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別董大(高適)

別董大
董大とうだいわか
高適こうせき
  • 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻二百十四、『高常侍集』巻八(『四部叢刊 初篇集部』所収)、『高常侍集』巻八(『唐五十家詩集』所収)、『万首唐人絶句』七言・巻四(明嘉靖刊本影印、文学古籍刊行社、1955年)、『古今詩刪』巻二十一(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、59頁)、『唐詩品彙』巻四十八、『唐詩別裁集』巻十九、他
  • 七言絶句。曛・紛・君(平声文韻)。
  • ウィキソース「別董大 (十里黃雲白日曛)」「高常侍集 (四部叢刊本)/卷第八」参照。
  • 詩題 … 『全唐詩』『四部叢刊本』『唐五十家詩集本』では「別董大二首 其一」に作る。『万首唐人絶句』では「別董大二首 其二」に作る。
  • 董大 … 人名。董は姓。大は排行第一(一族中の同世代の最年長者)。董大については、琴の名手であるとう庭蘭ていらんとする説と、とう令望れいぼうとする説とに分かれる。董庭蘭については、同時代の詩人李頎りきに「董大の胡笳こかを弾ずるを聴き、兼ねて語を寄せ、房給事にたわむる」(聽董大彈胡笳兼寄語弄房給事)(『唐詩三百首』七言古詩、『全唐詩』巻一百三十三)という詩がある。ウィキソース「聽董大彈胡笳聲兼寄語弄房給事」参照。一方、徐俊纂輯『敦煌詩集残巻輯考』(中華書局、2000年、95頁)では、詩題を「董令望に別る」(別董令望)に作る。董令望という人物については未詳。
  • 別 … 送別する。
  • この詩は、董某という人物に作者が辺境で遭遇し、また旅立っていく彼を励まして詠んだもの。劉開揚『高適詩集編年箋註』(中華書局、1981年)の年譜には、天宝六載(747)、四十四歳の作とある。
  • 高適 … ?~765。盛唐の詩人。滄州渤海(山東省)の人。あざなは達夫または仲武。天宝八載(749)、有道科に推挙され、受験して及第。封丘(河南省封丘県)の尉に任ぜられたが辞任し、辺塞を遊歴した。晩年は刑部侍郎、左散騎常侍に至った。辺塞詩人として岑参とともに「高岑」と並び称される。『高常侍集』八巻がある。ウィキペディア【高適】参照。
十里黃雲白日曛
じゅう黄雲こううん 白日はくじつくら
  • 十里 … 十里の彼方まで。ここでは「空一面に」の意。
  • 十 … 『唐詩別裁集』では「千」に作る。
  • 黄雲 … 黄色い雲。黄色がかった雲。黄塵を巻き上げた雲。『淮南子』けい訓に「黄泉の埃、のぼりて黄雲と為るや、陰陽相せまりて雷と為り、激揚げきようして電と為る」(黃泉之埃、上爲黃雲、陰陽相薄爲雷、激揚爲電)とある。ウィキソース「淮南子/墜形訓」参照。また江淹の「雑体詩三十首 古離別」(『文選』巻三十一、『玉台新詠』巻五)に「黄雲は千里をおおう、遊子は何れの時にか還らん」(黄雲蔽千里、遊子何時還)とある。ウィキソース「古離別 (江淹)」参照。
  • 白日 … 太陽。太陽の光。
  • 曛 … 太陽の光がぼんやりしていること。暗くかすむこと。たそがれ時の淡い光を指す。『集韻』に「曛は、日入るの余光」(曛、日入餘光)とある。ウィキソース「集韻 (四庫全書本)/卷02」参照。
北風吹雁雪紛紛
北風ほくふう かりいてゆき紛紛ふんぷん
  • 雁 … 『唐詩選』『四部叢刊本』『唐五十家詩集本』『万首唐人絶句』『唐詩品彙』では「鴈」に作る。同義。
  • 紛紛 … 盛んに入り乱れること。雪が盛んに降る形容。『詩経』小雅・信南山の詩に「じょうてんくもあつまり、ゆきらすこと雰雰ふんぷんたり」(上天同雲、雨雪雰雰)とある。雰は、紛の仮借字。毛伝に「雰雰は雪ふる貌。豊年の冬、必ず積雪有り」(雰雰雪貌。豐年之冬、必有積雪)とある。ウィキソース「詩經/信南山」「毛詩正義 (四庫全書本)/卷20」参照。
莫愁前路無知己
うれうるかれ ぜん 知己ちききを
  • 莫愁 … 心配することはない。心配するな。
  • 莫 … 「~(こと)なかれ」と読み、「~してはいけない」「~するな」と訳す。禁止の意を表す。「勿」も同じ。
  • 前路 … これからの旅先。
  • 知己 … 自分をよく理解してくれる人。『史記』晏嬰伝に「君子は己を知らざるにくっするも、己を知る者にぶ」(君子詘於不知己、而信於知己者)とある。ウィキソース「史記/卷062」参照。また刺客伝・豫譲の条にも「嗟乎ああ、士は己を知る者の為にし、女は己をよろこぶ者の為にかたちづくる」(嗟乎、士爲知己者死、女爲説己者容)とある。ウィキソース「史記/卷086」参照。また秦宓しんひつの「遠遊」(『古詩紀』巻二十七)に「巌穴がんけつ我がとなりに非ず、林麓りんろく知己無し」(巖穴非我鄰、林麓無知己)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷027」参照。
  • 己 … 『四部叢刊本』『唐五十家詩集本』『古今詩刪』『唐詩別裁集』『唐詩品彙』では「巳」に作る。『万首唐人絶句』では「已」に作る。
  • 服部南郭『唐詩選国字解』には「莫愁なぐさむる辭なり、そこもとは、手前がやうな親しい友達にわかるれば、前路で知己なものがあるまいと、氣の毒に思し召すな」とある。『漢籍国字解全書』第10巻(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
天下誰人不識君
てん 誰人たれびときみらざらん
  • 誰人不識君 … 誰が君を知らないだろうか、いや誰だって君を知っている。
  • 誰人 … 「たれひとか~(せ)ん」と読み、「誰が~(するの)か、いや誰も~(し)ない」と訳す。反語を表す。
  • 服部南郭『唐詩選国字解』には「そこもとは器量すぐれた人なれば、ゆくさきで重じ、君を待受るであらう程に、愁ずに氣象にしてゆかれい」とある。
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唐詩選
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巻三 五言律詩 巻四 五言排律
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巻七 七言絶句
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