>   漢詩   >   唐詩選   >   巻七 七絶   >   九曲詞(高適)

九曲詞(高適)

九曲詞
九曲きゅうきょく
高適こうせき
  • 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻二百十四、『高常侍集』巻八(『四部叢刊 初篇集部』所収)、『高常侍集』巻八(『唐五十家詩集』所収)、『楽府詩集』巻九十一・新楽府辞・楽府雑題、『万首唐人絶句』七言・巻四(明嘉靖刊本影印、文学古籍刊行社、1955年)、『古今詩刪』巻二十一(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、59頁)、『唐詩品彙』巻四十八、『唐人万首絶句選』巻三、他
  • 七言絶句。頭・侯・秋(平声尤韻)。
  • ウィキソース「九曲詞 (鐵騎橫行鐵嶺頭)」「高常侍集 (四部叢刊本)/卷第八」参照。
  • 詩題 … 『全唐詩』『四部叢刊本』『唐五十家詩集本』では「九曲詞三首 其三」に作る。『楽府詩集』『万首唐人絶句』では「九曲詞三首 其一」に作る。
  • 九曲詞 … 楽府題。九曲地方の歌。九曲は、今の青海省東南部、黄河の湾曲した所。『唐書』玄宗紀、天宝十三載の条に「三月、隴右ろうゆう河西節度使じょかん、吐蕃をやぶり、河源の九曲を復す」(三月、隴右河西節度使哥舒翰、敗吐蕃、復河源九曲)とある。ウィキソース「新唐書/卷005」参照。
  • この詩は、隴右河西節度使じょかんが吐蕃を敗り、九曲の地方を取り返した戦功を祝って詠んだもの。このとき作者は哥舒翰の幕下にいた。哥舒翰については、ウィキペディア【哥舒翰】参照。劉開揚『高適詩集編年箋註』(中華書局、1981年)の年譜には、天宝十二載(753)、五十歳の作とある。
  • 高適 … ?~765。盛唐の詩人。滄州渤海(山東省)の人。あざなは達夫または仲武。天宝八載(749)、有道科に推挙され、受験して及第。封丘(河南省封丘県)の尉に任ぜられたが辞任し、辺塞を遊歴した。晩年は刑部侍郎、左散騎常侍に至った。辺塞詩人として岑参とともに「高岑」と並び称される。『高常侍集』八巻がある。ウィキペディア【高適】参照。
鐵騎橫行鐵嶺頭
てっ横行おうこうす 鉄嶺てつれいほとり
  • 鉄騎 … 鉄の鎧をつけた騎兵。騎馬武者。転じて、勇敢で強い騎兵。『後漢書』公孫瓚伝に「且つ五千の鉄騎をはげまし、ほくしゅううちに於いて、火を起しておうさしめ、さん、内より出でて戦わんと欲す」(且厲五千鐵騎、於北隰之中、起火爲應、瓚欲自內出戰)とある。ウィキソース「後漢書/卷73」参照。
  • 騎 … 『唐詩選』では「馬」に作る。
  • 横行 … わがもの顔で駆け巡る。ここでは自由自在に駆け巡ること。『戦国策』西周策に「是れ天下、秦をつからさんと欲す。故に王に周を攻めんことを勧むるなり。秦、天下とともつかるれば、則ち令、周に横行せざらん」(是天下欲罷秦。故勸王攻周。秦與天下俱罷、則令不橫行於周矣)とある。ウィキソース「戰國策/卷02」参照。
  • 鉄嶺 … 辺塞の山の名であろうが、所在は不明。
  • 頭 … ほとり。
西看邏逤取封侯
西にしのかた邏逤らさ封侯ほうこうらん
  • 西 … 「にしのかた」と読み、「西のほう」と訳す。
  • 邏逤 … 今のチベット自治区ラサ市。唐代は吐蕃の都城。ウィキペディア【ラサ】参照。
  • 看 … 遥かに望んで。
  • 取封侯 … 軍功をあげて、諸侯に封ぜられること。『史記』項羽本紀に「労苦して功高きことかくの如し。未だ封侯の賞有らず」(勞苦而功高如此。未有封侯之賞)とある。ウィキソース「史記/卷007」参照。
  • 侯 … 『唐詩品彙』では「矦」に作る。異体字。
靑海只今將飮馬
青海せいかい 只今ただいま まさうまみずかわんとす
  • 青海 … 今の青海省東部にある湖。ココ・ノール。ウィキペディア【青海湖】参照。
  • 只今 … 今や。ただ今では。『唐人万首絶句選』では「秖今ただいま」に作る。
  • 将 … 「まさに~(んと)す」と読み、「~しようとする」と訳す。再読文字。
  • 飲馬 … 飲は「みずかう」と読む。馬に水を飲ませる。青海の辺りに敵がなく、すっかりわが手に帰したことを意味する。
黃河不用更防秋
こうもちいず さらあきふせぐを
  • 黄河 … 川の名。長江に次いで大きい。青海省から甘粛・陝西・山西・河南・山東省へと東に流れ、渤海に注ぐ。ウィキペディア【黄河】参照。
  • 不用 … ~するには及ばない。
  • 防秋 … 塞外異民族の侵入に備えること。彼らは秋に侵入することが多かったことから。『旧唐書』りく伝に「河隴を以て蕃に陥りて已来、西北の辺は常に重兵を以て守備す。之を防秋と謂う」(以河隴陷蕃已來、西北邊常以重兵守備。謂之防秋)とある。ウィキソース「舊唐書/卷139」参照。また『漢書』趙充国伝に「秋に到れば馬ゆ、へん必ず起らん」(到秋馬肥、變必起矣)とある。ウィキソース「漢書/卷069」参照。
歴代詩選
古代 前漢
後漢
南北朝
初唐 盛唐
中唐 晩唐
北宋 南宋
唐詩選
巻一 五言古詩 巻二 七言古詩
巻三 五言律詩 巻四 五言排律
巻五 七言律詩 巻六 五言絶句
巻七 七言絶句
詩人別
あ行 か行 さ行
た行 は行 ま行
や行 ら行