尉繚子 兵教上第二十一
兵之教令、分營居陳、有非令而進退者、加犯教之罪。前行者、前行教之、後行者、後行教之。左行者、左行教之、右行者、右行教之。
兵の教令は、営を分ち陣に居るに、令に非ずして進退する者有れば、教えを犯すの罪を加う。前行は、前行之に教え、後行は、後行之に教う。左行は、左行之に教え、右行は、右行之に教う。
- ウィキソース「尉繚子 (四庫全書本)/卷5」参照。
教舉五人、其甲首有賞。弗教如犯教之罪。羅地者、自掲其伍。伍内互掲之、免其罪。
教え五人を挙ぐれば、其の甲首、賞有り。教えざれば、教えを犯すの罪の如し。地に羅なる者は、自ら其の伍を掲ぐ。伍の内互いに之を掲ぐれば、其の罪を免ず。
凡伍臨陳、若一人有不進死於敵、則教者如犯法者之罪。
凡そ伍、陣に臨み、若し一人進みて敵に死せざるもの有らば、則ち教うる者、法を犯す者の罪の如し。
凡什保什、若亡一人而九人不盡死於敵、則教者如犯法者之罪。自什以上、至於裨將、有不若法者、則教者如犯法者之罪。
凡そ什は什を保し、若し一人を亡いて九人尽く敵に死せざれば、則ち教うる者、法を犯す者の罪の如し。什より以上、裨将に至るまで、法の若くならざる者有れば、則ち教うる者、法を犯す者の罪の如し。
- 以上 … 底本では「已上」に作るが、『直解』に従い改めた。
凡明刑罰、正勸賞、必在乎兵教之法。將異其旗、卒異其章。左軍章左肩、右軍章右肩、中軍章胸前。書其章曰、某甲某士。前後章各五行。尊章置首上、其次差降之。
凡そ刑罰を明らかにし、勧賞を正すは、必ず兵教の法に在り。将は其の旗を異にし、卒は其の章を異にす。左軍の章は左肩、右軍の章は右肩、中軍の章は胸前。其の章に書して曰く、某甲某士、と。前後の章、各〻五行。尊章は首上に置き、其の次は差之を降す。
- 胸前 … 底本では「胷前」に作るが、『直解』に従い改めた。
伍長教其四人、以板爲鼓、以瓦爲金、以竿爲旗。撃鼓而進、低旗則趨、撃金而退、麾而左之、麾而右之、金鼓倶撃而坐。
伍長は其の四人に教え、板を以て鼓と為し、瓦を以て金と為し、竿を以て旗と為す。鼓を撃ちて進み、旗を低くして則ち趨り、金を撃ちて退き、麾きて之を左にし、麾きて之を右にし、金鼓倶に撃ちて坐す。
伍長教成、合之什長。什長教成、合之卒長。卒長教成、合之伯長。伯長教成、合之兵尉。兵尉教成、合之裨將。裨將教成、合之大將。
伍長、教え成りて、之を什長に合す。什長、教え成りて、之を卒長に合す。卒長、教え成りて、之を伯長に合す。伯長、教え成りて、之を兵尉に合す。兵尉、教え成りて、之を裨将に合す。裨将、教え成りて、之を大将に合す。
大將教之、陳於中野、置大表、三百歩而一。既陣、去表百歩而决、百歩而趨、百歩而鶩。習戰以成其節、乃爲之賞罰。
大将、之を教うるに中野に陣し、大表を置くこと、三百歩にして一あり。既に陣し、表を去ること百歩にして決し、百歩にして趨り、百歩にして鶩す。戦いを習いて以て其の節を為し、乃ち之が賞罰を為す。
- 賞罰 … 底本では「賞法」に作るが、『直解』に従い改めた。
自尉吏而下、盡有旗。戰勝得旗者、各視其所得之爵、以明賞勸之心。
尉吏よりして下、尽く旗有り。戦い勝ちて旗を得たる者は、各〻其の得る所の爵を視て、以て賞勧の心を明らかにす。
戰勝在乎立威。立威在乎戮力。戮力在乎正罰。正罰者、所以明賞也。
戦い勝つは威を立つるに在り。威を立つるは力を戮すに在り。力を戮すは罰を正すに在り。罰を正すは、賞を明らかにする所以なり。
令民背國門之限、决死生之分、教之死而不疑者、有以也。令守者必固、戰者必闘、姦謀不作、姦民不語。令行無變、兵行無猜、輕者若霆、奮敵若驚。
民をして国門の限を背にし、死生の分を決し、之に死を教えて疑わざらしむる者は、以有るなり。守らしめれば必ず固く、戦えば必ず闘い、姦謀作らず、姦民語らず。令行われて変ずること無く、兵行きて猜い無く、軽き者は霆の若く、敵に奮うこと驚くが若し。
- 姦謀 … 『直解』では「奸謀」に作る。
舉功別德、明如白黒、令民從上令、如四肢應心也。前軍絶行亂陳、破堅如潰者、有以也。此之謂兵教、所以開封疆、守社稷、除患害、成武德也。
功を挙げ徳を別かち、明らかなること白黒の如く、民をして上の令に従わしむること、四肢の心に応ずるが如きなり。前軍、行を絶ち陣を乱し、堅を破ること潰るるが如きは、以有るなり。此れ之を兵教と謂い、封疆を開き、社稷を守り、患害を除き、武徳を成す所以なり。
- 四肢 … 底本では「四支」に作るが、『直解』に従い改めた。
天官第一 | 兵談第二 |
制談第三 | 戦威第四 |
攻権第五 | 守権第六 |
十二陵第七 | 武議第八 |
将理第九 | 原官第十 |
治本第十一 | 戦権第十二 |
重刑令第十三 | 伍制令第十四 |
分塞令第十五 | 束伍令第十六 |
経卒令第十七 | 勒卒令第十八 |
将令第十九 | 踵軍令第二十 |
兵教上第二十一 | 兵教下第二十二 |
兵令上第二十三 | 兵令下第二十四 |