陪竇侍御泛霊雲池(高適)
陪竇侍御泛霊雲池
竇侍御に陪して霊雲池に泛ぶ
竇侍御に陪して霊雲池に泛ぶ
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻四、『全唐詩』巻二百十四、『高常侍集』巻七(『四部叢刊 初編集部』所収)、『高常侍集』巻下(『前唐十二家詩』所収)、『高常侍集』巻七(『唐五十家詩集』所収)、『唐詩品彙』巻七十四、『唐詩別裁集』巻十七、他
- 五言排律。窮・中・風・空・驄・鴻(平声東韻)。
- ウィキソース「陪竇侍御泛靈雲池」「高常侍集 (四部叢刊本)/卷第七」参照。
- この詩は、竇侍御が霊雲池に舟を浮かべて遊んだのに、作者がお伴して作ったもの。天宝十三載(754)、七夕の日の作。高適には他に「竇侍御の霊雲の南亭の宴に陪す詩、雷の字を得たり」(陪竇侍御靈雲南亭宴詩得雷字)という詩があり、その序文に「涼州は胡に近く、其の池亭を高下にす。蓋し以て蕃落に耀かすなり。幕府の董帥雄勇にして、径ちに戎庭を践み、陽関よりして西は猶お枕席のごとし。軍中無事、君子飲食宴楽す。宜なるかな、白簡辺に在り、清秋興多し。況んや水は舟楫を具え、山は亭台を兼ぬるをや。始めて臨泛して煩いを写き、俄かに登陟して以て傲しみを寄す。糸桐徐ろに奏でて、林木更に爽やかに、蒲萄を觴くんで以て逓いに歓び、蘭茞を指さして掇る可し。胡天一望すれば、雲物蒼然たり。雨蕭蕭として牧馬声断え、風嫋嫋として辺歌幾処ぞ。又悲しむに足る」(涼州近胡、高下其池亭。蓋以耀蕃落也。幕府董帥雄勇、徑踐戎庭、自陽關而西猶枕席矣。軍中無事、君子飮食宴樂。宜哉、白簡在邊、淸秋多興。況水具舟楫、山兼亭臺。始臨泛而寫煩、俄登陟以寄傲。絲桐徐奏、林木更爽、觴蒲萄以遞歡、指蘭茞而可掇。胡天一望、雲物蒼然。雨蕭蕭而牧馬聲斷、風嫋嫋而邊歌幾處。又足悲矣)とある。
- 竇侍御 … 竇は姓。竇某。人物については不明。侍御は官名。侍御史。検察官のこと。竇某は、侍御史を兼ねて涼州(今の甘粛省武威市)の長官となっていたものと思われる。
- 陪 … 随従する。随行する。お伴する。
- 霊雲池 … 涼州(今の甘粛省武威市)にあった池の名。
- 泛 … 舟を浮かべる。
- 高適 … ?~765。盛唐の詩人。滄州渤海(山東省)の人。字は達夫または仲武。天宝八載(749)、有道科に推挙され、受験して及第。封丘(河南省封丘県)の尉に任ぜられたが辞任し、辺塞を遊歴した。晩年は刑部侍郎、左散騎常侍に至った。辺塞詩人として岑参とともに「高岑」と並び称される。『高常侍集』八巻がある。ウィキペディア【高適】参照。
白露先時降
白露 時に先だって降り
- 白露 … しらつゆ。秋の到来を告げるもの。『礼記』月令篇に「孟秋の月、……涼風至り、白露降り、寒蟬鳴き、鷹乃ち鳥を祭る」(孟秋之月、……涼風至、白露降、寒蟬鳴、鷹乃祭鳥)とあるのに基づく。孟秋は、秋の初め。陰暦七月。ウィキソース「禮記/月令」参照。また『詩経』秦風・蒹葭の詩に「蒹葭蒼蒼たり、白露霜と為る」(蒹葭蒼蒼、白露爲霜)とある。蒹葭は、丈の低い葦。ひめよし。ウィキソース「詩經/蒹葭」参照。
- 先時 … 秋の到来に先んじて。時は、秋の時節。辺地は早く秋が来ることを表している。『全唐詩』『四部叢刊本』『前唐十二家詩本』『唐五十家詩集本』では「時先」に作る。こちらは「時に先ず」と読み、「秋の到来とともにまず」の意となる。
- 降 … 地上に降りる。
清川思不窮
清川 思い窮まらず
- 清川 … 清らかな川。澄み切った川。江淹の「李都尉(従軍)陵」(『文選』巻三十一)に「悠悠たる清川の水、嘉魴は薦むる所を得たり」(悠悠清川水、嘉魴得所薦)とある。ウィキソース「李都尉從軍」参照。
- 思不窮 … (川面を眺めて)わが思いは尽きない。
江湖仍塞上
江湖 仍お塞上
- 江湖 … 川と湖。霊雲池とその近くの川を指す。また、隠者の遊ぶ所という意も帯びる。
- 仍 … 「なお」と読み、「やはり」と訳す。
- 塞上 … 塞のほとり。辺塞の地。
舟楫在軍中
舟楫 軍中に在り
- 舟楫 … 舟と櫂。ここでは舟のこと。舟を漕ぎ出しても。
