尉繚子 兵令下第二十四
諸去大軍爲前禦之備者、邊縣列候。各相去三五里、聞大軍爲前禦之備、戰則皆禁行。所以安内也。
諸〻の大軍を去りて前禦の備えを為す者は、辺県の列候なり。各〻相去ること三五里、大軍を聞きて、前禦の備えを為し、戦えば則ち皆行を禁ず。内を安んずる所以なり。
- ウィキソース「尉繚子 (四庫全書本)/卷5」参照。
内卒出戍、令將吏授旗鼓戈甲。發日、後將吏及出縣封界者、以坐後戍法。兵戍邊一歳、遂亡不候代者、法比亡軍。父母妻子知之、與同罪。弗知赦之。
内卒、出でて戍るに、将吏をして旗鼓戈甲を授けしむ。発するの日、将吏に後れて県の封界を出づるに及ぶ者は、以て戍に後るるの法に坐す。兵の辺に戍すること一歳、遂に亡げて代りを候たざる者は、法、軍を亡ぐるに比す。父母妻子之を知るは、与に罪を同じくす。知らざれば之を赦す。
卒後將吏而至大將所一日、父母妻子盡同罪。卒逃歸至家一日、父母妻子弗捕執、及不言亦同罪。
卒、将吏に後れて大将の所に至ること一日なるは、父母妻子尽く罪を同じくす。卒、逃げ帰りて家に至ること一日なるは、父母妻子、捕執せず、及び言わざるは、亦た罪を同じくす。
諸戰而亡其將吏者、及將吏棄卒獨北者、盡斬之。前吏棄其卒而北、後吏能斬之而奪其卒者賞。
諸〻戦いて其の将吏を亡ぐる者、及び将吏の卒を棄てて独り北ぐる者は、尽く之を斬る。前吏、其の卒を棄てて北げ、後吏能く之を斬りて其の卒を奪う者は賞す。
軍無功者戍三歳。三軍大戰、若大將死而從吏五百人以上不能死敵者斬。大將左右近卒在陳中者皆斬。餘士卒有軍功者奪一級。無軍功者戍三歳。
軍、功無き者は、戍ること三歳。三軍大いに戦い、若し大将死して従吏五百人以上、敵に死すること能わざる者は斬る。大将の左右の近卒、陣中に在る者は、皆斬る。余の士卒の軍功有る者は、一級を奪う。軍功無き者は、戍ること三歳。
- 以上 … 底本では「已上」に作るが、『直解』に従い改めた。
戰亡伍人、及伍人戰死、不得其屍、同伍盡奪其功。得其屍、罪皆赦。
戦いて伍人を亡い、及び伍人戦死して、其の屍を得ざれば、同伍尽く其の功を奪う。其の屍を得れば、罪あるも皆赦す。
軍之利害在國之名實。今名在官而實在家。官不得其實、家不得其名、聚卒爲軍、有空名而無實。外不足以禦敵、内不足以守國。此軍之所以不給、將之所以奪威也。
軍の利害は、国の名実に在り。今、名は官に在りて実は家に在り。官、其の実を得ず、家、其の名を得ざれば、卒を聚めて軍と為すも、空名有りて実無し。外、以て敵を禦ぐに足らず、内、以て国を守るに足らず。此れ軍の給せざる所以、将の威を奪わるる所以なり。
臣以謂、卒逃歸者、同舎伍人及吏、罰入糧爲饒、名爲軍實、是有一軍之名而有二實之出。國内空虚、自竭民歳。曷以免奔北之禍乎。
臣、以謂らく、卒、逃げ帰る者は、同舎の伍人及び吏、糧を罰し入れて饒しと為し、名づけて軍実と為すも、是れ一軍の名有りて、二実の出づる有り。国内空虚にして、自ら民の歳を竭くす。曷ぞ以て奔北の禍を免れんや。
今以法止逃歸、禁亡軍、是兵之一勝也。什伍相連、及戰闘、則卒吏相救。是兵之二勝也。將能立威、卒能節制、號令明信、攻守皆得、是兵之三勝也。
今、法を以て逃げ帰るを止め、軍を亡ぐるを禁ずるは、是れ兵の一勝なり。什伍相連なり、戦闘に及べば、則ち卒吏相救う。是れ兵の二勝なり。将能く威を立て、卒能く制を節し、号令明信にして、攻守皆得るは、是れ兵の三勝なり。
- 連 … 底本では「聮」に作るが、『直解』に従い改めた。
臣聞、古之善用兵者、能殺士卒之半、其次殺其十三、其下殺其十一。能殺其半者威加海内。殺十三者力加諸侯。殺十一者令行士卒。
臣聞く、古の善く兵を用うる者は、能く士卒の半ばを殺し、其の次は其の十の三を殺し、其の下は其の十の一を殺す。能く其の半ばを殺す者は威、海内に加う。十の三を殺す者は、力、諸侯に加う。十の一を殺す者は、令、士卒に行わる、と。
- 能殺士卒之半 … 「士」の字は底本にはないが、『直解』に従い補った。
故曰、百萬之衆不用命、不如萬人之闘也。萬人之闘不如百人之奮也。賞如日月、信如四時、令如斧鉞、制如干將、士卒不用命者、未之聞也。
故に曰く、百万の衆も、命を用いざれば、万人の闘うに如かざるなり。万人の闘うは、百人の奮うに如かざるなり。賞、日月の如く、信、四時の如く、令、斧鉞の如く、制、干将の如くにして、士卒の命を用いざる者は、未だ之を聞かざるなり。
- 干将 … 名剣の名。
- 未之聞也 … 底本では「未之有也」に作るが、『直解』に従い改めた。
天官第一 | 兵談第二 |
制談第三 | 戦威第四 |
攻権第五 | 守権第六 |
十二陵第七 | 武議第八 |
将理第九 | 原官第十 |
治本第十一 | 戦権第十二 |
重刑令第十三 | 伍制令第十四 |
分塞令第十五 | 束伍令第十六 |
経卒令第十七 | 勒卒令第十八 |
将令第十九 | 踵軍令第二十 |
兵教上第二十一 | 兵教下第二十二 |
兵令上第二十三 | 兵令下第二十四 |