尉繚子 将理第九
凡將理官也。萬物之主也。不私於一人。夫能無私於一人。故萬物至而制之、萬物至而命之。
凡そ将は理官なり。万物の主なり。一人に私せず。夫れ能く一人に私する無し。故に万物至りて之を制し、万物至りて之を命ず。
- ウィキソース「尉繚子 (四庫全書本)/卷2」参照。
- 夫能無私 … 底本では「夫能無移」に作るが、『直解』に従い改めた。
君子不救囚於五歩之外。雖鈎矢射之、弗追也。故善審囚之情、不待菙楚、而囚之情可畢矣。笞人之背、灼人之脅、束人之指、而訊囚之情、雖國士有不勝其酷而自誣矣。
君子は囚を五歩の外に救めず。鈎矢之を射ると雖も、追わざるなり。故に善く囚の情を審らかにし、菙楚を待たずして、囚の情畢くす可し。人の背を笞ち、人の脅を灼き、人の指を束ねて、囚の情を訊さば、国士と雖も、其の酷に勝えずして自ら誣うる有らん。
今丗諺云、千金不死、百金不刑。試聽臣之言、行臣之術、雖有堯舜之智、不能關一言。雖有萬金、不能用一銖。
今の世の諺に云う、千金は死せず、百金は刑せられず、と。試みに臣の言を聴き、臣の術を行わば、堯舜の智有りと雖も、一言を関する能わず。万金有りと雖も、一銖を用うる能わず。
今夫决獄、小圄不下十數、中圄不下百數、大圄不下千數。十人聮百人之事、百人聮千人之事、千人聮萬人之事。所聮之者、親戚兄弟也。其次婚姻也。其次知識故人也。
今夫れ獄を決するに、小圄は十数を下らず、中圄は百数を下らず、大圄は千数を下らず。十人は百人の事に聯り、百人は千人の事に聯り、千人は万人の事に聯る。之に聯る所の者は、親戚兄弟なり。其の次は婚姻なり。其の次は知識故人なり。
是農無不離田業、賈無不離肆宅、士大夫無不離官府。如此關聮良民、皆囚之情也。兵法曰、十萬之師出、日費千金。今良民十萬而聮於囹圄、上不能省。臣以爲危也。
是れ農、田業を離れざる無く、賈、肆宅を離れざる無く、士大夫、官府を離れざる無し。此の如く良民を関聯するは、皆囚の情か。兵法に曰く、十万の師出でて、日に千金を費す、と。今、良民十万にして、囹圄に聯り、上、省すること能わず。臣以為らく危うし、と。
- 囹圄 … 底本では「囚圄」に作るが、『直解』に従い改めた。
天官第一 | 兵談第二 |
制談第三 | 戦威第四 |
攻権第五 | 守権第六 |
十二陵第七 | 武議第八 |
将理第九 | 原官第十 |
治本第十一 | 戦権第十二 |
重刑令第十三 | 伍制令第十四 |
分塞令第十五 | 束伍令第十六 |
経卒令第十七 | 勒卒令第十八 |
将令第十九 | 踵軍令第二十 |
兵教上第二十一 | 兵教下第二十二 |
兵令上第二十三 | 兵令下第二十四 |