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詠史(高適)

詠史
詠(えい)史(し)
高適(こうせき)
  • ウィキソース「詠史 (高適)」「高常侍集 (四部叢刊本)/卷第八」参照。
  • この詩は、戦国時代の范雎(はんしょ)と須(しゅ)賈(か)との史実を詠んだもので、須賈が范雎に同情する心は持ちながらも、彼の才能を見抜けなかったことを批判するとともに、作者自身が長く不遇の時代を過ごし、なかなか認められなかったことに対する憤りも込めて作ったものである。范雎は、はじめ魏の中大夫須賈に仕えていた。須賈の供をして斉へ行ったとき、斉の襄王が范雎の弁舌に感心して金十斤と牛肉と酒を贈ったが、范雎は辞退して受け取らなかった。このことを知った須賈は激怒し、てっきり范雎が斉に内通したものと考えた。そして范雎に牛肉と酒は受け取らせ、金十斤は返させた。魏に帰国してから、須賈はこのことを宰相の魏斉に告げた。魏斉によって范雎は残酷な刑に処せられ、簀(す)巻きにされて厠(かわや)に放置されるという屈辱を受けた。その後、辛うじて逃げ出し、張(ちょう)禄(ろく)と名を変えて秦に入り、秦の昭王に仕え、ついに宰相にまで出世した。そこへ須賈が魏の使者としてやってきた。范雎は身分を隠し、わざと見すぼらしい身なりをして須賈の宿を訪問した。須賈は范雎を憐れみ、綿入れの絹の上着をめぐんだ。その後、須賈は宰相に謁見し、それが范雎であることを知って驚き、謝罪した。范雎はそれを許したという。『史記』范雎伝に「范雎(はんしょ)は、魏の人なり。字(あざな)は叔(しゅく)。諸侯に游説(ゆうぜい)し、魏王に事(つか)えんと欲す。家貧しく以て自ら資(し)する無し。乃ち先ず魏の中(ちゅう)大(たい)夫(ふ)須(しゅ)賈(か)に事(つか)う。……須賈曰く、今、叔(しゅく)は何をか事(こと)とする、と。范雎曰く、臣、人の為に庸賃(ようちん)す、と。須賈意(こころ)に之を哀れみ、留めて与(とも)に坐し飲食す。曰く、范(はん)叔(しゅく)、一(ひと)えに寒なること此(か)くの如きかな、と。乃ち其の一(いち)綈袍(てうほう)を取りて以て之に賜(たま)う」(范雎者、魏人也。字叔。游說諸侯、欲事魏王。家貧無以自資。乃先事魏中大夫須賈。……須賈曰、今叔何事。范雎曰、臣爲人庸賃。須賈意哀之、留與坐飮食。曰、范叔一寒如此哉。乃取其一綈袍以賜之)とある。ウィキソース「史記/卷079」参照。また、范雎と須賈については、ウィキペディア【范雎】【須賈】参照。
  • 詠史 … 「史を詠ず」と読んでもよい。歴史的事実を題材にして詩を詠むこと。
  • 高適 … ?~765。盛唐の詩人。滄州渤海県(山東省浜州市)の人。一説に渤海郡蓨(しゅう)県(河北省景県)の人。字(あざな)は達(たつ)夫(ふ)または仲武。天宝八載(749)、有道科(科挙の一科)に推挙され、受験して及第。汴(べん)州の封(ふう)丘(きゅう)(河南省封丘県)の尉となったが、後に辞任し、辺塞を遊歴した。晩年は刑部侍郎、左散騎常侍に至った。辺塞詩人として岑参とともに「高岑」と並び称され、王之渙・王昌齡・岑参と合わせて「辺塞四詩人」とも称される。『高常侍集』八巻がある。ウィキペディア【高適】参照。
尚有綈袍贈
尚(な)お綈袍(ていほう)の贈(ぞう)有(あ)り
  • 尚 … それでもなお。ここでは、須賈が范雎を憎み、死に至らしめようとしたことを前提に言っている。
  • 綈袍 … 厚い絹の綿入れ。厚い絹で作ったどてら。綈は、厚い絹。袍は、綿入れ。『史記』范雎伝に「然(しか)れども公の死する無きを得る所以は、綈袍恋恋(れんれん)として、故人の意(こころ)有るを以てなり。故に公を釈(ゆる)す」(然公之所以得無死者、以綈袍戀戀、有故人之意。故釋公)とある。公は、須賈を指す。故人は、古くからの友人。ウィキソース「史記/卷079」参照。
  • 贈 … 贈り物。
應憐范叔寒
応(まさ)に范(はん)叔(しゅく)の寒(かん)を憐(あわ)れむなるべし
  • 応 … 「まさに~すべし」と読み、「きっと~であろう」と訳す。再読文字。強い推量の意を示す。
  • 范叔 … 叔は、范雎の字(あざな)。『史記』范雎伝に「范雎は、魏の人なり。字(あざな)は叔」(范雎者、魏人也。字叔)とある。ウィキソース「史記/卷079」参照。
  • 寒 … (范雎の)寒そうな姿。または貧乏そうな姿。
  • 憐 … 気の毒に思う。
不知天下士
天(てん)下(か)の士(し)なるを知(し)らず
  • 天下士 … 天下の名士。大人物。ここでは、秦の宰相となった范雎を指す。『史記』魯仲連伝に「始め先生を以て庸人(ようじん)と為すも、吾(われ)乃ち今日、先生の天下の士たるを知れり」(始以先生爲庸人、吾乃今日知先生爲天下之士也)とある。庸人は、凡人。ウィキソース「史記/卷083」参照。
猶作布衣看
猶(な)お布衣(ふい)の看(かん)を作(な)す
  • 猶 … やはりなお。
  • 布衣 … 麻や綿の服。転じて無位無官の平民・庶民を表す。蜀漢の諸葛亮「出師の表」(『文選』巻三十七)に「臣は本(も)と布衣にして、躬(みずか)ら南陽に耕し、苟(いやし)くも性命(せいめい)を乱世に全うして、聞達(ぶんたつ)を諸侯に求めず」(臣本布衣、躬耕於南陽、苟全性命於亂世、不求聞達於諸侯)とある。南陽は、郡名。南陽郡襄陽(現在の湖北省襄陽市)の西方にある隆中をいう。性命は、生命に同じ。聞達は、有名になり出世すること。名聞栄達。ウィキソース「出師表」参照。
  • 作~看 … ~と見なす。
詩型・韻字
  • 五言絶句。
  • 寒・看(上平声寒韻)。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻六(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻二百十四(排印本、中華書局、1960年)
  • 『高常侍集』巻八(『四部叢刊 初編集部』所収)
  • 『高常侍集』巻八(明銅活字本、『唐五十家詩集』所収、上海古籍出版社、1989年)
  • 『唐詩解』巻二十二(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『万首唐人絶句』五言・巻七(明嘉靖本影印、文学古籍刊行社、1955年)
  • 『唐詩品彙』巻四十([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『古今詩刪』巻二十(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、汲古書院)
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