尉繚子 戦権第十二
兵法曰、千人而成權、萬人而成武。權先加人者、敵不力交。武先加人者、敵無威接。故兵貴先。勝於此則勝彼矣。弗勝於此則弗勝彼矣。凡我徃則彼來、彼來則我徃、相爲勝敗。此戰之理然也。
兵法に曰く、千人にして権を成し、万人にして武を成す、と。権先ず人に加うる者は、敵、力もて交らず。武先ず人に加うる者は、敵、威もて接すること無し。故に兵は先ず此に勝つことを貴べば、則ち彼に勝つ。此に勝たざれば、則ち彼に勝たず。凡そ我往けば則ち彼来り、彼来れば則ち我往き、勝敗を相為す。此れ戦いの理然るなり。
- ウィキソース「尉繚子 (四庫全書本)/卷3」参照。
夫精誠在乎神明、戰權在乎道之所極。有者無之、無者有之。安所信之。先王之所傳聞者、任正去詐、存其慈順、决無留刑。
夫れ精誠は神明に在り、戦権は道の極まる所に在り。有なれば之を無にし、無なれば之を有にす。安くんぞ之を信ずる所あらんや。先王の伝聞する所の者は、正を任じ詐を去り、其の慈順を存し、決して刑を留むること無し。
- 戰權 … 底本では「戰楹」に作るが、『直解』に従い改めた。
故知道者、必先圖不知止之敗。惡在乎必徃有功。輕進而求戰、敵復圖止、我徃而敵制勝矣。故兵法曰、求而從之、見而加之、主人不敢當而陵之、必喪其權。
故に道を知る者は、必ず先ず止まることを知らざるの敗を図る。悪んぞ必ず往きて功有るに在らんや。軽〻しく進みて戦いを求むれば、敵復た止まることを図り、我往きて敵、勝を制す。故に兵法に曰く、求められて之に従い、見れて之に加え、主人敢えて当らずして之を陵ぐは、必ず其の権を喪う、と。
- 必先圖 … 底本では「必先」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 敵復圖止 … 底本では「敵復止」に作るが、『直解』に従い改めた。
凡奪者無氣、恐者不可守、敗者無人。兵無道也。意徃而不疑則從之、奪敵而無前則加之。明視而高居則威之。兵道極矣。
凡そ奪わるれば気無く、恐るれば守る可からず、敗るれば人無し。兵に道無ければなり。意往いて疑わざれば、則ち之に従い、敵を奪いて前むこと無ければ、則ち之に加う。明らかに視て高く居れば、則ち之を威す。兵道極まれり。
- 恐者不可守 … 底本では「恐者不守可」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 奪敵而無前 … 底本では「奪敵而無敗」に作るが、『直解』に従い改めた。
其言無謹偸失。其陵犯無節破矣。水潰雷撃、三軍亂矣。必安其危去其患、以智决之。高之以廊廟之論、重之以受命之論、鋭之以踰垠之論、則敵國可不戰而服。
其の言謹むこと無ければ偸失す。其の陵犯に節無ければ破る。水の潰ゆるがごとく雷の撃つがごとくなれば三軍乱る。必ず其の危うきを安んじ、其の患いを去るには、智を以て之を決す。之を高くするに廊廟の論を以てし、之を重くするに受命の論を以てし、之を鋭くするに踰垠の論を以てすれば、則ち敵国戦わずして服す可し。
- 偸失 … 底本では「偸矣」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 無節破矣 … 底本では「無節被矣」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 廊廟之論 … 底本では「廊廟之諭」に作るが、『直解』に従い改めた。
天官第一 | 兵談第二 |
制談第三 | 戦威第四 |
攻権第五 | 守権第六 |
十二陵第七 | 武議第八 |
将理第九 | 原官第十 |
治本第十一 | 戦権第十二 |
重刑令第十三 | 伍制令第十四 |
分塞令第十五 | 束伍令第十六 |
経卒令第十七 | 勒卒令第十八 |
将令第十九 | 踵軍令第二十 |
兵教上第二十一 | 兵教下第二十二 |
兵令上第二十三 | 兵令下第二十四 |