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田家春望(高適)

田家春望
田(でん)家(か)の春(しゅん)望(ぼう)
高適(こうせき)
  • ウィキソース「田家春望」「高常侍集 (四部叢刊本)/卷第八」参照。
  • この詩は、作者が不遇で田舎に隠れ住んでいたとき、戸外の春景色を眺め、その感慨を詠んだもの。秦末から楚漢戦争期に活躍した論客の酈(れき)食其(いき)に自分をなぞらえている。劉開揚『高適詩集編年箋註』(中華書局、1981年)の年譜には、開元二十二年(734)、三十一歳の作とある。
  • 田家 … 田舎の家。農家。東晋の陶潜「庚(こう)戌(じゅつ)の歳(とし)、九月中、西田(せいでん)に早稲(そうとう)を穫(か)る」詩に「田家豈(あ)に苦しからざらんや、此の難を辞するを獲(え)ず」(田家豈不苦、弗獲辞此難)とある。ウィキソース「庚戌歲九月中於西田穫早稻」参照
  • 春望 … 春の眺め。
  • 高適 … ?~765。盛唐の詩人。滄州渤海(山東省浜州市)の人。一説に渤海郡蓨(しゅう)県(河北省景県)の人。字(あざな)は達(たつ)夫(ふ)または仲武。天宝八載(749)、有道科(科挙の一科)に推挙され、受験して及第。汴(べん)州の封(ふう)丘(きゅう)(河南省封丘県)の尉となったが、後に辞任し、辺塞を遊歴した。晩年は刑部侍郎、左散騎常侍に至った。辺塞詩人として岑参とともに「高岑」と並び称され、王之渙・王昌齡・岑参と合わせて「辺塞四詩人」とも称される。『高常侍集』八巻がある。ウィキペディア【高適】参照。
出門何所見
門(もん)を出(い)づれば何(なん)の見(み)る所(ところ)ぞ
  • 出門何所見 … 門を出れば、目に入るものは何か。三国魏の王粲「七哀の詩三首」(『文選』巻二十三)の第一首に「門を出づれば見る所無く、白骨 平原を蔽(おお)う」(出門無所見、白骨蔽平原)とある。ウィキソース「七哀詩 (王粲)」参照。
  • 何 … 『唐詩品彙』では「無」に作る。
春色滿平蕪
春色(しゅんしょく) 平(へい)蕪(ぶ)に満(み)つ
  • 春色 … 春の景色。春の趣き。南朝斉の謝朓「徐都曹に和す」詩(『文選』巻三十)に「宛洛(えんらく)は遨游(ごうゆう)に佳(よ)く、春色は皇(こう)州(しゅう)に満つ」(宛洛佳遨游、春色滿皇州)とある。宛洛は、宛邑(えんゆう)(南陽)と洛陽との二都。遨游は、気ままに遊び楽しむこと。皇州は、帝都の地。ウィキソース「昭明文選/卷30」参照。
  • 平蕪 … 雑草の生い茂った平地。蕪は、生い茂った雑草。または雑草が生い茂って荒れること。東晋の陶潜「帰去来の辞」に「帰りなんいざ、田園将(まさ)に蕪(あ)れなんとす」(歸去來兮、田園將蕪)とある。ウィキソース「歸去來辭並序」参照。また、南朝梁の江淹「郊外秋を望み、殷博士に答う」詩(『古詩紀』巻八十五)に「白露江皋(こうこう)を掩い、青(せい)満ちて平地蕪(あ)る」(白露掩江皋、靑滿平地蕪)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷085」参照。
  • 満 … 満ち溢れている。
可歎無知己
歎(たん)ず可(べ)し 知己(ちき)無(な)きを
  • 可歎 … 嘆かわしいことよ。嘆かわしいことに。
  • 可 … ここでは「~するのに値(あたい)する」の意。
  • 知己 … 自分のことをよく理解してくれる人。『史記』晏嬰伝に「君子は己を知らざるに詘(くっ)するも、己を知る者に信(の)ぶ」(君子詘於不知己、而信於知己者)とある。ウィキソース「史記/卷062」参照。また、同じく刺客伝・豫譲の条にも「嗟乎(ああ)、士は己を知る者の為に死(し)し、女(じょ)は己を説(よろこ)ぶ者の為に容(かたちづく)る」(嗟乎、士爲知己者死、女爲説己者容)とある。ウィキソース「史記/卷086」参照。また、蜀漢の秦宓(しんひつ)「遠遊」詩(『古詩紀』巻二十七)に「巌穴(がんけつ)我が隣(となり)に非ず、林麓(りんろく)知己無し」(巖穴非我鄰、林麓無知己)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷027」参照。
高陽一酒徒
高陽(こうよう)の一(いち)酒(しゅ)徒(と)
  • 高陽一酒徒 … 高陽の一飲んだくれ。漢の高祖劉邦が陳留を通過したとき、酈(れき)食其(いき)が面会を申し出た。高祖は取り次ぎの使者にどんな人物かと尋ね、儒者のようであると答えたため、儒者には会う必要がないと言い、使者がそのことを食其に伝えて断った。食其は目を見開き、剣に手をかけて、「自分は高陽の酒徒である。儒者ではない」と言って高祖に伝えさせた。高祖はあわてて食其を招き入れたという故事に基づく。『史記』酈生(れきせい)伝に「酈生目を瞋(いか)らし剣を案じて使者を叱(しっ)して曰く、走れ、復た入りて沛公(はいこう)に言え、吾は高陽の酒(しゅ)徒(と)なり、儒人(じゅじん)に非ざるなり、と」(酈生瞋目案劍叱使者曰、走、復入言沛公、吾高陽酒徒也、非儒人也)とある。ウィキソース「史記/卷097」参照。ここでは、作者が自分を酈食其になぞらえている。
  • 高陽 … 漢の陳留郡の高陽。現在の河南省開封市杞(き)県の西南にある高陽鎮。河北省保定市の東南にある高陽県のことではない。『史記』酈生伝に「酈生食其(いき)は、陳(ちん)留(りゅう)の高陽の人なり」(酈生食其者、陳留高陽人也)とある。ウィキソース「史記/卷097」参照。
  • 一 … 『全唐詩』には「一作憶」と注する。
  • 酒徒 … 飲んだくれ。酒飲み。
詩型・韻字
  • 五言絶句。
  • 蕪・徒(上平声虞韻)。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻六(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻二百十四(排印本、中華書局、1960年)
  • 『高常侍集』巻八(『四部叢刊 初編集部』所収)
  • 『高常侍集』巻八(明銅活字本、『唐五十家詩集』所収、上海古籍出版社、1989年)
  • 『唐詩解』巻二十二(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『万首唐人絶句』五言・巻七(明嘉靖本影印、文学古籍刊行社、1955年)
  • 『唐詩品彙』巻四十([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『古今詩刪』巻二十(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、汲古書院)
  • 松浦友久編『続校注 唐詩解釈辞典〔付〕歴代詩』(大修館書店、2001年)
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