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三才さんさい章第七

〔三才章第八〕(古文)
曾子曰、甚哉、孝之大也。
そういわく、はなはだしいかな、こうだいなるや。
  • この章は、孝道が天・地・人の宇宙を構成するすべてのものに関わっており、最高の原理となっていることを述べている。
  • 三才 … 宇宙を構成する天・地・人を指す。三極。三儀。三元。
  • 古文では「三才章第八」に作る。
  • 曾子 … 孔子の弟子で、姓はそう、名はしんあざな子輿しよ。ウィキペディア【曾子】参照。
  • 甚哉、孝之大也 … 偉大なものですね、孝行というものは。
子曰、夫孝天之經也、地之義也、民之行也。
いわく、こうてんけいなり、なり、たみおこないなり。
  • 夫 … そもそも。
  • 天之経 … 天の不変の法則。
  • 地之義 … 地上の秩序。地上の原則。地上の道理。古文では「地之誼」に作る。
  • 民之行 … 人間の当然なすべき行為。
天地之經、而民是則之。
てんけいにして、たみこれのっとる。
  • 天地之経 … 孝行は天地不変の法則であるから。
  • 民是則之 … 人々はこれを手本とする。「之」は孝を指す。
則天之明、因地之利。以順天下。
てんめいのっとり、り、もってんしたがう。
  • 則天之明 … 太陽と月が万物を明らかに照らすという、天の不変の法則に則る。
  • 因地之利 … 大地が万物を育む利益に従う。
  • 以順天下 … それで天下の人々を帰順させる。
  • 順 … 古文では「訓」に作る。
是以其教不肅而成、其政不嚴而治。
ここもっおししゅくならずしてり、まつりごとげんならずしておさまる。
  • 是以 … 「ここをもって」と読み、「こういうわけで」「このゆえに」「それゆえに」「だから」と訳す。「以是」は「これをもって」と読み、「この点から」「これにより」「これを用いて」と訳す。
  • 其教不粛而成 … 聖人の教えは、ことさら厳粛にしなくても自然に行われる。
  • 其政不厳而治 … 聖人の政治は、ことさら厳格にしなくても自然に治まる。
先王見教之可以化民也。
先王せんおうおしえのもったみきをるなり。
  • 先王 … 昔の優れた王。聖王。
  • 見教之可以化民也 … 孝道に基づいた教えが人民を感化できたことを承知していた。
是故先之以博愛、而民莫遺其親。
ゆえこれさきんずるに博愛はくあいもってして、たみおやわするることし。
  • 先之以博愛 … 人民に率先して、広く分け隔てなく愛することを推し進めた。
  • 博愛 … 広く分け隔てなく愛すること。
  • 民莫遺其親 … 人民は自分の親を愛することを忘れなどしなくなった。
  • 遺 … 忘れる。
陳之以徳義、而民興行。
これぶるにとくもってして、たみおこおこなう。
  • 陳之以徳義 … 先王は人民に述べ説くのに、道徳の筋道に基づいてなされた。
  • 陳 … 述べる。説く。陳述する。
  • 徳義 … 道徳の筋道。古文では「徳誼」に作る。
  • 民興行 … 人民はそれに感化され、奮起して徳を行うようになった。
  • 興行 … 奮起して徳の行いに努めること。
先之以敬讓、而民不爭。
これさきんずるにけいじょうもってして、たみあらそわず。
  • 先之以敬先之以敬讓 … 人民に率先して、恭敬謙譲に基づいて人民に臨まれた。
  • 敬譲 … 相手を尊敬し、慎んで人に譲ること。恭敬謙譲。
  • 民不争 … 人民はそれに感化され、争わなくなった。
導之以禮樂、而民和睦。
これみちびくに礼楽れいがくもってして、たみぼくす。
  • 導之以礼楽 … 人民を指導するのに、礼儀と音楽に基づいてなされた。
  • 礼楽 … 礼儀と音楽。礼儀は行いを慎ませ、音楽は人の心を和らげるもの。これによって古代社会の秩序を正しく守らせた。
  • 民和睦 … 人民はそれに感化され、心和らぎ仲睦まじくなった。
示之以好惡、而民知禁。
これしめすにこうもってして、たみきんる。
  • 示之以好悪 … 人民を教示するのに、善を好み、悪をにくむことに基づいてなされた。
  • 禁 … 民は国に禁令のあることを知り、犯罪をしなくなった。
  • 禁 … 禁令。
詩云、赫赫師尹、民具爾瞻。
う、赫赫かくかくたるいんたみともなんじる、と。
  • 詩 … 『詩経』小雅・節南山せつなんざん篇の一節。ウィキソース「詩經/節南山」参照。
  • 赫赫師尹 … 権勢の盛んなたいいん
  • 赫赫 … 光り輝くさま。転じて、勢いが盛んなさま。
  • 師 … たい。三公の一つ。三公とは、周代の文官の最高位。太師・たいたい
  • 尹 … 人名。尹氏。
  • 民具爾瞻 … 人民がともに仰ぎ見るところである。
  • 具 … 「ともに」と読む。ともに。いっしょに。
  • 爾 … 尹氏の言動や振る舞いを指す。
  • 瞻 … 「みる」と読む。仰ぎ見る。
今文孝経
開宗明義章第一 天子章第二
諸侯章第三 卿大夫章第四
士章第五 庶人章第六
三才章第七 孝治章第八
聖治章第九 紀孝行章第十
五刑章第十一 広要道章第十二
広至徳章第十三 広揚名章第十四
諫争章第十五 応感章第十六
事君章第十七 喪親章第十八
閨門章第十九(古文のみ)