尉繚子 守権第六
凡守者、進不郭圉、退不亭障、以禦戰、非善者也。豪傑英俊、堅甲利兵、勁弩強矢、盡在郭中、乃收窖廩、毀拆而入保、令客氣十百倍而主之氣不半焉。敵攻者傷之甚也。然而世將弗能知。
凡そ守る者、進みて郭圉せず、退きて亭障せずして、以て禦ぎ戦うは、善なる者に非ざるなり。豪傑英俊、堅甲利兵、勁弩強矢、尽く郭中に在り、乃ち窖廩を収め、毀拆して入りて保つは、客、気をして十百倍して主の気をして半ばならざらしむ。敵攻むれば、之を傷うこと甚だしきなり。然れども世の将は知ること能わず。
- ウィキソース「尉繚子 (四庫全書本)/卷2」参照。
- 郭圉 … 底本では「郭圍」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 英俊 … 底本では「雄俊」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 強 … 底本では「疆」に作るが、『直解』に従い改めた。
夫守者、不失其險者也。守法、城一丈、十人守之、工食不與焉。出者不守、守者不出。一而當十、十而當百、百而當千、千而當萬。
夫れ守る者は、其の険を失わざる者なり。守りの法は、城一丈を十人之を守り、工食は与らず。出づる者は守らず、守る者は出でず。一にして十に当たり、十にして百に当たり、百にして千に当たり、千にして万に当る。
- 不失其險者也 … 底本に「其」の字はないが、『直解』にあるので補った。
故爲城郭者、非特費於民聚土壤也。誠爲守也。千丈之城則萬人之守也。池深而廣、城堅而厚、士民備、薪食給、弩堅矢強、矛戟稱之、此守法也。
故に城郭を為る者は、特に民を費し土壌を聚むるに非ざるなり。誠に守るが為なり。千丈の城は則ち万人の守りなり。池深くして広く、城堅くして厚く、士民備わり、薪食給し、弩堅く矢強く、矛戟之に称うは、此れ守りの法なり。
- 特 … 底本では「妄」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 萬人之守也 … 底本に「也」の字はないが、『直解』にあるので補った。
- 強 … 底本では「疆」に作るが、『直解』に従い改めた。
攻者、不下十餘萬之衆。其有必救之軍者、則有必守之城。無必救之軍者、則無必守之城。
攻むる者は、十余万の衆を下らず。其れ必ず救うの軍有る者は、則ち必ず守るの城有り。必ず救うの軍無き者は、則ち必ず守るの城無し。
若彼城堅而救誠、則愚夫蠢婦無不蔽城盡資血。城者朞年之城、守餘於攻者、救餘於守者。
若し、彼の城堅くして救い誠なれば、則ち愚夫蠢婦も城を蔽い、資血を尽さざる無し。城は期年の城にして、守りは攻むる者に余り、救いは守る者に余ればなり。
- 若彼城堅 … 底本に「城」の字はないが、『直解』にあるので補った。
- 蠢婦… 底本では「惷婦」に作るが、『直解』に従い改めた。
若彼城堅而救不誠、則愚夫蠢婦無不守陴而泣下。此人之常情也。遂發其窖廩救撫、則亦不能止矣。必鼓其豪傑英俊、堅甲利兵、勁弩強矢并於前、幺麼毀瘠者并於後。十萬之兵頓於城下。
若し、彼の城堅くして救い誠ならざれば、則ち愚夫蠢婦も陴を守りて泣下らざる無し。此れ人の常情なり。遂に其の窖廩を発して救撫するも、則ち亦た止むること能わず。必ず其の豪傑英俊を鼓し、堅甲利兵、勁弩強矢を前に并せ、幺麼毀瘠の者を後ろに并す。十万の兵、城下に頓る。
- 蠢婦… 底本では「惷婦」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 英俊 … 底本では「雄俊」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 強 … 底本では「疆」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 幺麼 … 底本では「分歷」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 十萬之兵 … 底本では「十萬之軍」に作るが、『直解』に従い改めた。
救必開之、守必出之、出據要塞、但救其後、無絶其糧道、中外相應。此救而示之不誠。示之不誠、則倒敵而待之者也。後其壯、前其老、彼敵無前、守不得而止矣。此守權之謂也。
救い必ず之を開き、守り必ず之を出で、出でて要塞に拠り、但だ其の後ろを救いて、其の糧道を絶つこと無く、中外相応ず。此れ救いて之に誠ならざるを示す。之に誠ならざるを示すは、則ち敵を倒にして之を待つ者なり。其の壮を後ろにし、其の老を前にせば、彼の敵前む無く、守り得て止まらず。此れ守権の謂なり。
- 出據 … 底本では「據出」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 示之不誠、則倒敵 … 底本に「示之不誠」はないが、『直解』にあるので補った。
天官第一 | 兵談第二 |
制談第三 | 戦威第四 |
攻権第五 | 守権第六 |
十二陵第七 | 武議第八 |
将理第九 | 原官第十 |
治本第十一 | 戦権第十二 |
重刑令第十三 | 伍制令第十四 |
分塞令第十五 | 束伍令第十六 |
経卒令第十七 | 勒卒令第十八 |
将令第十九 | 踵軍令第二十 |
兵教上第二十一 | 兵教下第二十二 |
兵令上第二十三 | 兵令下第二十四 |