尉繚子 兵令上第二十三
兵者凶器也。爭者逆德也。事必有本。故王者伐暴亂本仁義焉。戰國則以立威抗敵、相圖而不能廢兵也。
兵は凶器なり。争いは逆徳なり。事、必ず本有り。故に王者は暴乱を伐ち、仁義に本づく。戦国は則ち以て威を立て、敵に抗し、相図りて兵を廃する能わざるなり。
- ウィキソース「尉繚子 (四庫全書本)/卷5」参照。
兵者以武爲植、以文爲種。武爲表、文爲裏。能審此二者、知勝敗矣。文所以視利害、辨安危、武所以犯強敵、力攻守也。
兵は武を以て植と為し、文を以て種と為す。武を表と為し、文を裏と為す。能く此の二つを審らかにする者は、勝敗を知る。文は利害を視、安危を弁ずる所以にして、武は強敵を犯し、攻守を力むる所以なり。
專一則勝、離散則敗。陳以密則固、鋒以疏則達。卒畏將甚於敵者勝。卒畏敵甚於將者敗。所以知勝敗者、稱將於敵也。敵與將猶權衡焉。
専一なれば則ち勝ち、離散すれば則ち敗る。陣は密なるを以て則ち固く、鋒は疏なるを以て則ち達す。卒、将を畏るること敵より甚だしきは、勝つ。卒、敵を畏るること将より甚だしきは、敗る。勝敗を知る所以の者は、将を敵に称るなり。敵と将とは、猶お権衡のごとし。
- 疏 … 底本では「䟽」に作るが、『直解』に従い改めた。
安靜則治、暴疾則亂。出卒陳兵有常令、行伍疏數有常法、先後之次有適宜。
安静なれば則ち治まり、暴疾なれば則ち乱る。卒を出し兵を陣するに常令有り、行伍の疏数に常法有り、先後の次に適宜有り。
- 疏 … 底本では「䟽」に作るが、『直解』に従い改めた。
常令者、非追北襲邑攸用也。前後不次則失也。亂先後斬之。
常令とは、北ぐるを追い邑を襲うのみに用うる攸に非ざるなり。前後、次あらざれば、則ち失うなり。先後を乱すは、之を斬る。
- 攸 … 「ところ」と読む。音の仮借。
常陳皆向敵、有内向、有外向、有立陳、有坐陳。夫内向所以顧中也。外向所以備外也。立陳所以行也。坐陳所以止也。立坐之陳相參進止、將在其中。坐之兵劔斧、立之兵戟弩。將亦居中。善御敵者、正兵先合而後扼之。此必勝之道也。
常陣は皆敵に向い、内向有り、外向有り、立陣有り、坐陣有り。夫れ内向は、中を顧みる所以なり。外向は、外に備うる所以なり。立陣は、行く所以なり。坐陣は、止まる所以なり。立坐の陣は、相参えて進止し、将、其の中に在り。坐の兵は剣斧、立の兵は戟弩。将亦た中に居る。善く敵を御する者は、正兵先ず合して後之を扼す。此れ必勝の道なり。
- 攸 … 「ところ」と読む。音の仮借。
- 必勝之道術 … 底本では「必勝之術」に作るが、『直解』に従い改めた。
陳之斧鉞、飾之旗章、有功必賞、犯令必死。存亡死生在枹之端。雖天下有善兵者、莫能禦此矣。
之が斧鉞を陳ね、之が旗章を飾り、功有れば必ず賞し、令を犯すは必ず死す。存亡死生は枹の端に在り。天下、善兵を有する者と雖も、能く此れを禦ぐ莫し。
矢射未交、長刃未接、前譟者謂之虚、後譟者謂之實、不譟者謂之秘。虚實秘者兵之體也。
矢射未だ交わらず、長刃未だ接せざるに、前に譟ぐ者は之を虚と謂い、後ろに譟ぐ者は之を実と謂い、譟がざる者は之を秘と謂う。虚・実・秘は兵の体なり。
- 秘 … 底本にはないが、『直解』に従い補った。
天官第一 | 兵談第二 |
制談第三 | 戦威第四 |
攻権第五 | 守権第六 |
十二陵第七 | 武議第八 |
将理第九 | 原官第十 |
治本第十一 | 戦権第十二 |
重刑令第十三 | 伍制令第十四 |
分塞令第十五 | 束伍令第十六 |
経卒令第十七 | 勒卒令第十八 |
将令第十九 | 踵軍令第二十 |
兵教上第二十一 | 兵教下第二十二 |
兵令上第二十三 | 兵令下第二十四 |