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死せる孔明生ける仲達を走らす

せる孔明こうめいけるちゅうたつはしらす
  • 出典:『十八史略』巻三・三国〔漢〕・後皇帝(国立国会図書館デジタルコレクション「十八史畧 二」参照)、『蜀志』諸葛亮伝・注
  • 解釈:死後なお威光が残っていて、生きている人を畏れさせること。しょく諸葛しょかつ孔明は、の司馬ちゅうたつじょうげんで対陣中に病死した。仲達は追撃を開始したが、蜀軍は反撃するように見せかけた。仲達は孔明がまだ死んでいないのではないかと恐れ、退却したという故事から。原典では「死せる諸葛生ける仲達を走らす」となっている。
  • 十八史略 … 七巻。元のそうせん撰。『史記』から『新五代史』までの十七の正史に、宋代の史書を加えて十八史とし、その概要を編年体でまとめたもの。史料的価値はほとんどないが、我が国では初学者のための入門書として広く読まれており、特に江戸時代には『論語』『唐詩選』とともに、初学者の必読書とされた。ウィキペディア【十八史略】参照。
〔十八史略、三国〕
亮數挑懿戰。
りょう数〻しばしばたたかいをいどむ。
  • 亮 … 181~234。三国時代、蜀の軍師。姓は諸葛、諱は亮、あざなは孔明。ウィキペディア【諸葛亮】参照。
  • 数 … 「しばしば」と読み、「たびたび」と訳す。書き下し文では「〻」(二の字点)が用いられ、「数〻しばしば」と表記されることが多い。
  • 懿 … 179~251。三国時代、魏の武将。姓は司馬、諱は懿、あざなは仲達。ウィキペディア【司馬懿】参照。
懿不出。
でず。
乃遺以巾幗婦人之服。
すなわおくるに巾幗きんかくじんふくもってす。
  • 遺 … 贈る。
  • 巾幗 … 女性が髪を包む布。女性の髪飾り。
亮使者至懿軍。
りょう使しゃぐんいたる。
懿問其寢食及事煩簡、而不及戎事。
しんしょくおよこと煩簡はんかんうて、じゅうおよばず。
  • 事煩簡 … 仕事が忙しいか、暇か。
  • 戎事 … 軍事。
使者曰、諸葛公夙興夜寐、罰二十以上皆親覽。
使しゃいわく、諸葛しょかつこうつとき、よわね、ばつじゅうじょうは、みなみずかる。
  • 夙興夜寐 … 朝は早くから起き、夜は遅くなってから休む。日夜、政務に励むこと。「夙」は朝早いこと。「寐」は眠ること。『詩経』衛風・氓篇、小雅・小宛篇、大雅・抑篇に見える言葉。
  • 罰二十 … 杖で二十打つ軽い刑罰。むち打ち二十回の刑。
  • 親 … 「みずから」と読む。自分で。直接に。
  • 覧 … 目を通す。調べる。
所噉食、不至數升。
たんしょくするところは、すうしょういたらず、と。
  • 噉食 … 食事。「噉」は「啖」と同じ。食べること。
  • 数升 … 我が国の三、四合程度。
懿告人曰、食少事煩、其能久乎。
ひとげていわく、しょくすくなくことわずらわし、ひさしからんや、と。
  • 煩 … 多忙である。忙しい。
  • 其能久乎 … どうして長生きできるだろうか、いやできないだろう。「乎」は「~んや」と読み、「~だろうか、いや~ない」と訳す。反語を表す。
亮病篤。
りょうやまいあつし。
  • 病篤 … 病気が重態である。重病である。
有大星、赤而芒、墜亮營中。
大星たいせいり、あかくしてぼうあり、りょうえいちゅうつ。
  • 大星 … 大きな星。
  • 芒 … 尾を引いた光。
  • 営中 … 軍営の中。陣中。
未幾亮卒。
いまいくばくならずしてりょうしゅっす。
  • 未幾 … (それから)いくらもたたないうちに。「未」は「いまだ~(せ)ず」と読み、「まだ~しない」と訳す。再読文字。「幾」は「いくばく」と読み、「いくらか」「どれくらい」「多少」などと訳す。
  • 卒 … 「しゅっす」と読む。身分の高い人が死ぬ。
長史楊儀、整軍還。
ちょうようぐんととのえてかえる。
  • 長史 … 官名。丞相じょうしょうの次官。役人の監督にあたる。
  • 楊儀 … 諸葛亮の参謀。あざなは威公。ウィキペディア【楊儀】参照。
百姓奔告懿。
ひゃくせいはしってぐ。
  • 百姓 … 「ひゃくせい」と読む。人民のこと。農民ではない。ここでは「付近の人々」「土地の人々」の意。
  • 奔 … 急いで駆けつける。
懿追之。
これう。
  • 之 … 楊儀の軍を指す。
姜維令儀反旗鳴鼓、若將向懿。
きょうをしてはたかえらし、まさむかわんとするがごとくせしむ。
  • 姜維 … 202~264。三国時代、蜀の将軍。あざなは伯約。諸葛亮の死後、蜀の軍を率いて魏と戦った。ウィキペディア【姜維】参照。
  • 令儀 … 楊儀に命令して。「令」は使役を表す。「~をして…(せ)しむ」と読み、「~に…させる」と訳す。「使」「遣」「教」も同じ。
  • 反旗 … 旗の向きを変える。逃げるのをやめ、進撃させる。
  • 鳴鼓 … 進撃の太鼓を鳴らす。
  • 将 … 再読文字。「まさに~(せ)んとす」と読み、「これから~しようとする」と訳す。
  • 若 … 「~のごとし」と読み、「~のようだ」と訳す。比況を表す。
懿不敢逼。
えてせまらず。
  • 不敢 … 「あえて~せず」と読み、「決して~しない」「進んで~しようとしない」と訳す。
  • 逼 … 迫る。近づこうとする。
百姓爲之諺曰、
百姓ひゃくせいこれためことわざしていわく、
死諸葛、走生仲達
せる諸葛しょかつけるちゅうたつはしらしむ、と。
  • 仲達 … 司馬懿の字。
  • 走 … 逃げる。敗走する。
懿笑曰、吾能料生、不能料死。
わらいていわく、われせいはかれども、はかることあたわず、と。
  • 料生 … 生きている者の計略を推し量る。「料」は推し量る。見当をつける。
  • 料死 … 死んだ者の計略を推し量る。
あ行 か行 さ行
た行 な行 は行
ま行 や行 ら行・わ
論語の名言名句