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送柴司戸充劉卿判官之嶺外(高適)

送柴司戶充劉卿判官之嶺外
柴(さい)司戸(しこ)が劉(りゅう)卿(けい)の判官(はんがん)に充(あ)てられて嶺外(れいがい)に之(ゆ)くを送(おく)る
高適(こうせき)
  • 五言排律。旄・曹・高・濤・刀・勞(下平声豪韻)。
  • ウィキソース「送柴司戶充劉卿判官之嶺外」「高常侍集 (四部叢刊本)/卷第七」参照。
  • 柴 … 柴は姓。柴某。人物については不詳。
  • 司戸 … 官名。司戸参軍。戸籍や土地のことを掌る地方官。
  • 劉 … 劉某。嶺南節度使。名は不明。
  • 卿 … 中央官庁の長官級の人に対する敬称。『全唐詩』には「一作鄉」に作る。『文苑英華』では「鄉」に作る。
  • 判官 … 官名。節度使・観察使などの属官。長官を補佐する職。
  • 充 … 任用される。
  • 嶺外 … 大(たい)庾(ゆ)嶺(れい)の南方一帯の地。今の広東省地方を指す。
  • 之 … 行く。
  • この詩は、司戸参軍の柴某が嶺南節度使の劉某の判官に任用されて嶺外へ赴任するのを送って作ったもの。
  • 高適 … ?~765。盛唐の詩人。滄州渤海(山東省浜州市)の人。一説に渤海郡蓨(しゅう)県(河北省景県)の人。字(あざな)は達(たつ)夫(ふ)または仲武。天宝八載(749)、有道科(科挙の一科)に推挙され、受験して及第。汴(べん)州の封(ふう)丘(きゅう)(河南省封丘県)の尉となったが、後に辞任し、辺塞を遊歴した。晩年は刑部侍郎、左散騎常侍に至った。辺塞詩人として岑参とともに「高岑」と並び称され、王之渙・王昌齡・岑参と合わせて「辺塞四詩人」とも称される。『高常侍集』八巻がある。ウィキペディア【高適】参照。
嶺外資雄鎭
嶺外(れいがい) 雄鎮(ゆうちん)に資(よ)り
  • 雄鎮 … 有力な藩鎮。重要な地にある藩鎮。嶺南節度使を指す。
  • 資 … 頼りとする。
朝端寵節旄
朝(ちょう)端(たん) 節旄(せつぽう)を寵(ちょう)す
  • 朝端 … 朝臣の首位にある者。端は、首・かしらの意。ここでは、劉卿を指す。
  • 節旄 … 天子から節度使に授けられる任命のしるしの籏。
月卿臨幕府
月卿(げっけい) 幕(ばく)府(ふ)に臨(のぞ)み
  • 月卿 … 朝廷に列する公卿。高位高官の人。劉卿を指す。『書経』洪範(こうはん)篇に「曰(いわ)く、王(おう)は省(かえり)みること惟(こ)れ歳(とし)、卿(けい)士(し)は惟(こ)れ月(つき)、師(し)尹(いん)は惟(こ)れ日(ひ)」(曰王省惟歲、卿士惟月、師尹惟日)とあるのに基づく。ウィキソース「尚書/洪範」参照。
  • 幕府 … 嶺南の幕府。本来は将軍の陣営の意。武官である節度使は地方の行政権も持っているので、その執務する役所を幕府という。
星使出詞曹
星(せい)使(し) 詞(し)曹(そう)より出(い)づ
  • 星使 … 朝廷からの使者。後漢の李(り)郃(ごう)が星占いで、朝廷から自分の住む地方に使者が来ることを知ったという故事を踏まえる。『後漢書』李郃伝に「和(わ)帝(てい)位(くらい)に即(つ)けるとき、使(し)者(しゃ)を分(ぶん)遣(い)して、皆(みな)微(び)服(ふく)単行(たんこう)して、各〻(おのおの)州(しゅう)県(けん)に至(いた)って、風謡(ふうよう)を観採(かんさい)す。使(し)者(しゃ)二(に)人(にん)当(まさ)に益(えき)部(ぶ)に到(いた)るべし。郃(ごう)の候舎(こうしゃ)に投(とう)ず。時(とき)、夏(なつ)の夕(ゆう)露(ろ)に坐(ざ)せり。郃(ごう)因(よ)って仰(あお)ぎ観(み)て問(と)いて曰(いわ)く、二(に)君(くん)京(けい)師(し)を発(はっ)する時(とき)に、寧(むし)ろ朝(ちょう)廷(てい)の二使(にし)を遣(つかわ)すを知(し)るや。二(に)人(にん)黙然(もくぜん)として、驚(おどろ)きて相(あい)視(み)て曰(いわ)く、聞(き)かざるなり。問(と)う何(なに)を以(もっ)て之(これ)を知(し)る。郃(ごう)星(ほし)を指(さ)し示(しめ)して云(いわ)く、二(に)使(し)星(せい)有(あ)って益(えき)州(しゅう)の分(ぶん)野(や)に向(むか)う。故(ゆえ)に之(これ)を知(し)るのみ」(和帝即位、分遣使者、皆微服單行、各至州縣、觀採風謠。使者二人當到益部。投郃候舍。時、夏夕露坐。郃因仰觀問曰、二君發京師時、寧知朝廷遣二使邪。二人默然、驚相視曰、不聞也。問何以知之。郃指星示云、有二使星向益州分野。故知之耳)とある。ウィキソース「後漢書/卷82上」参照。ここでは、柴某を指す。
