尉繚子 勒卒令第十八
金鼓鈴旗、四者各有法。鼓之則進、重鼓則撃。金之則止、重金則退。鈴傳令也。旗麾之左則左、麾之右則右。奇兵則反是。
金・鼓・鈴・旗、四つの者各〻法有り。之を鼓すれば則ち進み、重ねて鼓すれば則ち撃つ。之を金すれば則ち止まり、重ねて金すれば則ち退く。鈴は令を伝えるなり。旗は之を左に麾けば則ち左し、之を右に麾けば則ち右す。奇兵は則ち是に反す。
- ウィキソース「尉繚子 (四庫全書本)/卷4」参照。
一鼓一撃而左、一鼓一撃而右。一歩一鼓、歩鼓也。十歩一鼓、趨鼓也。音不絶、鶩鼓也。商、將鼓也。角、帥鼓也。小鼓、伯鼓也。三鼓同則將帥伯其心一也。奇兵則反是。
一鼓一撃して左し、一鼓一撃して右す。一歩に一鼓するは、歩鼓なり。十歩に一鼓するは、趨鼓なり。音絶えざるは、鶩鼓なり。商は将の鼓なり。角は帥の鼓なり。小鼓は伯鼓なり。三鼓同じければ、則ち将、帥、伯其の心一なり。奇兵は則ち是に反す。
鼓失次者有誅。諠譁者有誅。不聽金鼓鈴旗而動者有誅。
鼓、次を失う者は誅有り。諠譁する者は誅有り。金・鼓・鈴・旗を聴かずして動く者は誅有り。
- 諠譁 … 底本では「讙譁」に作るが、『直解』に従い改めた。
百人而教戰、教成、合之千人。千人教成、合之萬人。萬人教成、會之於三軍。三軍之衆、有分有合、爲大戰之法、教成、試之以閲。
百人にして戦いを教え、教え成りて之を千人に合す。千人教え成りて之を万人に合す。万人教え成りて之を三軍に会す。三軍の衆、分有り合有るは、大戦を為すの法なり。教え成れば、之を試すに閲を以てす。
方亦勝、圓亦勝、錯斜亦勝、臨險亦勝。敵在山縁而從之、敵在淵没而從之。求敵如求亡子、從之無疑。故能敗敵而制其命。
方なるも亦た勝ち、円なるも亦た勝ち、錯斜なるも亦た勝ち、険に臨なるも亦た勝つ。敵、山に在れば、縁りて之に従い、敵、淵に在れば、没して之に従う。敵を求むること、亡子を求むるが如く、之に従いて疑う無し。故に能く敵を敗りて其の命を制す。
- 錯斜 … 底本では「錯邪」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 求敵如求亡子 … 底本では「求敵若求亡子」に作るが、『直解』に従い改めた。
夫蚤決先定。若計不先定、慮不蚤決、則進退不定、疑生必敗。
夫れ蚤く決し先に定む。若し計先に定めず、慮蚤く決せざれば、則ち進退定まらず、疑い生じて必ず敗る。
- 夫蚤決先定 … 底本では「夫蚤決先敵」に作るが、『直解』に従い改めた。
故正兵貴先、奇兵貴後。或先或後、制敵者也。丗將不知法者、專命而行、先撃而勇。無不敗者也。其舉有疑而不疑、其往有信而不信、其致有遲疾而不遲疾。是三者、戰之累也。
故に正兵は先を貴び、奇兵は後を貴ぶ。或いは先にし或いは後にするは、敵を制する者なり。世の将の法を知らざる者は、命を専らにして行き、先ず撃って勇む。敗れざる者無きなり。其の挙ぐるや疑い有って疑わず、其の往くや信有って信ぜず、其の致すや遅疾有って遅疾せず。是の三つの者は、戦いの累いなり。
天官第一 | 兵談第二 |
制談第三 | 戦威第四 |
攻権第五 | 守権第六 |
十二陵第七 | 武議第八 |
将理第九 | 原官第十 |
治本第十一 | 戦権第十二 |
重刑令第十三 | 伍制令第十四 |
分塞令第十五 | 束伍令第十六 |
経卒令第十七 | 勒卒令第十八 |
将令第十九 | 踵軍令第二十 |
兵教上第二十一 | 兵教下第二十二 |
兵令上第二十三 | 兵令下第二十四 |