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別董大(高適)

別董大
董大(とうだい)に別(わか)る
高適(こうせき)
  • 七言絶句。曛・紛・君(上平声文韻)。
  • ウィキソース「別董大 (十里黃雲白日曛)」「高常侍集 (四部叢刊本)/卷第八」参照。
  • 詩題 … 『全唐詩』『四部叢刊本』『唐五十家詩集本』では「別董大二首其一」に作る。『万首唐人絶句』では「別董大二首其二」に作る。
  • 董大 … 人名。董は、姓。大は、排行第一(一族中の同世代の最年長者)。董大については、琴の名手である董(とう)庭蘭(ていらん)とする説と、董(とう)令望(れいぼう)とする説とに分かれる。董庭蘭については、同時代の詩人李頎(りき)に「董大の胡笳(こか)を弾ずるを聴き、兼ねて語を寄せ、房給事に弄(たわむ)る」(聽董大彈胡笳兼寄語弄房給事)(『唐詩三百首』七言古詩、『全唐詩』巻一百三十三)という詩がある。ウィキソース「聽董大彈胡笳聲兼寄語弄房給事」参照。一方、徐俊纂輯『敦煌詩集残巻輯考』(中華書局、2000年、95頁)では、詩題を「董令望に別る」(別董令望)に作る。董令望という人物については未詳。
  • 別 … 送別する。
  • この詩は、董某という人物に作者が辺境で遭遇し、また旅立っていく彼を励まして詠んだもの。劉開揚『高適詩集編年箋註』(中華書局、1981年)の年譜には、天宝六載(747)、四十四歳の作とある。
  • 高適 … ?~765。盛唐の詩人。滄州渤海(山東省浜州市)の人。一説に渤海郡蓨(しゅう)県(河北省景県)の人。字(あざな)は達(たつ)夫(ふ)または仲武。天宝八載(749)、有道科(科挙の一科)に推挙され、受験して及第。汴(べん)州の封(ふう)丘(きゅう)(河南省封丘県)の尉となったが、後に辞任し、辺塞を遊歴した。晩年は刑部侍郎、左散騎常侍に至った。辺塞詩人として岑参とともに「高岑」と並び称され、王之渙・王昌齡・岑参と合わせて「辺塞四詩人」とも称される。『高常侍集』八巻がある。ウィキペディア【高適】参照。
十里黃雲白日曛
十(じゅう)里(り)の黄雲(こううん) 白日(はくじつ)曛(くら)し
  • 十里 … 十里の彼方まで。ここでは「空一面に」の意。
  • 十 … 『唐詩別裁集』では「千」に作る。
  • 黄雲 … 黄色い雲。黄色がかった雲。黄塵を巻き上げた雲。『淮南子』墬(ち)形(けい)訓に「黄泉の埃、上(のぼ)りて黄雲と為るや、陰陽相薄(せま)りて雷と為り、激揚(げきよう)して電と為る」(黃泉之埃、上爲黃雲、陰陽相薄爲雷、激揚爲電)とある。ウィキソース「淮南子/墜形訓」参照。また、南朝梁の江淹「雑体詩三十首 古離別」(『文選』巻三十一、『玉台新詠』巻五)に「黄雲は千里を蔽(おお)う、遊子は何れの時にか還らん」(黄雲蔽千里、遊子何時還)とある。ウィキソース「古離別 (江淹)」参照。
  • 白日 … 太陽。太陽の光。
  • 曛 … 太陽の光がぼんやりしていること。暗くかすむこと。たそがれ時の淡い光を指す。『集韻』に「曛は、日入るの余光」(曛、日入餘光)とある。ウィキソース「集韻 (四庫全書本)/卷02」参照。
北風吹雁雪紛紛
北風(ほくふう) 雁(かり)を吹(ふ)いて雪(ゆき)紛紛(ふんぷん)
  • 紛紛 … 盛んに入り乱れること。雪が盛んに降る形容。『詩経』小雅・信南山に「上(じょう)天(てん)雲(くも)同(あつ)まり、雪(ゆき)を雨(ふ)らすこと雰雰(ふんぷん)たり」(上天同雲、雨雪雰雰)とあり、その毛伝に「雰雰は雪ふる貌。豊年の冬、必ず積雪有り」(雰雰雪貌。豐年之冬、必有積雪)とある。雰は、紛の仮借字。ウィキソース「詩經/信南山」「毛詩正義 (四庫全書本)/卷20」参照。
莫愁前路無知己
愁(うれ)うる莫(な)かれ 前(ぜん)路(ろ) 知己(ちき)無(な)きを
  • 莫愁 … 心配することはない。心配するな。
  • 莫 … 「~(こと)なかれ」と読み、「~してはいけない」「~するな」と訳す。禁止の意を表す。「勿」も同じ。
  • 前路 … これからの旅先。
  • 知己 … 自分をよく理解してくれる人。『史記』晏嬰伝に「君子は己を知らざるに詘(くっ)するも、己を知る者に信(の)ぶ」(君子詘於不知己、而信於知己者)とある。ウィキソース「史記/卷062」参照。また、刺客伝・豫譲の条にも「嗟乎(ああ)、士は己を知る者の為に死(し)し、女は己を説(よろこ)ぶ者の為に容(かたちづく)る」(嗟乎、士爲知己者死、女爲説己者容)とある。ウィキソース「史記/卷086」参照。また、蜀漢の秦宓(しんひつ)「遠遊」詩に「巌穴(がんけつ)我が隣(となり)に非ず、林麓(りんろく)知己無し」(巖穴非我鄰、林麓無知己)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷027」参照。
  • 服部南郭『唐詩選国字解』には「莫愁なぐさむる辭なり、そこもとは、手前がやうな親しい友達にわかるれば、前路で知己なものがあるまいと、氣の毒に思し召すな」とある。『漢籍国字解全書』第10巻(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
天下誰人不識君
天(てん)下(か) 誰人(たれびと)か君(きみ)を識(し)らざらん
  • 誰人不識君 … 誰が君を知らないだろうか、いや誰だって君を知っている。
  • 誰人 … 「たれひとか~(せ)ん」と読み、「誰が~(するの)か、いや誰も~(し)ない」と訳す。反語を表す。
  • 服部南郭『唐詩選国字解』には「そこもとは器量すぐれた人なれば、ゆくさきで重じ、君を待受るであらう程に、愁ずに氣象にしてゆかれい」とある。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻七(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻二百十四(排印本、中華書局、1960年)
  • 『高常侍集』巻八(『四部叢刊 初編集部』所収)
  • 『高常侍集』巻八(明銅活字本、『唐五十家詩集』所収、上海古籍出版社、1989年)
  • 『万首唐人絶句』七言・巻四(明嘉靖本影印、文学古籍刊行社、1955年)
  • 『古今詩刪』巻二十一(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、汲古書院)
  • 『唐詩品彙』巻四十八([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『唐詩別裁集』巻十九([清]沈徳潜編、乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
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