>   漢詩   >   唐詩選   >   巻四 五排   >   陪竇侍御泛霊雲池(高適)

陪竇侍御泛霊雲池(高適)

陪竇侍御泛霊雲池
竇(とう)侍(じ)御(ぎょ)に陪(ばい)して霊雲(れいうん)池(ち)に泛(うか)ぶ
高適(こうせき)
  • 五言排律。窮・中・風・空・驄・鴻(上平声東韻)。
  • ウィキソース「陪竇侍御泛靈雲池」「高常侍集 (四部叢刊本)/卷第七」参照。
  • この詩は、竇(とう)侍(じ)御(ぎょ)が霊雲池に舟を浮かべて遊んだ折、作者がお伴して作ったもの。天宝十三載(754)、七夕の日の作。高適には他に「竇(とう)侍(じ)御(ぎょ)の霊雲(れいうん)の南亭(なんてい)の宴(えん)に陪(ばい)す詩(し)、雷(らい)の字(じ)を得(え)たり」(陪竇侍御靈雲南亭宴詩得雷字)という詩があり、その序文に「涼州(りょうしゅう)は胡(こ)に近(ちか)く、其(そ)の池(ち)亭(てい)を高(こう)下(げ)にす。蓋(けだ)し以(もっ)て蕃落(ばんらく)に耀(かがや)かすなり。幕(ばく)府(ふ)の董帥(とうすい)雄勇(ゆうゆう)にして、径(ただ)ちに戎(じゅう)庭(てい)を践(ふ)み、陽関(ようかん)よりして西(にし)は猶(な)お枕席(ちんせき)のごとし。軍(ぐん)中(ちゅう)無事(ぶじ)、君(くん)子(し)飲(いん)食(しょく)宴楽(えんらく)す。宜(むべ)なるかな、白簡(はくかん)辺(へん)に在(あ)り、清(せい)秋(しゅう)興(きょう)多(おお)し。況(いわ)んや水(みず)は舟楫(しゅうしゅう)を具(そな)え、山(やま)は亭台(ていだい)を兼(か)ぬるをや。始(はじ)めて臨泛(りんへん)して煩(わずら)いを写(のぞ)き、俄(にわ)かに登(とう)陟(ちょく)して以(もっ)て傲(たの)しみを寄(よ)す。糸(し)桐(とう)徐(おもむ)ろに奏(かな)でて、林木(ざいもく)更(さら)に爽(さわ)やかに、蒲(ぶ)萄(どう)を觴(さかづき)くんで以(もっ)て逓(たが)いに歓(よろこ)び、蘭(らん)茞(し)を指(ゆび)さして掇(と)る可(べ)し。胡(こ)天(てん)一望(いちぼう)すれば、雲物(うんぶつ)蒼然(そうぜん)たり。雨(あめ)蕭蕭(しょうしょう)として牧(ぼく)馬(ば)声(こえ)断(た)え、風(かぜ)嫋嫋(じょうじょう)として辺(へん)歌(か)幾(いく)処(ところ)ぞ。又(また)悲(かな)しむに足(た)る」(涼州近胡、高下其池亭。蓋以耀蕃落也。幕府董帥雄勇、徑踐戎庭、自陽關而西猶枕席矣。軍中無事、君子飮食宴樂。宜哉、白簡在邊、淸秋多興。況水具舟楫、山兼亭臺。始臨泛而寫煩、俄登陟以寄傲。絲桐徐奏、林木更爽、觴蒲萄以遞歡、指蘭茞而可掇。胡天一望、雲物蒼然。雨蕭蕭而牧馬聲斷、風嫋嫋而邊歌幾處。又足悲矣)とある。
  • 竇侍御 … 竇は姓。竇某。人物については不詳。侍御は官名。侍御史。検察官のこと。竇某は、侍御史を兼ねて涼州(今の甘粛省武威市)の長官となっていたものと思われる。
  • 陪 … 随従する。随行する。お伴する。
  • 霊雲池 … 涼州(今の甘粛省武威市)にあった池の名。
  • 泛 … 舟を浮かべる。
  • 高適 … ?~765。盛唐の詩人。滄州渤海(山東省浜州市)の人。一説に渤海郡蓨(しゅう)県(河北省景県)の人。字(あざな)は達(たつ)夫(ふ)または仲武。天宝八載(749)、有道科(科挙の一科)に推挙され、受験して及第。汴(べん)州の封(ふう)丘(きゅう)(河南省封丘県)の尉となったが、後に辞任し、辺塞を遊歴した。晩年は刑部侍郎、左散騎常侍に至った。辺塞詩人として岑参とともに「高岑」と並び称され、王之渙・王昌齡・岑参と合わせて「辺塞四詩人」とも称される。『高常侍集』八巻がある。ウィキペディア【高適】参照。
白露先時降
白(はく)露(ろ) 時(とき)に先(さき)だって降(くだ)り
  • 白露 … しらつゆ。秋の到来を告げるもの。『礼記』月(がつ)令(りょう)篇に「孟(もう)秋(しゅう)の月(つき)、……涼(りょう)風(ふう)至(いた)り、白(はく)露(ろ)降(くだ)り、寒蟬(かんせん)鳴(な)き、鷹(たか)乃(すなわ)ち鳥(とり)を祭(まつ)る」(孟秋之月、……涼風至、白露降、寒蟬鳴、鷹乃祭鳥)とあるのに基づく。孟秋は、秋の初め。陰暦七月。ウィキソース「禮記/月令」参照。また『詩経』秦風・蒹(けん)葭(か)に「蒹葭蒼蒼たり、白露霜と為る」(蒹葭蒼蒼、白露爲霜)とある。蒹葭は、丈の低い葦。ひめよし。ウィキソース「詩經/蒹葭」参照。
