卿大夫章第四
〔卿大夫章第四〕(古文)
非先王之法服、不敢服。
非先王之法服、不敢服。
先王の法服に非ざれば、敢えて服せず。
- この章は、卿大夫の孝道について述べている。
- 卿大夫 … 「卿」は大臣。朝廷に仕える高官。諸侯に次いで高い位。「大夫」は卿の下の位。
- 古文も章名は同じ。
- 非先王 … 古文では「子曰、非先王」に作る。
- 先王 … 昔の優れた王。聖王。
- 非先王之法服 … 先王が定められた礼法にかなった衣服でなければ。
- 不敢服 … 決して身にまとわない。決して身に着けない。「不」は、古文では「弗」に作る。
- 敢 … 決して。断じて。
非先王之法言、不敢道。
先王の法言に非ざれば、敢えて道わず。
- 非先王之法言 … 先王が定められた礼法にかなった言葉でなければ。
- 不敢道 … 決して言わない。「不」は、古文では「弗」に作る。
- 道 … 「いう」と読む。言う。述べる。俗語。
非先王之徳行、不敢行。
先王の徳行に非ざれば、敢えて行わず。
- 非先王之徳行 … 先王が定められた道徳にかなった正しい行いでなければ。
- 徳行 … 道徳にかなった正しい行い。
- 不敢行 … 決して行わない。「不」は、古文では「弗」に作る。
是故非法不言、非道不行。
是の故に法に非ざれば言わず、道に非ざれば行わず。
- 是故 … このようなわけで。
- 非法不言 … 礼法にかなっていなければ、何も言わない。「不」は、古文では「弗」に作る。
- 非道不行 … 道徳にかなっていなければ、何も行わない。「不」は、古文では「弗」に作る。
口無擇言、身無擇行。
口に択言無く、身に択行無し。
- 口無択言 … 言うべき言葉を選ばなければならないということがない。「口」は、言うこと。しゃべること。
- 択言 … 言葉を選ぶこと。
- 身無択行 … 行動においても、善と悪とを選択しなければならないということがない。「身」は、身の振る舞い。行動。
- 択行 … 善と悪とを選り分ける行い。
言滿天下無口過、行滿天下無怨惡。
言、天下に満つれども口過無く、行い、天下に満つれども怨悪無し。
- 言 … その言葉。
- 満天下無口過 … 天下いたるところに満ち広がっても、口に失言がない。「無」は、古文では「亡」に作る。
- 口過 … 言うべきでないことを言うこと。失言。
- 行 … その行い。
- 満天下無怨悪 … 天下いたるところに満ち広がっても、恨み憎まれることがない。「無」は、古文では「亡」に作る。
- 怨悪 … 恨み憎む。
三者備矣、然後、能守其宗廟。
三つの者備わり、然る後、能く其の宗廟を守る。
- 三者 … 先王が定められた法服・法言・徳行の三つを指す。
- 備 … 完全に備わる。完備される。
- 然後 … 「しかるのち」と読み、「そうしてはじめて」と訳す。
- 然後能 … 古文では、この後に「保其祿位而」の五文字がある。これは「其の禄位を保って」と読み、「お上から頂いた俸禄・地位を無事に保って」と訳す。
- 能守其宗廟 … 祖先の霊を祀った廟を末永く守り続けることができる。
- 宗廟 … 祖先の霊を祀った建物。廟。
蓋卿大夫之孝也。
蓋し卿大夫の孝なり。
- 蓋 … 「けだし」と読み、「それがまあ」「たぶん」「思うに」「考えてみるのに」と訳す。
- 卿大夫之孝也 … 卿・大夫たる者の孝行というものである。
詩云、夙夜匪懈、以事一人。
詩に云う、夙夜懈らず、以て一人に事う、と。
- 詩 … 『詩経』大雅・烝民篇の一節。ウィキソース「詩經/烝民」参照。
- 夙夜 … 朝早くから夜遅くまで。「夙」は、朝早く。早朝。
- 匪懈 … 怠らず。怠ることなく。
- 懈 … 怠る。怠惰。
- 匪 … 「~ず」「あらず」と読み、「~でない」と訳す。「非」と同義。
- 以事一人 … かくて天子一人にお仕えする。「一人」は、天子を指す。
今文孝経 | |
開宗明義章第一 | 天子章第二 |
諸侯章第三 | 卿大夫章第四 |
士章第五 | 庶人章第六 |
三才章第七 | 孝治章第八 |
聖治章第九 | 紀孝行章第十 |
五刑章第十一 | 広要道章第十二 |
広至徳章第十三 | 広揚名章第十四 |
諫争章第十五 | 応感章第十六 |
事君章第十七 | 喪親章第十八 |
閨門章第十九(古文のみ) |