- 在軍中 … 身は軍隊の中にある。
舞換臨津樹
舞は換う 津に臨む樹
- 舞換臨津樹 … 舞は、妓女の舞。津は、渡し場。ここでは霊雲池の舟着き場。妓女の舞の手振りがかわるにつれて、岸辺の木々の姿も次々と移り変わる。
歌饒向晚風
歌は饒かなり 晩に向う風
- 歌饒 … 歌声は豊かに。歌声は高らかに。饒は、「饒し」と読んでもよい。
- 向晩風 … 暮れゆく空を吹きわたる風に乗って響く。晩風は、夕方の風。鮑照の「潯陽に上り都に還る道中の作」(『古詩源』巻十一)に「鱗鱗として夕雲起り、猟猟として晩風遒し」(鱗鱗夕雲起、獵獵晚風遒)とある。
- 晩 … 『全唐詩』では「迥」に作り、「一作晚」とある。
夕陽連積水
夕陽 積水に連なり
- 夕陽 … 夕日の光。
- 積水 … 海のこと。ここでは霊雲池の大きさを喩えたもの。『荀子』儒効篇に「積土は山と為り、積水は海と為る」(積土而爲山、積水而爲海)とあるのに基づく。ウィキソース「荀子/儒效篇」参照。
- 連 … つらなる。夕日の光が海のような湖面に映じて広がり、きらきらと輝いている様子。
邊色滿秋空
辺色 秋空に満つ
- 辺色 … 辺塞の地の景色。
- 満秋空 … 秋空いっぱいに満ちわたっている。
乘興宜投轄
興に乗じては宜しく轄を投ずべし
- 乗興 … 感興のわくままに。興の赴くままに。東晋の王徽之が冬の夜、雪を愛でながら酒を飲み、左思の「招隠の詩」を詠じていたが、ふと剡渓にいる友人の戴逵を訪ねようと思いたち、小舟に乗って出かけた。しかし、門前まで来て引き返してしまった。人がその理由を尋ねたところ、「自分は興に乗じて来て、興が尽きて帰ったのだ」と答えたという故事を踏まえる。『晋書』王徽之伝に「嘗て山陰に居り、夜雪初めて霽れ、月色清朗、四望皓然たり。独り酒を酌みて、左思の招隠の詩を詠じ、忽ち戴逵を憶う。逵時に剡に在り、便ち夜小船に乗じて之に詣り、宿を経て方に至り、門に造りて前まずして反る。人其の故を問う、徽之曰く、本興に乗じて行き、興尽きて反る。何ぞ必ずしも安道を見んや、と」(嘗居山陰、夜雪初霽、月色清朗、四望皓然。獨酌酒、詠左思招隱詩、忽憶戴逵。逵時在剡、便夜乘小船詣之、經宿方至、造門不前而反。人問其故、徽之曰、本乘興而行、興盡而反。何必見安道邪)とある。安道は、戴逵の字。ウィキソース「晉書/卷080」参照。
- 宜 … 「よろしく~べし」と読み、「当然~するのがよい」と訳す。再読文字。
- 投轄 … 客を引き止めて遊宴すること。前漢の陳遵は酒を好み、客を招いて宴を開き、客が途中で帰らぬようにと、客の車の轄を抜き取って井戸の中に投げ込み、急用があっても帰れないようにしたという故事を踏まえる。『漢書』陳遵伝に「遵酒を耆み、大いに飲む毎に、賓客堂に満つ。輒ち門を関し、客の車轄を取り井中に投ず。急有りと雖も、終に去ることを得ざらしむ」(遵耆酒、每大飲、賓客滿堂。輒關門、取客車轄投井中。雖有急、終不得去)とある。ウィキソース「漢書/卷092」参照。
邀歡莫避驄
歓を邀めては驄を避くること莫かれ
- 邀歓 … 客も歓楽を求めるのに。
- 莫避驄 … 侍御史を畏れて避けることはない。無礼講といきましょう。桓典が侍御史に任じられたとき、その厳正さに権力を握っていた宦官たちは畏れをなした。桓典はいつも驄馬(黒毛と白毛のまざった馬)に乗っていたので、京師の人々は「行き行きて且つ止まれ、驄馬御史を避けよ」と言い合ったという、『後漢書』桓典伝に見える故事を踏まえる。ウィキソース「後漢書/卷37」(玄孫典)参照。
誰憐持弱羽
誰か憐れまん 弱羽を持して
- 誰憐 … 誰が思いやってくれるだろうか。
- 弱羽 … 羽の力が弱い小鳥。自分を謙遜して言ったもの。
猶欲伴鵷鴻
猶お鵷鴻に伴わんと欲するを
- 猶 … それでもなお。
- 鵷鴻 … 鵷は鵷雛。鳳凰の一種。鴻は、おおとり。どちらも立派な鳥。ここでは竇侍御に喩える。
- 欲伴 … 仲間に加えていただこうとしているこの気持ちを。
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