  • 詞曹 … 文筆を掌る役所。通常は翰林院を指すが、翰林は高官が兼任、もしくは学者や文士が勤める職であり、柴某の前職とは考えにくい。
  • 出 … 選出される。
海對羊城闊
海(うみ)は羊(よう)城(じょう)に対(たい)して闊(ひろ)く
  • 羊城 … 五羊城。広東省広州市の古名。ウィキペディア【広州市】参照。昔、五人の仙人が五匹の羊に乗って現れたので、五羊城と名づけられたという。『番禺雑記』に「広(こう)州(しゅう)、昔(むかし)、五(ご)仙(せん)有(あ)り、五(ご)羊(よう)に騎(き)して至(いた)る。逐(つい)に五羊と名(な)づく」(廣州昔有五仙、騎五羊而至。逐名五羊)とある。ウィキソース「番禺雜記」参照。
  • 闊 … 遠くまで広々と広がっている様子。
山連象郡高
山(やま)は象(しょう)郡(ぐん)に連(つら)なって高(たか)し
  • 象郡 … 柳州の古名。今の広東省西南部から広西チワン族自治区・ベトナム北部一帯の地。ウィキペディア【象郡】参照。
風霜驅瘴癘
風霜(ふうそう) 瘴(しょう)癘(れい)を駆(か)り
  • 風霜 … 風と霜。厳粛な気風の喩え。劉卿の威光を指す。『文献(ぶんけん)通(つ)考(こう)』に「御(ぎょ)史(し)風霜(ふうそう)の任(にん)と為(な)す、不(ふ)法(ほう)を弾(だん)糾(きゅう)し、百僚(ひゃくりょう)震(しん)恐(きょう)す、官(かん)の雄(ゆう)峻(しゅん)なること、之(これ)に比(ひ)する莫(な)し」(御史爲風霜之任、彈糾不法、百僚震恐、官之雄峻、莫之比焉)とある。ウィキソース「文獻通考/卷五十三」参照。
  • 瘴癘 … 南方の湿地に立ち込める毒気。これに当たるとマラリアなどの熱病や皮膚病にかかるという。
  • 駆 … 追い払う。
忠信涉波濤
忠(ちゅう)信(しん) 波(は)濤(とう)を渉(わた)る
  • 忠信 … まごころを尽くし、いつわりのないこと。忠実と信義。
  • 波濤 … 高い波。濤は、うねり。
  • 忠信渉波濤 … 孔子が衛から魯に帰るとき、駕をとめて休息しながら河源を眺めていると、一人の男が水をくぐって渉るのを見た。孔子は驚いて「何か道術でもあるのか」と尋ねたところ、その男は「水に入るときには忠信をもって入り、出るときも忠信に従って出る。身を波流にまかせて私心を用いないので、安全に渡れるのだ」と答えたという、『孔子家語』致思篇や『列子』説符篇などに見える故事を踏まえる。『孔子家語』致思篇に「孔(こう)子(し)衛(えい)より魯(ろ)に反(かえ)るとき、駕(が)を河(か)梁(りょう)に息(やす)めて観(み)る。懸水(けんすい)の三(さん)十(じゅう)仞(じん)なるもの、圜(えん)流(りゅう)九(きゅう)十(じゅう)里(り)なるもの有(あ)り。魚鼈(ぎょべつ)も道(ゆ)くこと能(あた)わず、黿(げん)鼉(だ)も居(お)ること能(あた)わず。一(いち)丈(じょう)夫(ふ)有(あ)りて方(まさ)に将(まさ)に之(これ)を厲(わた)らんとす。孔(こう)子(し)人(ひと)をして涯(がい)に並(なら)べて之(これ)を止(とど)めしめて曰(いわ)く、此(こ)の懸水(けんすい)三(さん)十(じゅう)仞(じん)、圜(えん)流(りゅう)九(きゅう)十(じゅう)里(り)、魚鼈(ぎょべつ)・黿(げん)鼉(だ)も居(お)ること能(あた)わざるなり。意(おも)うに、済(わた)る可(べ)きこと難(かた)からん、と。丈(じょう)夫(ふ)以(もっ)て意(い)を措(お)かず。遂(つい)に渡(わた)りて出(い)づ。孔(こう)子(し)之(これ)に問(と)いて曰(いわ)く、子(し)は巧(たく)みなるか。道(どう)術(じゅつ)有(あ)るか。能(よ)く入(い)りて出(い)づる所以(ゆえん)の者(もの)は何(なん)ぞや、と。