衛霊公第十五 21 子曰君子矜而不爭章
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子曰、君子矜而不爭。羣而不黨。
子曰、君子矜而不爭。羣而不黨。
子曰く、君子は矜にして争わず。群して党せず。
現代語訳
- 先生 ――「人物は気品を持つがせりあわず、なかまに入るがグルにならぬ。」(魚返善雄『論語新訳』)
- 孔子様がおっしゃるよう、「君子は謹厳に構えているが、何でも反対しようというような気がないから、むやみに人と争わない。また、たれかれの分隔てなく人とむれ親しむが、おもねりへつらう私情がないから、同気相求めて党を作るようなことがない。」(穂積重遠『新訳論語』)
- 先師がいわれた。――
「君子はほこりをもって高くおのれを持するが、争いはしない。また社会的にひろく人と交わるが、党派的にはならない」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
- 矜 … 「矜かにして」と訓読してもよい。厳かに持する。誇りを持つ。
- 群 … 仲間たちと一緒にいる。
- 党 … 徒党を組むこと。
補説
- この章の後半部分は「為政第二14」「子路第十三23」とほぼ同じ趣旨である。
- 『注疏』に「此の章の言うこころは、君子の貌は矜荘なりと雖も、而も争闘せず。君子は衆しと雖も、而も私に相党助せず、義に之れ与に比しむなり」(此章言君子貌雖矜莊、而不爭鬪。君子雖衆而不私相黨助、義之與比也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 君子矜而不争 … 『集解』に引く包咸の注に「矜は、矜荘なり」(矜、矜莊也)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「矜は、矜荘なり。君子は自ら己の身を矜荘にして、己人と争わざるなり。故に江熙云う、君子は其の身をして俛焉として日を終えざるが若くならしめず、自ら敬むのみ、人と争い之に勝たざるなり、と」(矜、矜莊也。君子自矜莊己身、而己不與人爭也。故江熙云、君子不使其身俛焉若不終日、自敬而已、不與人爭勝之也)とある。俛焉は、無理をして努力するさま。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『集注』に「荘以て己を持するを矜と曰う。然れども乖戻の心無し。故に争わず」(莊以持己曰矜。然無乖戻之心。故不爭)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 群而不党 … 『集解』に引く孔安国の注に「党は、助なり。君子は衆と雖も、相私助せず。義の与に之に比しむなり」(黨、助也。君子雖衆、不相私助。義之與比之也)とある。また『義疏』に「君子は乃ち朋群義聚すれども、相阿党して私を為さざるなり。故に江熙曰く、君子は道を以て相聚るを知る。聚まれば則ち群を為す。群するは則ち党するに似たり。群居は切磋して徳を成す所以にして、私に非ざるなり、と」(君子乃朋羣義聚、而不相阿黨爲私也。故江熙曰、君子以道知相聚。聚則爲羣。羣則似黨。羣居所以切磋成德、非於私也)とある。また『集注』に「和以て衆に処るを群と曰う。然れども阿比の意無し。故に党せず」(和以處衆曰群。然無阿比之意。故不黨)とある。
- 伊藤仁斎『論語古義』に「君子は道徳もて自ら持し、異を立てて以て高しと為すに非ず。故に矜にして争わず。物我一視し、苟くも同じくして以て俗に徇うに非ず。故に群して党せず。小人は惟だ己有るを知るのみ、豈に能く争わざらんや。惟だ勢利有るを知るのみ、豈に能く党せざらんや」(君子道德自持、非立異以爲高。故矜而不爭。物我一視、非苟同以狥俗。故群而不黨。小人惟知有己而已、豈能不爭。惟知有勢利而已、豈能不黨)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 荻生徂徠『論語徴』に「朱子曰く、荘以て己を持するを、矜と曰う。然れども乖戻の心無し。故に争わず。和以て衆に処るを、群と曰う。然れども阿比の意無し。故に党せず、と。善解と謂う可きのみ。仁斎乃ち曰く、君子は道徳もて自ら持し、異を立てて以て高しと為すに非ず。故に矜にして争わず。物我一視すれども、苟くも同じうして以て俗に徇うに非ず。故に群にして党せず、と。吁道徳もて自ら持す、物我一視とは、道学先生なるかな。大氐君子とは在上の名、士大夫の通称なり。孔子の時に方りて、豈に是の意有らんや。是れ其の朱註を刪りて別に一家を成さんと欲する者にして、豈に異を立てて以て高しと為すに非ざらんや。悲しいかな。蓋し君子は礼を守る。礼は譲を貴ぶ。故に矜にして争わず。君子は仁に居る。仁とは人に長たるの徳、故に群にして党せず」(朱子曰、莊以持己、曰矜。然無乖戻之心。故不爭。和以處衆、曰群。然無阿比之意。故不黨。可謂善解已。仁齋乃曰、君子道德自持、非立異以爲高。故矜而不爭。物我一視、非苟同以徇俗。故群而不黨。吁道德自持、物我一視、道學先生哉。大氐君子者在上之名、士大夫通稱。方孔子時、豈有是意哉。是其欲刪朱註別成一家者、豈非立異以爲高哉。悲哉。蓋君子守禮。禮貴讓。故矜而不爭。君子居仁。仁者長人之德、故群而不黨)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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