塞上聞吹笛(高適)
塞上聞吹笛
塞上にて笛を吹くを聞く
塞上にて笛を吹くを聞く
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻二百十四、『高常侍集』巻八(『四部叢刊 初篇集部』所収)、『高常侍集』巻八(『唐五十家詩集』所収)、『万首唐人絶句』七言・巻四(明嘉靖刊本影印、文学古籍刊行社、1955年)、『文苑英華』巻二百十二、『古今詩刪』巻二十一(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、59頁)、『唐詩品彙』巻四十八、『唐人万首絶句選』巻三、『河岳英霊集』巻上、『国秀集』巻下、『才調集』巻一、他
- 七言絶句。還・閒・山(平声刪韻)。
- ウィキソース「和王七玉門關聽吹笛」「高常侍集 (四部叢刊本)/卷第八」参照。
- 詩題 … 『全唐詩』では「王七の玉門関にて笛を吹くを聴くに和す」(和王七玉門關聽吹笛)に作り、題下に「一に塞上にて笛を聞くに作る」(一作塞上聞笛)とある。また詩句にも異同があり、「胡人笛を吹く(一に羌に作る)戍楼の間、楼上蕭条として海(一に明に作る)月間かなり、借問す落梅凡そ幾曲ぞ、風に従いて一夜関山に満つ」(胡人吹〔一作羌〕笛戍樓間、樓上蕭條海〔一作明〕月閒、借問落梅凡幾曲、從風一夜滿關山)とある。『四部叢刊本』『唐五十家詩集本』『万首唐人絶句』『古今詩刪』『唐詩品彙』では「塞上聴吹笛」に作る。『唐人万首絶句選』では「塞上聞笛」に作る。『文苑英華』では「塞上聴吹笛」に作り、前半二句のあとに「一作胡人羗笛戍樓間、樓上蕭條明月間」とある。『河岳英霊集』では「塞上聞笛」に作り、詩句は「胡人羗笛戍樓間、樓上蕭條明月閑、借問梅花何處落、風吹一夜滿關山」に作る。『国秀集』では「和王七度玉門關上吹笛」に作り、詩句は「胡人吹笛戍樓間、樓上蕭條海月閑、借問落梅凡幾曲、從風一夜滿關山」に作る。『才調集』では宋済の作とし、詩題を「塞上聞笛」に作り、詩句は「胡兒吹笛戍樓間、樓上蕭條海月閒、借問梅花何處落、風吹一夜滿關山」に作る。
- 塞上 … 辺境の塞のほとりで。
- この詩は、辺境の塞のほとりで、笛の音を聴いて詠んだもの。
- 高適 … ?~765。盛唐の詩人。滄州渤海(山東省)の人。字は達夫または仲武。天宝八載(749)、有道科に推挙され、受験して及第。封丘(河南省封丘県)の尉に任ぜられたが辞任し、辺塞を遊歴した。晩年は刑部侍郎、左散騎常侍に至った。辺塞詩人として岑参とともに「高岑」と並び称される。『高常侍集』八巻がある。ウィキペディア【高適】参照。
雪淨胡天牧馬還
雪浄く 胡天 馬を牧して還れば
- 雪浄 … 雪が浄らかに降り積もっている様子。
- 胡天 … 胡地の空。遊牧民族の地の空。
- 牧馬還 … 放牧の馬を連れて帰ってくると。牧馬は、放し飼いの馬。『説文解字』巻三下、攴部に「牧は、牛を養う人なり」(牧、養牛人也)とある。ウィキソース「說文解字/03」参照。
月明羌笛戍樓閒
月は明らかに 羌笛 戍楼の間
- 月明 … 月明かりのもとに。月が明るく照らしている中。
- 羌笛 … もとは羌族が吹く笛のこと。羌族は、チベット系異民族。ここでは、羌笛を吹いているのは胡人ではなく、辺境の守備兵であろう。馬融の「長笛の賦」(『文選』巻十八)に「近世の双笛は羌より起る。羌人竹を伐りて未だ已わるに及ばざるに、竜水中に鳴きて己を見さず。竹を截りて之を吹くに声相似たり。其の上孔を剡りて之を通洞し、裁りて以て簻に当て便にして持ち易し。易の京君明音律を識り、故に本四孔にして加うるに一を以てす。君明の加うる所の孔後に出で、是を商声と謂い、五音畢わる」(近世雙笛從羌起。羌人伐竹未及已、龍鳴水中不見己。截竹吹之聲相似。剡其上孔通洞之、裁以當簻便易持。易京君明識音律、故本四孔加以一。君明所加孔後出、是謂商聲、五音畢)とある。ウィキソース「長笛賦」参照。
- 羌 … 『四部叢刊本』『唐五十家詩集本』『万首唐人絶句』『文苑英華』『古今詩刪』では「羗」に作る。異体字。
- 戍楼 … 見張り用の櫓。物見櫓。戍は、武器を持って国境を守ること。『説文解字』巻十二下、戈部に「戍は、辺を守るなり」(戍、守邊也)とある。ウィキソース「說文解字/12」参照。
- 間 … あたり。『唐人万首絶句選』では「閑」に作る。
借問梅花何處落
借問す 梅花 何れの処よりか落つる
- 借問 … ちょっとお尋ねしますが。
- 梅花 … この梅の花は。笛の曲名「梅花落」(『楽府詩集』巻第二十四・横吹曲辞・漢の横吹曲)に掛けている。ウィキソース「樂府詩集/024卷」参照。
- 何処落 … どこから落ちてくるのだろうか。どこから散ってくるのだろうか。
- 處 … 『文苑英華』『古今詩刪』では「」に作る。異体字。
風吹一夜滿關山
風吹いて 一夜 関山に満つ
- 風吹 … 風に吹かれて。風の吹くままに。
- 一夜 … 一晩中。夜もすがら。
- 関山 … 関所のある山。辺塞の山。関は、関塞。国境の関所の砦。笛の曲名「関山月」(『楽府詩集』巻二十三・横吹曲辞・漢横吹曲)に掛けている。楽府解題に「関山月は離別を傷むなり」(關山月傷離別也)とある。ウィキソース「樂府詩集/023卷」参照。
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