丈(じょう)夫(ふ)対(こた)えて曰(いわ)く、始(はじ)め吾(われ)の入(い)るや、先(ま)ず忠(ちゅう)信(しん)を以(もっ)てす。吾(われ)の出(い)づるに及(およ)びてや、又(また)従(したが)うに忠(ちゅう)信(しん)を以(もっ)てし、吾(わ)が軀(からだ)を波(は)流(りゅう)に措(お)きて、吾(われ)敢(あ)えて以(もっ)て私(わたくし)を用(もち)いず。能(よ)く入(い)りて復(ま)た出(い)づる所以(ゆえん)なり、と。孔(こう)子(し)、弟(てい)子(し)に謂(い)いて曰(いわ)く、二(に)三(さん)子(し)之(これ)を識(しる)せ。水(みず)すら且(か)つ猶(な)お忠(ちゅう)信(しん)を以(もっ)て身(み)を成(な)さば之(これ)に親(した)しむ可(べ)し。而(しか)るに況(いわ)んや人(ひと)に於(お)いてをや、と」(孔子自衞反魯、息駕於河梁而觀焉。有懸水三十仞、圜流九十里。魚鼈不能道、黿鼉不能居。有一丈夫方將厲之。孔子使人竝涯止之曰、此懸水三十仞、圜流九十里、魚鼈黿鼉不能居也。意者、難可濟也。丈夫不以措意。遂渡而出。孔子問之曰、子巧乎。有道術乎。所以能入而出者何也。丈夫對曰、始吾之入也、先以忠信。及吾之出也、又從以忠信、措吾軀於波流、而吾不敢以用私。所以能入而復出也。孔子謂弟子曰、二三子識之。水且猶可以忠信成身親之。而況於人乎)とある。ウィキソース「孔子家語/卷二」参照。
別恨隨流水
別恨(べっこん) 流(りゅう)水(すい)に随(したが)い
  • 別恨 … 別れの恨めしさ。別れの悲しみ。
  • 随流水 … 流れ去る水のまにまに、尽きることがない。
交情脫寶刀
交(こう)情(じょう) 宝刀(ほうとう)を脱(だっ)す
  • 交情 … 君との友情。
  • 脱宝刀 … 宝刀を腰からはずして相手に贈る。友情の証(あかし)として餞別とするもの。宝刀は、宝物として大切にしている刀。脱は、はずす。魏の呂虔(りょけん)が長史の王(おう)祥(しょう)に「ふさわしくない人物には、この刀は害となるが、君は大官の器があるのでこれをつけなさい」と言って宝刀を贈った故事を踏まえる。『晋書』王祥伝に「虔(けん)、祥(しょう)に謂(い)いて曰(いわ)く、苟(いやし)くも其(そ)の人(ひと)に非(あら)ざれば、刀(かたな)は或(ある)いは害(がい)と為(な)す。卿(けい)、公(こう)輔(ほ)の量(りょう)有(あ)り、故(ゆえ)に以(もっ)て相(あい)与(あた)う」(虔謂祥曰、苟非其人、刀或爲害。卿有公輔之量、故以相與)とある。公輔は、三公と四輔。ともに天子を補佐する大官。ウィキソース「晉書/卷033」参照。
有才無不適
才(さい)有(あ)れば適(てき)せざる無(な)し
  • 有才 … 才能さえあれば。
  • 無不適 … どこへ行っても思うままにならぬことはない。適は、思いどおりになること。
行矣莫徒勞
行(ゆ)けや 徒(いたず)らに労(ろう)すること莫(な)かれ
  • 行矣 … さあ行きたまえ。矣は、助辞。
  • 莫徒労 … つまらぬことにくよくよしてはいけないよ。労は、くよくよすること。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻四(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻二百十四(排印本、中華書局、1960年)
  • 『高常侍集』巻七(『四部叢刊 初編集部』所収)
  • 『高常侍集』巻下([明]許自昌編、『前唐十二家詩』所収、万暦三十一年刊、内閣文庫蔵))
  • 『高常侍集』巻七(明銅活字本、『唐五十家詩集』所収、上海古籍出版社、1989年)
  • 『文苑英華』巻二百七十(影印本、中華書局、1966年)
  • 『唐詩品彙』巻七十四([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『唐詩別裁集』巻十七([清]沈徳潜編、乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
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