尉繚子 兵談第二
量土地肥磽而立邑。建城稱地、以城稱人、以人稱粟、三相稱、則内可以固守、外可以戰勝。戰勝於外、備主於内。勝備相應、猶合符節、無異故也。
土地の肥磽を量りて邑を立つ。城を建つるには地を称り、城を以て人を称り、人を以て粟を称り、三つ相称わば、則ち内は以て固く守る可く、外は以て戦い勝つ可し。戦い外に勝ち、備えは内に主る。勝備相応ずること、猶お符節を合わすがごときは、異なること無きが故なり。
- ウィキソース「尉繚子 (四庫全書本)/卷1」参照。
- 肥磽 … 肥えた土地と、やせた土地。土地の善し悪し。「磽」は、底本では「墝」に作るが、『直解』に従い改めた。
治兵者、若秘於地、若邃於天、生於無。故開之。大不窕、小不恢。明乎禁舎開塞、民流者親之、地不任者任之。
兵を治むる者は、地に秘するが若く、天に邃きが若く、無より生ず。故に之を開けば、大なるも窕がず、小なるも恢ならず。禁舎開塞に明らかにして、民の流する者は之を親しみ、地の任ぜざる者は之を任ず。
- 故開之 … 底本では「故關之」に作るが、『直解』に従い改めた。
夫土廣而任、則國富、民衆而制、則國治。富治者、民不發軔、甲不出暴、而威制天下。故曰、兵勝於朝廷。不暴甲而勝者、主勝也。陣而勝者、將勝也。
夫れ土広くして任ずれば、則ち国富み、民衆くして制あれば、則ち国治まる。富みて治まる者は、民軔を発せず、甲出でて暴さずして、而も威天下を制す。故に曰く、兵は朝廷に勝つ、と。甲を暴さずして勝つ者は、主の勝ちなり。陣して勝つ者は、将の勝ちなり。
- 民衆而制 … 底本では「民衆而治」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 甲不出暴 … 底本では「車不暴出」に作るが、『直解』に従い改めた。
兵起、非可以忿也。見勝則興、不見勝則止。患在百里之内、不起一日之師。患在千里之内、不起一月之師。患在四海之内、不起一歳之師。
兵の起るは、忿りを以てす可きに非ざるなり。勝ちを見れば則ち興し、勝ちを見ざれば則ち止む。患い百里の内に在れば、一日の師を起さず。患い千里の内に在れば、一月の師を起さず。患い四海の内に在れば、一歳の師を起さず。
將者、上不制於天、下不制於地、中不制於人。寛不可激而怒。清不可事以財。夫心狂、耳聾目盲、以三悖率人者、難矣。
将たる者は、上、天に制せられず、下、地に制せられず、中、人に制せられず。寛にして激して怒らす可からず。清にして事うるに財を以てす可からず。夫れ心は狂し、耳は聾し、目は盲し、三悖を以て人を率いる者は難し。
- 耳聾目盲 … 底本では「目盲耳聾」に作るが、『直解』に従い改めた。
兵之所及、羊腸亦勝、鋸齒亦勝、縁山亦勝、入谷亦勝、方亦勝、圓亦勝。
兵の及ぶ所は、羊腸にも亦た勝ち、鋸歯にも亦た勝ち、山に縁りても亦た勝ち、谷に入りても亦た勝ち、方にも亦た勝ち、円にも亦た勝つ。
- 腸 … 底本では「膓」に作るが、『直解』に従い改めた。「膓」は「腸」の異体字。
重者如山如林、如江如河、輕者如炮如燔、如垣壓之、如雲覆之。
重き者は山の如く林の如く、江の如く河の如し。軽き者は炮くが如く燔くが如く、垣の之を圧するが如く、雲の之を覆うが如し。
令人聚不得以散、散不得以聚、左不得以右、右不得以左。兵如總木、弩如羊角、人人無不騰陵張膽、絶乎疑慮、堂堂決而去。
人をして聚まりて以て散ずることを得ず、散じて以て聚まることを得ず、左は以て右することを得ず、右は以て左することを得ざらしむ。兵は総木の如く、弩は羊角の如く、人人、騰陵して胆を張り、疑慮を絶ち、堂堂として決して去らざる無し。
- 令人聚 … 底本では「令之聚」に作るが、『直解』に従い改めた。
天官第一 | 兵談第二 |
制談第三 | 戦威第四 |
攻権第五 | 守権第六 |
十二陵第七 | 武議第八 |
将理第九 | 原官第十 |
治本第十一 | 戦権第十二 |
重刑令第十三 | 伍制令第十四 |
分塞令第十五 | 束伍令第十六 |
経卒令第十七 | 勒卒令第十八 |
将令第十九 | 踵軍令第二十 |
兵教上第二十一 | 兵教下第二十二 |
兵令上第二十三 | 兵令下第二十四 |