二十四詩品 八 勁健
- 勁健 … 詩風が力強く、しっかりしていること。
- 虹・風・中・雄・同・終(平声東韻)。
- ウィキソース「二十四詩品」参照。
行神如空、行氣如虹。
神を行うこと空の如く、気を行うこと虹の如し。
- 行神 … 心を巡らす。「神」は、心神。精神。心。
- 空 … 天空。大空。
- 行気 … 気を巡らす。
巫峽千尋、走雲連風。
巫峽千尋にして、走雲風に連なる。
- 巫峽 … 峡谷の名。四川省巫山県の東にある。長江上流の難所の一つ。ウィキペディア【巫峡】参照。
- 千尋 … 非常に高いこと。「千仞」とも書く。「尋」「仞」は長さの単位。一尋は周尺の八尺で、約一八〇センチメートル。
- 走雲連風 … 雲が風に随って飛んでゆく。
飮眞茹強、蓄素守中。
真を飲みて強さを茹み、素を蓄えて中に守る。
- 飲真 … 純真なる気を取り込む。
- 茹強 … 剛強さを養い育てる。
- 蓄素 … 本質を蓄える。『文心雕龍』程器篇に「固より宜しく素を蓄えて以て中を弸たし、采を散じて以て外を彪る」(固宜蓄素以弸中、散采以彪外)とある。ウィキソース「文心雕龍/程器」参照。
- 守中 … 心の中に保持し続ける。
喩彼行健、是謂存雄。
彼の行くことの健かなるに喩うれば、是れ雄を存すと謂う。
天地與立、神化攸同。
天地与に立ち、神化攸に同じうす。
- 天地与立 … 勁健なる風格が天地と並び立つほどであること。
- 神化 … 神明なる造化。大自然の不思議な変化。
- 攸 … ここでは「ここに」と読むが、特に意味はない。「攸」は、通常は「ところ」と読み、「所」と訳す。『詩経』大雅・文王有声の詩に「四方の同る攸」(四方攸同)とある。ウィキソース「詩經/文王有聲」参照。
期之以實、御之以終。
之を期するに実を以てし、之を御するに終を以てせよ。
- 期之以実 … 真実を作品に期待する。「之」は、勁健たる作品を指す。「期」は、期待する。希望する。要求する。『韓非子』五蠹篇に「修古を期せず、常行に法らず」(不期修古、不法常行)とある。ウィキソース「韓非子/五蠹」参照。「実」は、真実。明白。『論衡』問孔篇に「世の儒生は、道の是非を実する能わざるなり」(世之儒生、不能實道是非也)とある。ウィキソース「論衡/28」参照。
- 御之以終 … 始めから終わりまで作品を統御せよ。「之」は、勁健たる作品を指す。「御」は、統御する。賈誼の「過秦論」に「長策を振いて宇内を御す」(振長策而御宇內)とある。ウィキソース「過秦論」参照。「終」は、始終。始めから終わりまで。
一 雄渾 | 二 冲淡 |
三 繊穠 | 四 沈著 |
五 高古 | 六 典雅 |
七 洗煉 | 八 勁健 |
九 綺麗 | 十 自然 |
十一 含蓄 | 十二 豪放 |
十三 精神 | 十四 縝密 |
十五 疎野 | 十六 清奇 |
十七 委曲 | 十八 実境 |
十九 悲概 | 二十 形容 |
二十一 超詣 | 二十二 飄逸 |
二十三 曠達 | 二十四 流動 |