  • 先時 … 秋の到来に先んじて。時は、秋の時節。辺地は早く秋が来ることを表している。『全唐詩』『四部叢刊本』『前唐十二家詩本』『唐五十家詩集本』では「時先」に作る。こちらは「時に先ず」と読み、「秋の到来とともにまず」の意となる。
  • 降 … 地上に降りる。
清川思不窮
清川(せいせん) 思(おも)い窮(きわ)まらず
  • 清川 … 清らかな川。澄み切った川。南朝梁の江淹「李都尉(従軍)陵」詩(『文選』巻三十一)に「悠悠(ゆうゆう)たる清川(せいせん)の水(みず)、嘉(か)魴(ほう)は薦(すす)むる所(ところ)を得(え)たり」(悠悠清川水、嘉魴得所薦)とある。ウィキソース「李都尉從軍」参照。
  • 思不窮 … (川面を眺めて)わが思いは尽きない。
江湖仍塞上
江(こう)湖(こ) 仍(な)お塞(さい)上(じょう)
  • 江湖 … 川と湖。霊雲池とその近くの川を指す。また、隠者の遊ぶ所という意も帯びる。
  • 仍 … 「なお」と読み、「やはり」と訳す。
  • 塞上 … 塞(とりで)のほとり。辺塞の地。
舟楫在軍中
舟楫(しゅうしゅう) 軍(ぐん)中(ちゅう)に在(あ)り
  • 舟楫 … 舟と櫂(かい)。ここでは舟のこと。舟を漕ぎ出しても。
  • 在軍中 … 身は軍隊の中にある。
舞換臨津樹
舞(まい)は換(か)う 津(しん)に臨(のぞ)む樹(き)
  • 舞換臨津樹 … 舞は、妓女の舞。津は、渡し場。ここでは霊雲池の舟着き場。妓女の舞の手振りがかわるにつれて、岸辺の木々の姿も次々と移り変わる。
歌饒向晚風
歌(うた)は饒(ゆた)かなり 晩(くれ)に向(むか)う風(かぜ)
  • 歌饒 … 歌声は豊かに。歌声は高らかに。饒は、「饒(おお)し」と読んでもよい。
  • 向晩風 … 暮れゆく空を吹きわたる風に乗って響く。晩風は、夕方の風。劉宋の鮑照の詩「(潯陽(じんよう)に上り)都に還る道中の作」(『文選』巻二十七)に「鱗鱗(りんりん)として夕雲(せきうん)起(おこ)り、猟猟(りょうりょう)として晩風(ばんぷう)遒(つよ)し」(鱗鱗夕雲起、獵獵晚風遒)とある。ウィキソース「還都道中作」参照。
  • 晩 … 『全唐詩』では「迥」に作り、「一作晚」と注する。
夕陽連積水
夕陽(せきよう) 積水(せきすい)に連(つら)なり
  • 夕陽 … 夕日の光。
  • 積水 … 海のこと。ここでは霊雲池の大きさを喩えたもの。『荀子』儒効篇に「積(せき)土(ど)は山(やま)と為(な)り、積水(せきすい)は海(うみ)と為(な)る」(積土而爲山、積水而爲海)とあるのに基づく。ウィキソース「荀子/儒效篇」参照。
  • 連 … つらなる。夕日の光が海のような湖面に映じて広がり、きらきらと輝いている様子。
邊色滿秋空
辺(へん)色(しょく) 秋(しゅう)空(くう)に満(み)つ
  • 辺色 … 辺塞の地の景色。
  • 満秋空 … 秋空いっぱいに満ちわたっている。
乘興宜投轄
興(きょう)に乗(じょう)じては宜(よろ)しく轄(かつ)を投(とう)ずべし
  • 乗興 … 感興のわくままに。興の赴くままに。東晋の王(おう)徽之(きし)が冬の夜、雪を愛でながら酒を飲み、左思の「招隠の詩」を詠じていたが、ふと剡渓にいる友人の戴(たい)逵(き)を訪ねようと思いたち、小舟に乗って出かけた。しかし、門前まで来て引き返してしまった。人がその理由を尋ねたところ、「自分は興に乗じて来て、興が尽きて帰ったのだ」と答えたという故事を踏まえる。『晋書』王徽之伝に「嘗(かつ)て山陰(さんいん)に居(お)り、夜(よる)雪(ゆき)初(はじ)めて霽(は)れ、月(げっ)色(しょく)清朗(せいろう)、四(し)望(ぼう)皓然(こうぜん)たり。独(ひと)り酒(さけ)を酌(く)みて、左思(さし)の招(しょう)隠(いん)の詩(し)を詠(えい)じ、忽(たちま)ち戴(たい)逵(き)を憶(おも)う。