二十四詩品 二 冲淡
- 冲淡 … 詩風があっさりしていて、わだかまりがないこと。沖虚恬淡。「沖淡」「沖澹」とも書く。
- 微・飛・衣・歸・稀・違(平声微韻)。
- ウィキソース「二十四詩品」参照。
素處以默、妙機其微。
素処して以て黙せば、妙機其れ微なり。
- 素処 … 「素」は、静かで安らかなさま。澹然。「処」は、居ること。
- 黙 … 黙って落ち着いていること。
- 妙機 … 霊妙な自然の働き。
- 微 … 非常に微かなこと。幽微。
飮之太和、獨鶴與飛。
之に太和を飲ましめば、独鶴与に飛ぶ。
- 之 … 詩を指す。
- 太和 … 天地間の調和した気。沖和の気。
- 飲 … 飲ませる。転じて、籠める。含ませる。使役に読む。
- 独鶴 … ただ一羽でいる鶴。孤高なものに喩える。
猶之惠風、荏苒在衣。
猶お之れ恵風の、荏苒として衣に在るがごとし。
- 恵風 … 暖かい風。春風。
- 荏苒 … 本来は、歳月が過ぎゆくさま。物事がのびのびになるさま。ここでは風が軽々と流れ動くさま。二家詩品本では「苒々」に作り、「苒々一本作荏苒」との注がある。「苒苒」は、柔らかくしなやかなさま。軽くしなやかなさま。
- 在衣 … (風に)衣が靡いているようである。
閲音修篁、美曰載歸。
音を修篁に閲すれば、美にして曰う、載ち帰らんと。
- 修篁 … 長い竹の生えた竹やぶ。「修」は、すらりと長い様子。「篁」は、竹。竹やぶ。竹林。
- 閲 … ここでは音を聴くこと。
- 美曰 … 美しい音色で囁く。
- 載 … 「すなわち」と読み、「そこで」と訳す。
遇之匪深、卽之愈稀。
之に遇うは深きに匪ざるも、之に即けば愈〻稀なり。
- 之 … 二つとも冲淡の境地を指す。
- 遇 … 到達する。
- 匪深 … 難しいことではない。
- 匪 … 「~ず」「あらず」と読み、「~でない」と訳す。「非」と同義。
- 即 … 追求する。
- 愈 … 「いよいよ」と読み、「さらに~」「だんだんと~」と訳す。事態・程度が先をこえて発展する意を示す。
- 稀 … ごく少ない。思い通りにならない。
脱有形似、握手已違。
脱し形似有らば、手を握りて已に違えり。
- 脱 … 「もし」と読み、「もし~ならば」と訳す。「若」「如」と同じ。
- 形似 … 形が表面だけ似ていること。
- 握手 … 握手している間に。一瞬。時間が非常に短いことの喩え。
- 已 … もはや。もう。
- 違 … (冲淡たる風格が)遠くへ行ってしまう。「違」は、離れ去ること。
一 雄渾 | 二 冲淡 |
三 繊穠 | 四 沈著 |
五 高古 | 六 典雅 |
七 洗煉 | 八 勁健 |
九 綺麗 | 十 自然 |
十一 含蓄 | 十二 豪放 |
十三 精神 | 十四 縝密 |
十五 疎野 | 十六 清奇 |
十七 委曲 | 十八 実境 |
十九 悲概 | 二十 形容 |
二十一 超詣 | 二十二 飄逸 |
二十三 曠達 | 二十四 流動 |