諸侯章第三
〔諸侯章第三〕(古文)
在上不驕、高而不危。
在上不驕、高而不危。
上に在りて驕らざれば、高けれども危うからず。
- この章は、諸侯の孝道について述べている。
- 諸侯 … 諸国を支配した君主。天子に次いで高い位。
- 古文も章名は同じ。
- 在上 … 地位が上であっても。人の上に立っても。古文では「子曰、居上」に作る。
- 不驕 … 驕り高ぶらなければ。
- 高 … 「高くとも」と読んでもよい。高い位にいても。地位が高くても。
- 而 … 直前の語に「~ども」「~も」をつけて読み、「而」自体は読まない。逆接の意を示す。
- 不危 … 身を滅ぼし、国を亡ぼすような危険はない。
制節謹度、滿而不溢。
節を制し度を謹めば、満つれども溢れず。
- 制節 … 無駄を省き、出費を少なくすること。節約。倹約。「制」は、物事を切り盛りすること。「節」は、節度を守ること。
- 謹度 … 行いを控えめにすること。限度を弁えて慎み守ること。「度」は、限度。制限。
- 満 … 「満つるとも」と読んでもよい。財貨が満ち足りても。
- 不溢 … 溢れ出る心配はない。溢れ出てなくなる心配はない。
高而不危、所以長守貴也。
高けれども危うからざるは、長く貴きを守る所以なり。
- 高 … 「高くとも」と読んでもよい。高い位にいても。地位が高くても。
- 不危 … 身を滅ぼし、国を亡ぼすような危険がないことは。
- 所以長守貴也 … 末永く高貴な地位を守る手段である。
- 貴 … 高い地位。一説に、お金持ちのこと。
滿而不溢、所以長守富也。
満つれども溢れざるは、長く富を守る所以なり。
- 満 … 「満つるとも」と読んでもよい。財貨が満ち足りても。
- 不溢 … 溢れ出る心配がないのは。溢れ出てなくなる心配がないのは。
- 所以長守富也 … 末永く豊かな財産を守る手段である。
- 富 … 豊かな財産。富裕。
富貴不離其身、然後、能保其社稷、而和其民人。
富貴は其の身を離れず、然る後、能く其の社稷を保って、其の民人を和す。
- 富貴 … 金持ちや地位が高いこと。
- 不離其身 … その身から離れることはない。
- 然後 … 「しかるのち」と読み、「そうしてはじめて」と訳す。
- 能保其社稷 … 国家を安泰に保って。
- 社稷 … 国家・王朝をいう。社は、土地の神。稷は、五穀の神。この二神を国の守り神として必ず祭った。双声(二字の語頭子音が同じ)語。
- 和其民人 … 領地内の人民を平和に治める。
- 民人 … 人民。一般の人々。
蓋諸侯之孝也。
蓋し諸侯の孝なり。
- 蓋 … 「けだし」と読み、「それがまあ」「たぶん」「思うに」「考えてみるのに」と訳す。
- 諸侯之孝也 … 諸侯たる者の孝行というものである。
詩云、戰戰兢兢、如臨深淵、如履薄冰。
詩に云う、戦戦兢兢として、深淵に臨むが如く、薄氷を履むが如し、と。
- 詩 … 『詩経』小雅・小旻篇の一節。ウィキソース「詩經/小旻」参照。
- 戦戦兢兢 … 恐れてびくびくする様子。恐れて戒め慎む様子。
- 如臨深淵 … 深い淵に臨むように。非常に危険な立場にあることの喩え。
- 如履薄氷 … 薄い氷の上を歩くように。非常に危険な状態にあって恐れおののき、自らを戒め慎んで行動することの喩え。
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