逵(き)時(とき)に剡(せん)に在(あ)り、便(すなわ)ち夜(よる)小(しょう)船(せん)に乗(じょう)じて之(これ)に詣(いた)り、宿(しゅく)を経(へ)て方(まさ)に至(いた)り、門(もん)に造(いた)りて前(すす)まずして反(かえ)る。人(ひと)其(そ)の故(ゆえ)を問(と)う、徽之(きし)曰(いわ)く、本(もと)興(きょう)に乗(じょう)じて行(ゆ)き、興(きょう)尽(つ)きて反(かえ)る。何(なん)ぞ必(かなら)ずしも安道(あんどう)を見(み)んや、と」(嘗居山陰、夜雪初霽、月色清朗、四望皓然。獨酌酒、詠左思招隱詩、忽憶戴逵。逵時在剡、便夜乘小船詣之、經宿方至、造門不前而反。人問其故、徽之曰、本乘興而行、興盡而反。何必見安道邪)とある。安道は、戴逵の字(あざな)。ウィキソース「晉書/卷080」参照。
  • 宜 … 「よろしく~べし」と読み、「当然~するのがよい」と訳す。再読文字。
  • 投轄 … 客を引き止めて遊宴すること。前漢の陳(ちん)遵(じゅん)は酒を好み、客を招いて宴を開き、客が途中で帰らぬようにと、客の車の轄(くさび)を抜き取って井戸の中に投げ込み、急用があっても帰れないようにしたという故事を踏まえる。『漢書』陳遵伝に「遵(じゅん)酒(さけ)を耆(たしな)み、大(おお)いに飲(の)む毎(ごと)に、賓客(ひんかく)堂(どう)に満(み)つ。輒(すなわ)ち門(もん)を関(とざ)し、客(かく)の車轄(しゃかつ)を取(と)り井(せい)中(ちゅう)に投(とう)ず。急(きゅう)有(あ)りと雖(いえど)も、終(つい)に去(さ)ることを得(え)ざらしむ」(遵耆酒、每大飲、賓客滿堂。輒關門、取客車轄投井中。雖有急、終不得去)とある。ウィキソース「漢書/卷092」参照。
邀歡莫避驄
歓(かん)を邀(もと)めては驄(そう)を避(さ)くること莫(な)かれ
  • 邀歓 … 客も歓楽を求めるのに。
  • 莫避驄 … 侍御史を畏れて避けることはない。無礼講といきましょう。桓典(かんてん)が侍御史に任じられたとき、その厳正さに権力を握っていた宦官たちは畏れをなした。桓典はいつも驄(そう)馬(ば)(黒毛と白毛のまざった馬)に乗っていたので、京師の人々は「行き行きて且(か)つ止(とど)まれ、驄(そう)馬(ば)御史を避けよ」と言い合ったという、『後漢書』桓典伝に見える故事を踏まえる。ウィキソース「後漢書/卷37」(玄孫典)参照。
誰憐持弱羽
誰(たれ)か憐(あわ)れまん 弱(じゃく)羽(う)を持(じ)して
  • 誰憐 … 誰が思いやってくれるだろうか。
  • 弱羽 … 羽の力が弱い小鳥。自分を謙遜して言ったもの。
猶欲伴鵷鴻
猶(な)お鵷鴻(えんこう)に伴(ともな)わんと欲(ほっ)するを
  • 猶 … それでもなお。
  • 鵷鴻 … 鵷は鵷雛(えんすう)。鳳凰の一種。鴻は、おおとり。どちらも立派な鳥。ここでは竇侍御に喩える。
  • 欲伴 … 仲間に加えていただこうとしているこの気持ちを。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻四(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻二百十四(排印本、中華書局、1960年)
  • 『高常侍集』巻七(『四部叢刊 初編集部』所収)
  • 『高常侍集』巻下([明]許自昌編、『前唐十二家詩』所収、万暦三十一年刊、内閣文庫蔵))
  • 『高常侍集』巻七(明銅活字本、『唐五十家詩集』所収、上海古籍出版社、1989年)
  • 『唐詩品彙』巻七十四([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『唐詩別裁集』巻十七([清]沈徳潜編、乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
歴代詩選
古代 前漢
後漢 魏
晋 南北朝
初唐 盛唐
中唐 晩唐
北宋 南宋
金 元
明 清
唐詩選
巻一 五言古詩 巻二 七言古詩
巻三 五言律詩 巻四 五言排律
巻五 七言律詩 巻六 五言絶句
巻七 七言絶句
詩人別
あ行 か行 さ行
た行 は行 ま行
や行 ら行