二十四詩品 七 洗煉
- 洗煉 … 詩に磨きをかけて垢抜けしたものにすること。「洗練」「洗錬」とも書く。
- 銀・磷・神・眞・人・身(平声真韻)。
- ウィキソース「二十四詩品」参照。
如礦出金、如鉛出銀。
鉱より金を出すが如く、鉛より銀を出すが如し。
- 鉱 … まだ精製してない金属。粗金。鉱石。
- 出 … 取り出す。
- 如 … 全唐詩本では「猶」に作る。二家詩品本でも「猶」に作り、「猶一本作如」との注がある。
超心錬冶、絕愛緇磷。
心を超えて錬冶し、緇磷を愛しむを絶つ。
- 超心 … 一つのことを行うために心を集中させること。専心。
- 錬冶 … 鍛錬して良いものを作り上げる。
- 緇磷 … 薄っぺらになって黒くなること。転じて、良いものの中に混じり込んでいる余計なもの。夾雑物。「緇」は、黒色。「磷」は、薄くなること。『論語』陽貨篇に「堅きを曰わずや、磨すれども磷がず。白きを曰わずや、涅して緇まず」(不曰堅乎、磨而不磷。不曰白乎、涅而不緇)とある。また、李白の「古風五十九首 其五十」に「趙璧は緇磷無く、燕石は貞真に非ず」(趙璧無緇磷、燕石非貞眞)とある。ウィキソース「古風 (宋國梧臺東)」参照。
- 愛 … 惜しむ。
- 絶 … 棄てる。絶つ。
空潭瀉春、古鏡照神。
空潭は春を瀉ぎ、古鏡は神を照らす。
- 空潭 … 物寂しい淵。
- 瀉春 … 春の光を注ぐ。
- 古鏡 … 金属製の古い鏡。
- 神 … 神髄。真髄。物事の本質。奥義。
體素儲潔、乘月返眞。
素を体して潔を儲わえ、月に乗じて真に返る。
- 体素 … 物事の純粋な本質を身に付ける。「素」は、物事の人工を加えない本質。物事の純粋な本質。「体」は、動詞。身に付ける。心にとめて守る。『荘子』刻意篇に「故に素とは、其の与に雑わる所無きを謂うなり。純とは、其の其の神を虧かざるを謂うなり。能く純素を体する、之を真人と謂う」(故素也者、謂其無所與雜也。純也者、謂其不虧其神也。能體純素、謂之眞人)とある。ざるのみ」(若有眞宰。而特不得其朕)とある。ウィキソース「莊子/刻意」参照。
- 潔 … 精神が気高く清らかな様子。高潔な品位。
- 儲 … ここでは保つこと。
- 乗月 … 月の白く輝く光に乗じる。
- 返真 … 心の純真さを取り戻す。
載瞻星氣、載歌幽人。
載ち星気を瞻め、載ち幽人を歌わん。
- 載 … 「載~載…」の形で「すなわち~すなわち…」と読み、「~しながら…する」と訳す。二つの動作を同時に行う意を示す。『詩経』小雅・采薇の詩に「道を行くこと遅遅たり、載ち渇し載ち飢う」(行道遲遲、載渇載飢)とある。ウィキソース「詩經/采薇」参照。
- 星気 … ここでは星の光。「気」は二家詩品本では「辰」に作り、「辰一本作氣非」との注がある。
- 瞻 … 見上げる。仰ぎ見る。瞻仰。
- 幽人 … 俗世間を離れて隠遁生活をしている人。幽子。
- 歌 … ここでは賛美すること。
流水今日、明月前身。
流水は今の日、明月は前の身。
- 流水 … 流れる水。今現在、洗練させ続けていることに喩える。
- 今日 … 今の自分。
- 明月 … かつて洗練させた結果の状態に喩える。
- 前身 … 前世の自分。
一 雄渾 | 二 冲淡 |
三 繊穠 | 四 沈著 |
五 高古 | 六 典雅 |
七 洗煉 | 八 勁健 |
九 綺麗 | 十 自然 |
十一 含蓄 | 十二 豪放 |
十三 精神 | 十四 縝密 |
十五 疎野 | 十六 清奇 |
十七 委曲 | 十八 実境 |
十九 悲概 | 二十 形容 |
二十一 超詣 | 二十二 飄逸 |
二十三 曠達 | 二十四 流動 |