八人の酒仙(酒豪)の歌。賀知章・汝陽王李璡・李適之・崔宗之・蘇晋・李白・張旭・焦遂それぞれの酔態を詠じている。
- 杜甫 … 712~770。盛唐の詩人。襄陽(湖北省)の人。字は子美。祖父は初唐の詩人、杜審言。若い頃、科挙を受験したが及第できず、各地を放浪して李白らと親交を結んだ。安史の乱では賊軍に捕らえられたが、やがて脱出し、新帝粛宗のもとで左拾遺に任じられた。その翌年左遷されたため官を捨てた。四十八歳の時、成都(四川省成都市)の近くの浣花渓に草堂を建てて四年ほど過ごしたが、再び各地を転々とし一生を終えた。中国最高の詩人として「詩聖」と呼ばれ、李白とともに「李杜」と並称される。『杜工部集』がある。ウィキペディア【杜甫】参照。
知章騎馬似乘船
知章が馬に騎るは船に乗るに似たり
- 知章 … 賀知章。659~744。盛唐の詩人。字は季真。「四明狂客」と号した。『全唐詩』には「賀知章。會稽人。自稱祕書外監」とある。
眼花落井水底眠
眼花み 井に落ちて水底に眠る
- 眼花 … 目がちらついてよく見えない。
汝陽三斗始朝天
汝陽は三斗にして始めて天に朝し
- 汝陽 … 汝陽郡王に封ぜられた李璡のこと。?~750。玄宗の兄李憲の子。『全唐詩』には「讓皇帝長子璡。封汝陽王」とある。
- 三斗 … 三斗の酒のこと。唐代の一斗は約6リットル。
道逢麴車口流涎
道に麴車に逢えば口に涎を流す
- 麴車 … 酒の原料である麴を積んだ車。
恨不移封向酒泉
恨むらくは封を移して酒泉に向わざるを
- 移封 … 領土を移しかえること。
- 酒泉 … 郡名。今の甘粛省酒泉県。酒の味のする泉が湧いたという。
左相日興費萬錢
左相の日興 万銭を費す
- 左相 … 左丞相李適之。694~747。唐の太宗の子、恒山王李承乾の孫にあたる皇族の子孫。天宝元年(742)、左相(宰相)となったが、政敵李林甫との政争に巻き込まれ、最後は自殺した。ウィキペディア【李適之】参照。『全唐詩』には「李適之。天寶元年為左丞相」とある。
- 日興 … 日々の楽しみ。または、日々の遊興。
- 万銭 … 大金。
飮如長鯨吸百川
飲むこと長鯨の百川を吸うが如し
- 長鯨 … 大きな鯨。
- 百川 … 多くの川。
銜杯樂聖稱避賢
杯を銜み聖を楽しみ賢を避くと称す
- 銜杯 … 酒を飲むこと。
- 楽聖・避賢 … 聖は清酒、賢は濁り酒。『魏志』徐邈伝にみえる故事から。
- 避 … 『全唐詩』では「世」に作り、「一作避」とある。
宗之瀟灑美少年
宗之は瀟灑たる美少年
- 宗之 … 崔宗之。重臣崔日用の子。侍御史となった。『全唐詩』には「崔宗之。日用之子。襲封齊國公」とある。
- 瀟灑 … こざっぱりして垢抜けている。
擧觴白眼望青天
觴を挙げ 白眼もて青天を望む
- 白眼 … 冷淡な目つき。晋の阮籍が気に入らない客に対しては白眼で、親友に対しては青眼で応対したという故事による。
皎如玉樹臨風前
皎として玉樹の風前に臨むがごとし
- 皎 … 白く輝くさま。
- 玉樹 … 美しい木。
蘇晉長齋繡佛前
蘇晋は長斉す 繍仏の前
- 蘇晋 … 蘇珦の子。?~734。玄宗の詔勅などを起草した。太子左庶子まで出世した。『全唐詩』には「晉。珦之子。官至左庶子」とある。
- 長斉 … 長期間精進潔斎する。
- 繍仏 … 刺繍した仏像。
醉中往往愛逃禪
酔中 往往にして逃禅を愛す
- 往往 … しばしば。
- 逃禅 … 世事を逃れて坐禅する。また、坐禅から逃れるという説もある。
李白一斗詩百篇
李白は一斗 詩百篇
- 一斗詩百篇 … 一斗の酒を飲むうちに百篇もの詩ができあがる。
長安市上酒家眠
長安市上 酒家に眠る
- 市上 … 市中。町中。
- 酒家 … 酒場。
天子呼來不上船
天子呼び来れども船に上らず
- 不上船 … 泥酔して船に乗ることができず、宦官高力士の介添えで乗せてもらったというエピソードによる。
自稱臣是酒中仙
自ら称す 臣は是れ酒中の仙と
- 酒中仙 … 酒びたりの仙人。
張旭三杯草聖傳
張旭は三杯 草聖伝う
- 張旭 … 書家。字は伯高。草書の名人であった。『全唐詩』には「旭善草書」とある。
- 草聖 … 草書の名人。
脱帽露頂王公前
帽を脱し頂を露す 王公の前
- 脱帽露頂 … 「頂」は頭のてっぺん。王公の前で帽子を取るのは非礼とされた。
揮毫落紙如雲煙
毫を揮い紙に落せば雲煙の如し
- 揮毫 … 筆を走らせること。
- 如雲煙 … 筆跡があざやかなことのたとえ。
焦遂五斗方卓然
焦遂は五斗 方に卓然
- 焦遂 … この人物の伝記はほとんど不明。『全唐詩』には「甘澤謠。布衣焦遂。為陶峴客」とある。
- 卓然 … 他よりぬきんでて、すぐれているさま。
高談雄辨驚四筵
高談雄弁 四筵を驚かす
- 高談 … 声高に話すこと。
- 四筵 … 満座。
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