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詠史(高適)

詠史
えい
高適こうせき
  • 〔テキスト〕 『唐詩選』巻六、『全唐詩』巻二百十四、『高常侍集』巻八(『四部叢刊 初篇集部』所収)、『高常侍集』巻八(『唐五十家詩集』所収)、『万首唐人絶句』五言・巻七(明嘉靖刊本影印、文学古籍刊行社、1955年)、『古今詩刪』巻二十(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、51頁)、『唐詩品彙』巻四十、『唐人万首絶句選』巻一、他
  • 五言絶句。寒・看(平声寒韻)。
  • ウィキソース「詠史 (高適)」「高常侍集 (四部叢刊本)/卷第八」参照。
  • 詠史 … 歴史的事実を題材にして詩を詠むこと。
  • この詩は、范雎はんしょしゅとの史実を詠んだもの。戦国時代、范雎は、はじめ魏の中大夫須賈に仕えていた。須賈の供をして斉へ行ったとき、斉の襄王が范雎の弁舌に感心して金十斤と牛肉と酒を贈ったが、范雎は辞退して受け取らなかった。このことを知った須賈は激怒し、てっきり范雎が斉に内通したものと考えた。そして范雎に牛肉と酒は受け取らせ、金十斤は返させた。魏に帰国してから、須賈はこのことを宰相に告げた。范雎は残酷な刑に処せられたが、辛うじて逃げ出し、張禄と名を変えて秦に入り、秦の昭王に仕え、ついに宰相にまで出世した。そこへ須賈が魏の使者としてやってきた。范雎は身分を隠し、わざと見すぼらしい身なりをして須賈の宿を訪問した。須賈は范雎を憐れみ、綿入れの上着をめぐんだ。その後、須賈は宰相に謁見し、それが范雎であることを知って驚き、謝罪した。范雎はそれを許したという。『史記』范雎伝に「范雎はんしょは、ひとなり。あざなしゅく諸侯しょこう游説ゆうぜいし、おうつかえんとほっす。いえまずしくもっみずかするし。すなわちゅうたいしゅつかう。……しゅいわく、いましゅくなにをかこととする、と。范雎はんしょいわく、しんひとため庸賃ようちんす、と。しゅこころこれあわれみ、とどめてともいんしょくす。いわく、はんしゅく一寒いっかんかくごときか、と。すなわいち綈袍てうほうりてもっこれたまう」(范雎者、魏人也。字叔。游說諸侯、欲事魏王。家貧無以自資。乃先事魏中大夫須賈。……須賈曰、今叔何事。范雎曰、臣爲人庸賃。須賈意哀之、留與坐飮食。曰、范叔一寒如此哉。乃取其一綈袍以賜之)とある。ウィキソース「史記/卷079」参照。また范雎と須賈については、ウィキペディア【范雎】【須賈】参照。
  • 高適 … ?~765。盛唐の詩人。滄州渤海(山東省)の人。あざなは達夫または仲武。天宝八載(749)、有道科に推挙され、受験して及第。封丘(河南省封丘県)の尉に任ぜられたが辞任し、辺塞を遊歴した。晩年は刑部侍郎、左散騎常侍に至った。辺塞詩人として岑参とともに「高岑」と並び称される。『高常侍集』八巻がある。ウィキペディア【高適】参照。
尚有綈袍贈
綈袍ていほうぞう
  • 尚 … それでもなお。ここでは須賈が范雎を憎み、死に至らしめようとしたことを前提に言っている。
  • 綈袍 … 厚い絹の綿入れ。厚い絹で作ったどてら。綈は、厚い絹。袍は、綿入れ。『史記』范雎伝に「しかれどもこうするきを所以ゆえんは、綈袍ていほう恋恋れんれんとして、じんこころるをもってなり。ゆえこうゆるす」(然公之所以得無死者、以綈袍戀戀、有故人之意。故釋公)とある。ウィキソース「史記/卷079」参照。
  • 贈 … 贈り物。
應憐范叔寒
まさはんしゅくかんあわれむなるべし
  • 応 … 「まさに~すべし」と読み、「きっと~であろう」と訳す。再読文字。強い推量の意を示す。
  • 范叔 … 叔は、范雎のあざな。『史記』范雎伝に「范雎はんしょは、ひとなり。あざなしゅく」(范雎者、魏人也。字叔)とある。ウィキソース「史記/卷079」参照。
  • 寒 … 寒そうな姿。または貧乏そうな姿。
  • 憐 … 気の毒に思う。
不知天下士
てんなるをらず
  • 天下士 … 天下の名士。大人物。ここでは秦の宰相となった范雎を指す。『史記』魯仲連伝に「はじ先生せんせいもっ庸人ようじんすも、われすなわ今日こんにち先生せんせいてんたるをれり」(始以先生爲庸人、吾乃今日知先生爲天下之士也)とある。庸人は、凡人。ウィキソース「史記/卷083」参照。
猶作布衣看
布衣ふいかん
  • 猶 … やはりなお。
  • 布衣 … 麻や綿の服。転じて無位無官の平民・庶民を表す。諸葛孔明の「出師の表」(『文選』巻三十七)に「しんもと布衣ふいにして、みずか南陽なんようたがやし、いやしくも性命せいめい乱世らんせいまっとうして、聞達ぶんたつ諸侯しょこうもとめず」(臣本布衣、躬耕於南陽、苟全性命於亂世、不求聞達於諸侯)とある。ウィキソース「出師表」参照。
  • 作~看 … ~と見なす。
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