喪親章第十八
〔喪親章第二十二〕(古文)
子曰、孝子之喪親也、哭不偯。
子曰、孝子之喪親也、哭不偯。
子曰く、孝子の親を喪うや、哭して偯せず。
- この章は、親を亡くして葬儀から祭祀までの、親孝行な子としてなすべきことを詳しく説いている。
- 喪親 … 親を喪う。親を亡くす。
- 古文では「喪親章第二十二」に作る。
- 孝子之喪親也 … 親孝行な子が親を亡くしたときには。親孝行な子が父母の喪に服するときには。
- 孝子 … 親孝行な子。
- 哭不偯 … 大声をあげて泣くけれども、その泣き声は細く長く尾を引くことはしない。「不」は、古文では「弗」に作る。
- 偯 … 泣き声が細く長く尾を引くこと。古文では「依」に作る。
禮無容、言不文、服美不安、聞樂不樂、食旨不甘。此哀慼之情也。
礼は容つくる無く、言は文らず、美を服して安からず、楽を聞いて楽しまず、旨きを食らいて甘からず。此れ哀慼の情なり。
- 礼無容 … 喪礼では容儀を取り繕うことがない。
- 言不文 … 言葉を交わすときも飾ることがない。「不」は、古文では「弗」に作る。
- 服美不安 … 美しい衣服を着ても落ち着かない。「不」は、古文では「弗」に作る。
- 聞楽不楽 … 音楽を聴いても楽しめない。「不」は、古文では「弗」に作る。
- 食旨不甘 … 旨いものを食べても美味しく感じない。「不」は、古文では「弗」に作る。
- 此哀慼之情也 … これは、父母の死を悼み哀しむ親孝行な子の心情である。
- 哀慼 … 人の死を哀しみ悼むこと。「慼」は、うれえる。「哀戚」も同じ。
三日而食、教民無以死傷生、毀不滅性。
三日にして食するは、民に死を以て生を傷ること無く、毀つも性を滅せざることを教う。
- 三日而食 … 親が死んで三日後に食事を摂るというのは。
- 教民無以死傷生、毀不滅性 … 死んだ者のために、生きている者が身体を損なうことなく、悲しみのあまり、痩せ衰えて生命まで滅ぼすことのないように、人民に教えたものである。古文では「傷生」の後ろに「也」の字がある。
- 以死傷生 … 死者のために生命を害すること。
- 毀 … 痩せて衰弱すること。
- 滅性 … 悲しみのあまり、生命を滅ぼすこと。
此聖人之政也。
此れ聖人の政なり。
- 此聖人之政也 … これが聖人の定められた掟である。
- 政 … ここでは政治上の制度。掟。古文では「正」に作る。
喪、不過三年、示民有終也。
喪、三年に過ぎざるは、民に終り有るを示すなり。
- 喪、不過三年 … 喪に服する期間が三年を超えないというのは。
- 三年 … 足掛け三年。数え年の数え方で三年目、すなわち二十四ヵ月プラス一日のこと。
- 示民有終也 … ものには一定の期限があるということを人民に教え示されたのである。
爲之棺椁衣衾而舉之、陳其簠簋、而哀戚之、擗踊哭泣、哀以送之。
之が棺椁衣衾を為って之を挙げ、其の簠簋を陳ねて、之を哀戚し、擗踊哭泣して、哀しんで以て之を送る。
- 為之棺椁衣衾而挙之 … 尸を納める内棺と外棺を作り、尸に着せる斂衣と尸を包む衾被を作って、遺体を納棺する。
- 棺椁 … 「棺」は、尸を納める内棺。「椁」は、尸を納める外棺。古文では「槨」に作る。同字。
- 衣衾 … 「衣」は、斂衣。尸に着せる衣。「衾」は、衾被。尸を包む寝衣。
- 而挙之 … 遺体を納棺する。古文では「以挙之」に作る。
- 陳其簠簋 … 霊前に供物を盛った祭器を並べる。
- 簠簋 … 供物用の祭器。
- 哀戚 … 悼み哀しむ。古文では「哀慼」に作る。
- 擗踊 … 「擗」は、女性が手で胸を打つこと。「踊」は、男性が足で地団駄を踏むこと。葬式のとき、ひどく悲しんで悶え泣く風習があった。
- 哭泣 … 大声をあげて泣くこと。泣き叫ぶこと。
- 擗踊哭泣 … 古文では「哭泣擘踴」に作る。
- 哀以送之 … 泣き悲しんで棺を墓地へと見送る。
卜其宅兆、而安措之、爲之宗廟、以鬼享之、春秋祭祀、以時思之。
其の宅兆を卜して、之を安措し、之が宗廟を為って、鬼を以て之を享し、春秋に祭祀し、時を以て之を思う。
- 卜其宅兆 … あらかじめ棺を葬る墓穴と墓地を占って決めておく。
- 宅兆 … 墓穴と墓地。
- 卜 … 占うこと。
- 安措之 … 棺を安置する。
- 為之宗廟 … 父母の位牌を祀る宗廟を立てる。
- 以鬼享之 … 父母の霊を鬼神として祀る。
- 鬼 … 死者の霊魂。祖先の霊魂。鬼神。
- 享 … 祀ること。
- 春秋祭祀、以時思之 … 春夏秋冬の祭祀には、季節の供物を供えて父母を思慕して已まない。
- 春秋 … 春夏秋冬のこと。
- 以時 … 季節の供物を供えて。
生事愛敬、死事哀戚。
生けるに事うるには愛敬し、死せるに事うるには哀戚す。
- 生事愛敬 … 父母が在世中は愛敬の念をもって仕える。
- 愛敬 … 愛し敬う。敬い親しむ。
- 死事哀戚 … 父母の死後は哀戚の情をもって祀る。
- 哀戚 … 悼み哀しむ。古文では「哀慼」に作る。
生民之本盡矣。
生民の本尽くせり。
- 生民之本尽矣 … それでこそ人間としての根本である孝道が尽くされている。
- 生民 … 人間。
- 本 … 根本。本分。
死生之義備矣。
死生の義備われり。
- 死生之義備矣 … 生きている父母に仕え、死んだ父母に仕えることの道理が完全に具備されている。
- 死生 … 死者と生者。生きている間の父母と、死んだあとの父母を指す。
- 義 … 本義。根本の意義。道理。古文では「誼」に作る。
孝子之事親終矣。
孝子の親に事うること終れり。
- 孝子之事親終矣 … ここに至って、親孝行な子としてなすべきことが完全に終了したのである。
- 孝子 … 親孝行な子。
- 親 … 古文にはこの字なし。
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